マジョリーはお怒りです

「ガキぃぃぃぃ~~~っ!! あたしの腕の落とし前、つけさせてもらおうか!!」


 植木鉢を持った男たちがマジョリーの背後に並ぶ。

 なんで植木鉢?と思ったがすぐにわかった。マジョリーの能力は《蔦》……木や植物に蔦を生やし、それを自在に操るのだ。

 男たちが戦うんじゃない。男たちの役目は植木鉢を持ち移動することだ。

 俺はコンパウンドボウをロッド形態にしてクルクル回す。


「主。私も戦います」

「いや、逃げるぞ。騒ぎになったら……まぁ、もう騒ぎになってるか。とりあえず、ここを切り抜けて武器屋に行こう」

「わかりました。では……ここで義足と義手を酷使しても問題ありませんね」

「え? ああうん」

「では、参ります」


 ヒジリはいきなり飛び出し、男の持つ植木鉢を蹴り割った。

 右の蹴りで植木鉢が割れ───ヒジリの義足に亀裂が入る。


「なっ……この、穴の分際で!! 伸びなっ!!」


 別の男が持つ植木鉢から蔦が伸び、ヒジリを拘束しようとする。

 だがヒジリは後ろ向きに飛び、クルクル回りながら回避した……なんて身軽。義足だってのに。

 ヒジリは蔦を回避しながら植木鉢を破壊。あっという間に鉢は叩き壊された。


「まだ続けますか? 視界に入る植物では、私と主を捕らえることはできませんよ」

「ぐ、ぬぬうぅぅぅっ……忌々しいガキと穴め!!」

「すっげぇ……おっと、ここらが引き時だな。ヒジリ、行くぞ」


 けっこうな騒ぎになり、人が集まってきた。

 俺はヒジリを抱え、魔力を足に集中───宿屋の屋根に飛び移り、そのまま走り去った。

 

 朝から面倒なこった。さっさと武器屋に行こう。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………今のは」


 マジョリーは、逃げられたことより、セイヤが魔力・・を使ったことに驚いた。

 聖女は、幼いころから魔法の訓練をする。他者の魔力の流れを見ることなど容易い。

 今は、はっきりと見えた。


「やはりねぇ……どうやらあいつで間違いないようだ」

「プルーン……あんた、見てたのかい!?」

「悪いね。実は……面白い話が入った。あんたも無関係じゃない」

「……あぁ?」


 突如として現れた『凩』の聖女プルーンは、マジョリーを見てニヤッと笑う。

 

「すべての聖女に通達───ヤルダバオト様が聖女を見限った。ヤルダバオト様の力を受け継ぐ『神の子』セイヤを捕らえよ。聖女神教大司祭アウローラの言葉さね」

「……あいつを捕まえれば」

「ああ。アウローラのやつ、捕まえた者の願いをなんでも叶えるとさ」

「……へぇ」


 マジョリーとプルーンはニヤリと笑う。


「プルーン、手を貸しな」

「ああ、いいさ……分け前は半々で」

「ふん、権力かい?」

「当然。あたしはこんな小さな町の領主で終わる女じゃない。あたしが権力を手にしたらあんたには好きなだけ払ってやる……聖女の祈りを交わしてもいい」

「いいよ。じゃあ、さっそく始めようかね。他の聖女が介入するまえにさ」

「そうだね。じゃあ、あんたは新しい植木鉢を用意しな。あたしも準備がある」

「わかった……ほらお前たち!! いつまでも呆けてんじゃないよ!! 新しい植木鉢を買いに行きな!!」

「「「「「へ、へい!!」」」」」


 マジョリーとプルーンが、動きだした。


 ◇◇◇◇◇◇


「主、もう大丈夫です」

「ん」


 人気のない場所を選び、屋根から飛び降りた。

 ヒジリを下ろそうとしたが、そのまま歩きだす。


「主、下ろしてください」

「お前、足に亀裂入ってる。歩くと折れるぞ」

「う……少し、無理しすぎました」

「武器屋まで抱えていく。我慢しろ」

「……はい」


 幸い、武器屋は近かった。

 ヒジリを下ろし店内へ。すると、昨日の店主さんが新聞を読んでいた。

 

「来たか……できてるぞ」


 店主さんがカウンター下から取り出したのは、鈍い金属の義手義足だった。


「「おぉ……」」

「来な。さっそく取り付ける……」

「はい」


 ヒジリは義足を外し、新しい金属の義足を装着した。

 腕にも装着。新しい義手は細部まで細かく作られ、まるで籠手を装備しているようだ。

 当然、指は動かないが、見た目だけで言えば義手には見えなかった。


「アダマンチウムとクロム鋼の合金製だ。軽いし硬度はミスリルの四倍強」

「素晴らしいです……」

「足はどうだ?」

「……少し、重いですね」

「ああ。踵と爪先に重りが仕込んである。まともに蹴りを食らわせりゃ内臓を殺せるぜ」

「す、すげぇ……かっこいいな」


 ヒジリは、義手の指を握り拳にして固定。そのままパンチを繰り出す。

 同様に、蹴りを試してみた。


「……いけます。ありがとうございます。あなたは最高の職人です」

「おだてても何もでねぇぞ……ほれ、用が済んだならさっさと行きな」


 店主さんはカウンター席に座り、再び新聞を読み始めた。

 煙管を加え、プカプカ煙草を吸う……なんてかっこいいんだ。俺もこんな風に歳を重ねたい。


「店主さん、ありがとうございました。あの、今度はいろいろお話を伺いに来ても」

「…………」


 店主さんは、犬でも追い払うように『シッシ』と手を振った。

 俺とヒジリは頭を下げ、武器屋を後にする。


「じゃ、ギルド行くか」

「はい」


 次は冒険者ギルド。俺たちの初依頼を受けよう。


 ◇◇◇◇◇◇


 さっそく冒険者ギルドへ。

 相変わらず混んでいる。人がいっぱい……って、なんか変だな。

 

「……主、注目されています」

「……ああ。なんか変だな」


 俺とヒジリがギルドに入った瞬間、猛烈に注目された。

 そして、一人の女性が俺たちの前に。


「あんた、セイヤだね?」

「……そうだけど」

「悪いが、一緒に来な」

「嫌だ」

「……あたしが誰かわかってんのかい?」

「知らない」

「あたしはルルティア。このヤヌズ冒険者ギルドのギルド長さ。ちょーっとあんたに大事な話があるんでね、一緒に来てもらうよ」

「…………」


 なんだか妙な感じだった。

 ルルティアとかいう女は俺に敵意を向けているような気がする。

 俺に向かって手を伸ばしてきたので、その手を振り払う。


「痛いね……なにすんだい」

「…………ヒジリ」

「はい。妙です……主、ここは危険です」

「ああ、依頼はなしだ」


 次の瞬間───俺とヒジリを囲むように、冒険者たちが集まった。

 男がいっぱいで嬉しい。お話もしたいけど……今は無理だ。

 俺は、ルルティアに聞く。


「俺、何か悪いことしたか? 冒険者ギルドに依頼を受けようと思ったんだけど」

「それは話が終わってからにしな。セイヤ……あんたには捕獲命令が出てる」

「ほ、捕獲?」

「ああ。あんたを捕らえろってプルーン様の命令さ。悪いね、これはギルドの最優先依頼だ」

「…………」

「それと、抵抗は止めな。あたしは『衝撃インパクト』の聖女。力のないあんたが叶う相手じゃない。ヘタに動こうとするならあたしの《衝撃破》で行動不能にぶげヴぁっ!?」


 ルルティアが最後まで喋る前に、ヒジリが飛び出しルルティアの顔面にパンチを食らわせた。

 金属製の拳がルルティアの顔面にめり込み、鼻血が噴射。


「主、逃げましょう」

「わかった!!」


 俺はコンパウンドボウをロッド形態にして、ルルティアの隣に立っていた冒険者の顔面を叩く。

 そして、そのままギルドの外へ走り出した。


「に、にがすにゃ!! おぅえ!!」


 ルルティアが顔面を押さえて叫び、冒険者たちが俺たちを追って走り出す。

 俺は魔力を足に集中、ヒジリを抱えて屋根に飛び乗った。


「くっそ!! なんだよ一体!!」

「……主、聖女に追われる理由に心当たりは?」

「……ありまくりだよ、ちくしょう」


 まさか、聖女村の連中……そんなバカな。

 やっと自由になったのに、どこまでも俺を追いかけてくる。

 俺は屋根を走りながら、ヒジリに言った。


「捕まってたまるか、ちくしょうが!!」


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