戦いの始まり
セイヤは弓を構え、アスタルテに聞いた。
「あんた、どうしてここへ……」
「お前に地図を渡したのはあたしだよ。お前が行くところなんてすぐにわかる」
「じゃなくて、いいのかよ? 聖女と敵対して」
「構わないさ。それに、お前とお嬢ちゃんが知らないところで、追手の聖女を始末したのはあたしさ。どのみち、最初から睨まれてる」
アスタルテは剣を構えていた。
セイヤは、アスタルテが剣を使って戦うのは知っていたが、炎の力を見たのは初めてだった。
さらに、ヒジリが構える。
「主。聖女様、こちらが圧倒的に不利です」
国境の町入口。
敵の聖女は二十人。主だった戦力はエクレール、フローズン、ウィンダミア、アストラル。そしてオージェとクリシュナだ。
アスタルテは、セイヤに言う。
「セイヤ、気を付けな。お前の幼馴染だが……新人のくせにかなりの使い手だ」
「……わかった。俺は離脱してアシストする。ヒジリ、危険だけど……」
「お任せください」
「黒髪……お嬢ちゃん、あんたまさか」
アスタルテは何かに気付いたが、首を振る。
セイヤは離脱の隙を伺い、アスタルテに聞く。
「あんた、この数でも大丈夫か?」
「……馬鹿を言うガキだね。あたしを誰だと思ってる?」
「え……」
アスタルテの剣が炎を帯びる。
そして、敵聖女の一人が恐れるような声で言う。
「あ、アレクサンドロス聖女王国、聖女部隊筆頭……『
「元、さ」
「ええい!! さっさとかかりな!! 数で押しちまえばこっちの勝ちさね!!」
クリシュナが叫び、若い聖女たちがセイヤたちに殺到する。
セイヤの捕獲による王国の恩恵が目当てだろう。だが、目先の欲に走る愚かな思考では、アスタルテには決して届かない。
「『
炎を纏った剣が、踊るように動く。
アスタルテ自身も動いた。魔力による身体強化をしながらの動きは風のように素早く、飛び掛かった聖女五人が、血を噴き出しながら燃え上がった。
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」」」
「「あががぁぁぁぁっ!?」」
「悪いが手加減しない。死ぬ気で来な」
「…………」
アスタルテは強かった。
それこそ、クリシュナが連れてきた聖女なんて目じゃない。
セイヤとカグヤは動かず、政治が屠られる様子を見ていた。
クリシュナも、額に青筋を浮かべて歯ぎしりをする。
「おのれ、アスタルテ!!」
「ババア……雑魚ばかりの相手は暇だね。そっちの有望聖女もどうだい?」
アスタルテは、エクレールたちに剣を向けるが、エクレールたち四人の表情は変わらない。
彼女たちを止めていたのは、オージェだった。
「どうかしら、エクレール」
「うん、強いね。さっすが王国の聖女!」
母と娘の会話は、どこまでもいつも通りな雰囲気だ。
オージェはエクレールの、フローズンの、ウィンダミアの、アストラルの頭に触れる。
「私が直接あなたちの思考にアクセスする。私の言う通りに動きなさい」
「は~い」
「わかりましたわ、おばさま」
「いいけどよ、セイヤをぶん殴るのはアタシに任せな」
「ふひひ……最強の聖女アスタルテ、勝てるかなぁ?」
そして───エクレールたちが動く。
残りの聖女たちも動き、ヒジリも動いた。
セイヤは矢を抜いて番える。
「セイヤ、アシストは任せたよ!!」
「わかった!! ヒジリ、無理はするなよ!!」
「はい!!」
アスタルテが聖女とぶつかり、ヒジリも斧を持った聖女と戦いを始める。
エクレールたちは、真っすぐセイヤに向かって来た。
「せ~~~~ぃぃやぁぁぁぁぁっ!!」
「エクレール!!」
セイヤは迷うことなく、エクレールに向かって矢を放った。
◇◇◇◇◇◇
エクレールに向けて迷わず射った。
狙いは右腕───まともに当たれば腕がねじ切れる。
「あははははっ!! 『
「!?」
エクレールが左手を真横に突き出した途端、矢の軌道が変わって民家に突き刺さった。
電磁力を使用し金属製の矢の軌道を変えたのだ。
エクレールは右手に紫電を纏わせ、魔力による身体強化を加え接近する。
「お仕置きぃぃぃぃ~~っ!! 『
「くっ───っ」
セイヤは『鷹の目』で視力を強化。同時に身体強化。
エクレールほどではないが、身体能力がアップする。
エクレールとの距離は数メートルにまで接近し、エクレールが右手を手刀のようにして突き出してきた。
「あら?」
だが───セイヤは躱した。
首をひねり、突きを回避したのだ。
ずっとアスタルテの元で修行してきたセイヤにとって、見え見えの手刀突きを躱すのはそう難しくない。
目にも止まらぬ速度でコンパウンドボウをロッドに変形させ、エクレールの側頭部めがけて横に薙いだ。
エクレールは突きを躱されて無防備───。
「おいおい、アタシらを忘れんなよ」
「───っ!?」
オリハルコン製のコンパウンドボウが、エクレールの脇から伸びた手によって弾かれた。
そう、敵は一人じゃない……緑色のショートヘアの少女、ウィンダミアだ。
「そういやぁよぉ……アタシら四人と遊ぶの、久しぶりじゃねぇか」
「っ……」
「そうですわね。ふふ……」
ゾワリと、セイヤの背後に冷気が。
比喩ではない、本当の冷気。それは……全身から冷気を発している少女、フローズンだ。
「あぁぁ~……うちは新薬の実験したいなぁ。でもま、たまには魔法でね?」
さらに、セイヤの右足が脛辺りまで急に埋まった。
がくんと体勢を崩す。なぜか、右足の地面だけサラサラの砂になっていた。
アストラル。『
「せ~い~やっ!!」
「っ!!」
そして───ほんの少し先、ほぼ目の前には。
薄い紫色の長いツインテールを揺らしたエクレールがいた。
目が蘭々と輝いている……それは、今まで何度も見た、セイヤを苛めていた時によく見た目だった。
セイヤの身体が、急に重くなった。
魔法じゃない。虐められていたころのトラウマが、少しずつ蘇っていたのだ。
「あ、ぁ……」
「ふふ、今までの分、た~っぷりお返ししてあげるね?」
「え、エクレール……」
バチバチと、エクレールの手が発光……スパークした。
そのままゆっくりと、セイヤに近づいてくる。
フローズン、ウィンダミア、アストラルは嗤っていた。
どこまでも、凶悪な笑みを───。
「主!!」
「ッッ!! なに、あんた……」
だが、セイヤとエクレールの間にヒジリが割り込んだ。
ヒジリはセイヤの背後から、エクレールに向けて飛び蹴りを放っていた。が、エクレールはその蹴りをバックステップで回避……セイヤとの距離が開く。
「ヒジリ……」
「主!! こんなところで折れないで!! 私との約束を!!」
「……ぁ」
そうだ。
セイヤは、ヒジリの復讐を手伝うのだ。
こんなところで、負けている場合ではない。
過去に、ケリを付けなくてはならない。
「そうさ。セイヤ、こんなところで諦めるんじゃないよ」
「アスタルテ……」
セイヤは自分の後ろを確認すると……クリシュナが連れてきた聖女が全員、倒れていた。
これで残りはクリシュナ、オージェ、幼馴染四人だけ。
そうだ。こんなところで負けてはいられない。
「……っ!!」
セイヤは、コンパウンドボウを強く握りしめた。
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