冒険者ギルド

 銀行でお金を預け、次は武器屋を目指した……が、少し気になった。


「なぁ、なんで武器屋が義手義足? 義手って武器なのか?」

「いえ、彼らは職人です。武器を作って売っているだけで、依頼すれば包丁から鍋までオーダーメイドで作ってくれます」

「へぇ……便利でいいな。ところで、武器屋はどこだろうな。その辺の男に聞いてみるか?」

「……なぜ嬉しそうなのかはわかりませんが大丈夫です。銀行で町のガイドマップをもらってきましたから」

「……いつの間に」

「主。地図をお願いします」


 ヒジリから地図を受け取り開く。

 ヤヌズの町はけっこうな広さで、聖女村の数倍の敷地があった。

 武器屋は三兼あり、銀行からほど近いところにある。


「お、宿は八軒もあるぞ。なぁ、どこに泊る?」

「主にお任せします」

「そうだな……金はあるし、ご飯が美味しいところにしよう」

「はい、主……あ、武器屋が見えてきました」

「おお」


 銀行からすぐ近くの武器屋に到着した。

 剣が描かれた看板がぶら下がっている。後で知った話だが、店を出すには聖女神教が決めた看板を下げなくちゃいけないとか。

 煉瓦造りの立派で大きな建物だ。店に入ると、いろいろな武器が展示してあった。


「……いらっしゃい」


 店主は男!!……けっこうお歳を召している。

 だが、俺にはわかった。

 身長は低いが筋肉質で、両手には年月を感じさせる火傷の跡が残っている。真っ白な髭は立派で、俺とヒジリを見る眼光はギラリと鋭い……いいなぁ、俺もこんな風に歳を取りたい。


「主……あの」

「ん、ああ。悪い悪い」


 店主に見惚れていたせいでヒジリを忘れてた。

 俺とヒジリはさっそく、武器屋の店主の元へ。


「……何を買うんだ? 剣、弓、斧。なんでもあるぜ」

「いえ。武器ではなく、この子の義手と義足を調整して欲しいんです」

「……ほう。見せてみな」

「はい」


 ヒジリは両手の義手を見せ、スカートをまくり義足を見せた。

 店主はそれらをじーっと見て言う。


「よくできてるが素人だな。素人っつっても百点満点の素人だ」

「もう少し動きやすく、強度を上げてほしいのです」

「一日かかる。それと、お代は腕と足合わせて金貨4枚だ」

「金貨四枚ね、はい」


 俺は財布から金貨四枚を出し、店主へ渡す。

 店主は「まいど」とだけ言い、ヒジリの身体のサイズを計った。

 

「明日、取りに来な」

「わかりました。主、行きましょう」

「え、もう行くのか? せっかくだしいろいろお話を……」

「主。職人の仕事を邪魔してはいけません」

「うぐ……」


 そう言われ、仕方なく店を出た。

 残念。あの店主さんからいろんな話を聞いてみたかったのに。


「主。次はどうしますか。宿へ向かいますか?」

「んー……冒険者ギルドが近いし、登録だけでもするか?」

「わかりました。では参りましょう」


 武器屋からギルドは歩いて五分ほどだ。

 冒険者登録をして、この近くの宿に泊まり、明日になったらヒジリの新しい義手義足をもらい、ギルドで依頼を受ける……よし、これでいくか。

 

 それにしても冒険者か……なんだか面白そうだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、こうなったら一気に用事を済ませてから宿へ向かおう。

 ということで、冒険者ギルドへやってきた。

 

「すごい……」


 立派な神殿みたいな建物だ。

 男女が多く建物を出入りし、剣や斧を持った男、髭面の男、線の細い男がとにかくいっぱいいる。

 だが、多くの男は女の後ろを歩いていた。


「大抵の冒険者パーティーは、女性を中心に男性で固まっています。上位の冒険者になると聖女が多く見られますね」

「……ここでも女か」

「はい。女性はこの世界で最も価値のある存在、そう言われてますので」

「……お前もそう思うのか?」

「いえ。どうでもいいとしか……私は女ですが、四肢のない、価値のない女ですので」


 どうやら、女はこの世界の中心と子供の頃から教え込まれるようだ。

 どんなに鍛えても、どんなに髭が生えても、どんなに武芸があろうと女が上。子供の頃からそう洗脳されている。それが当たり前なのだ。


「……ま、いいや。それより、登録はどうすればいい?」

「銀行と同じです。窓口で登録できますよ」

「わかった」


 ギルド内には、銀行よりも多く窓口があった。

 空いてる窓口に俺とヒジリは向かう……あ、男の職員だ。


「こんにちは。冒険者ギルドへようこそ」

「は、初めまして!! あの、俺……冒険者になりたいんです!!」

「はい。では、こちらの登録用紙にご記入お願いします。それから、指紋登録を行い冒険者ライセンスを発行します。登録料金が金貨一枚になりますが、よろしいですか?」

「は、はい!!」

「主……なぜ興奮しているのでしょうか」


 ヒジリを無視し、登録用紙に記入。

 登録用紙の裏に右手を押し付けて職員さんに提出し、銀行で見たような鉄の塊に用紙を入れる。すると、銀行カードみたいな硬いカードが出てきた。


「こちらが冒険者ライセンスとなります。はじめは最下級のE級から始まり、依頼を達成するごとに評価され等級が上がります。最上級のs級を目指して頑張ってください」

「はい!!」

「主……すごく元気な声です」


 ライセンスを受けとり、ヒジリに聞いた。


「ヒジリ、お前はいいのか?」

「いえ、私は……それに、登録料金もかかります。それに何より……」

「あ……」


 そうだった。俺ってば馬鹿だ……ヒジリは手がない。指紋登録ができない。


「す、すまん……」

「いえ。主、宿に向かう前に依頼を見てはどうですか? 等級ごとに受けれる依頼が違うようです」

「本当だ……あ、E級の依頼があった」


 壁にはA~E級と書かれた掲示板がある。

 E級の看板を見ると、ドブ掃除とか草むしりとか薬草採取とかばかりだ。

 

「ま、最初だしこんなもんか。じゃあ宿を探そうか」

「はい。ギルドの近くに二軒ほどあります。明日、依頼を受けるのでしたら近い方がよろしいかと」

「確かに。じゃあ、近い方にするか」


 この日、冒険者ギルドと武器屋の中間地にある宿を選んで宿泊した。

 初めての宿に俺は少し興奮。宿で出された料理もおいしかったし、初めて入った『風呂』に感動して二時間近く入りのぼせてしまった。

 ちなみに部屋はヒジリと同室。義手と義足を外したヒジリの姿はやはり痛々しい。

 俺はベッドに寝転びながらヒジリを眺めていた。


「…………」

「主?……ああ、見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」

「違うって。そういえばさ、お前の家族はどこにいるんだ?」

「……わかりません。私の家族……いえ、一族は、決まった場所に永住するわけではないので。数月ごとに定住地を変え、そこで仕事の依頼を受けてお金を稼ぎます」

「へぇ……変わった一族なんだなぁ」

「はい。そう思います……ですが、いずれ」


 ほんの一瞬───ヒジリから殺気が。

 普段は感情が読めないが、心の中に猛烈な殺意があった。

 

「明日、冒険者ギルドで依頼を受けて、依頼に向かう途中でお前の義足と義手を受け取りに行くか」

「……はい、主」

「じゃ、おやすみ」


 これ以上は何も言わず、ランプを消して目を閉じた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 宿屋で朝食を食べ、武器のチェックをして身なりを整えた。

 

「主。役に立てるかどうかはわかりませんが、頑張ります」

「ああ、頼む……というか、無理すんな」

「かしこまりました」


 ヒジリは頭を下げた。

 格闘術の経験があるらしいが、作り物の四肢じゃろくに戦えない。

 無茶はせず、できる限りで頑張ってもらおう。

 

「よし、行くか」

「はい」


 今日は、冒険者として初めて依頼を受ける。

 どんな冒険が待っているのか。

 宿を出た瞬間、俺は冒険者としての一歩を踏み出す。

 気合を入れ、宿のドアを開けて外へ───。


「見つけたよガキぃぃぃぃ~~~っ!! あたしの腕の借り、返してもらおうかねぇぇっ!!」

「…………えぇ~」


 宿屋の前に、奴隷商人マジョリーとその部下たちが勢ぞろいしていた。



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