第三章
セイヤを探せ
セイヤが村から逃げ出した数日後───聖女村では、聖女たちが旅の支度をしていた。
聖女神教の大司祭の一人アウローラが、セイヤ捕獲命令を全ての聖女に通達したのだ。
セイヤを捕獲した聖女の望みをなんでも一つ叶えるという報酬付きで。
この報酬に、聖女村で燻っていた聖女たちはすぐに動きだした。
聖女村に滞在している聖女のほとんどは、聖女神教やアレクサンドロス聖女王国の《選抜》で選ばれなかった聖女たちだ。
村を出て自由に暮らす『背信の輩』になるわけでもなく、何か仕事をするわけでもなく……ヤルダバオトの『受胎』という奇跡がその身に起こるまで、何不自由なく村で暮らしていた。
聖女村の聖女たちの年代は、十代から七十代まで幅広い。
そのほとんどが、セイヤ捕獲のために動きだした。
当然、聖女として成人した少女たちも……。
「で、どうする?」
ウィンダミアが、退屈そうに言った。
ここはエクレールの家。エクレールの部屋に集まったのは四人。
かつてセイヤを苛めていた、エクレール、フローズン、ウィンダミア、アストラルだ。
ウィンダミアの質問に答えたのはフローズン。
「決まっていますわ。セイヤくんを探して捕獲……」
「何をお願いする?」
「お願い?……そうですわね、私だけの家畜小屋とか。実は私、奴隷商館を経営してみたくて……」
「マジかよ……」
フローズンはカタカタ震え、息を荒くして顔は紅潮していた。
「ふふ、ふふふ……セイヤくんを飼い殺し。男を檻に入れて並べて可愛がって……はぁ、はぁ」
「気持ち悪いなぁ……で、アストラルは?」
「ん~……自分の研究室が欲しいかも。いっぱい開発した新薬、セイヤくんで試せなくなっちゃったしぃ、そのへんの男で実験するしかないっぽい」
「ふーん」
ウィンダミアは大きな欠伸をした。
アストラルは少しムッとし、ウィンダミアに聞く。
「そういうウィンダミアちゃんは何願うのー?」
「アタシは自分の流派を立ち上げる。家の連中じゃもうアタシに適わねーし、セイヤをボコりてぇんだけどよ、もうできねぇしな……」
「うわー、脳筋」
「やっかましい。で、エクレール……ん? おいエクレール」
「…………」
ずっと黙っていたエクレール。
膝を抱えて座り、つまらなそうにしていた。
「セイヤ、勝手にいなくなって……あたしの犬のくせに」
「おい、エクレール」
「エクレールちゃん?」
「あんま爪を噛まないほうがいいよ~?」
ウィンダミア、フローズン、アストラルが話しかけるが、上の空だ。
エクレールは立ち上がる。
「決めた。あたし、セイヤ探してこよっと」
「探すって……どこに行ったかわかんねーだろ」
「大丈夫。お母さんの能力ならわかるかも。おばあちゃんもなんか準備してるし、セイヤがどこにいったか聞けばわかる」
「じゃあ、行くか」
ウィンダミアが拳をパンと打ち付ける。
「セイヤは、あたしのだもん……誰にも渡さないし」
「そうですわね。ふふ、楽しくなってきましたわ」
「引き渡す前に、逃げ出したお仕置きしねぇとなぁ」
「あぁ~、セイヤくんにお薬飲ませたぁい!」
四人の幼馴染たちは、セイヤを捕らえるべく動き始めた。
◇◇◇◇◇◇
「おかーさん、セイヤはどこ?」
エクレールは、自宅にいた母に質問した。
母オージェの魔法は『
オージェは、エクレールに言う。
「……あなたも行くのかしら?」
「もちろん。セイヤはあたしのだもん。あたしが好きにするんだもん」
「……そうね。あなたも成人したし、追う権利はあるわ」
オージェは、エクレールと一緒にいる三人に視線を移す。
セイヤを苛めていた主犯とも呼べる四人だ。だが、そんな苛めは村で当たり前だったのでどうでもいい。問題は、四人の力。
「『
「おかーさん?」
「北。セイヤは北に向かった……村に残されたモノでわかったのはこれくらい。おそらく、ヤヌズの町を経由してどこかへ向かうつもりだと思うわ。今、村の『
「おかーさん……ありがとう!」
四人は解散し、荷造りをするために自分の家へ。
エクレールも二階に上がり、支度を始めた。
「もう大人なのねぇ……」
子供の成長は早い。
オージェはそう思い、微笑を浮かべていた。
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