第370話 若者いじり

 ランが西の端末の画面から目を離した。苦笑いを浮かべていた誠は彼女が現状を打開するような言葉を吐くのだろうと想像ができた。


「おい、神前をいじめるのもいい加減にしろよ。それと神前はアタシ等があの昼行灯に言われたくらいで動かないのが納得できない顔しているけど説明するか?」 


 何度見ても幼女にしか見えないランがポップコーンを食べ終えて振り向いた。口の周りのかすがさらに彼女の萌え要素を倍増させる。


「ライラさんの部隊が任意の捜査を始めてまだ時間が経っていないからですか?僕等は東和陸軍なんかに目をつけられているから下手に動くのは得策で無いと……」 


 誠が思いついてすぐ口に出した言葉にランは満足そうにうなづいてみせる。


「なんだよ、分かってるじゃねーか。山岳レンジャーの主要任務は敵支配地域奥深くに秘密裏に浸透、そこで敵勢力の混乱のためのデマゴーグ活動や反政府勢力の煽動なんかをやることだ。捜査活動なんかはお手の物とはいえ捜査を始めてまだ一日経っていないしな。それにおやっさんの読みどおり同盟厚生局が研究を仕切っているならアタシ等じゃ数がたりねーよ。奴等も本気で反撃の準備とか研究の再開の為のタイムスケジュールの調整とか。いろいろ動いているところだろーなー。できればレンジャーとかち合ってくれれば御の字だ」 


 そう言ってかわいい天使のような笑顔を誠に向けてきて思わず誠は萌えを感じていた。


「おい!これはまずいだろ」 


 かなめが画面を指差す。それを見てアイシャとカウラもようやく誠から離れて画面を覗く。そこには鉢巻を締めた少女の顔と能力値が表示されていた。ナンバルゲニア・シャムラード中尉。司法局実働部隊のエース兼マスコットである第一小隊二番機担当のパイロットである。


「知力3……一桁?おい、西よ」 


 島田が哀れむような視線を西とレベッカに向ける。かなめも端末を取り出しそれを写真に収める。


「何してるんですか!」 


 西が抵抗するがすぐにサラと島田に羽交い絞めにされる。その武将の内政値などの絶望的数字を見て誠は冷ややかに西を眺めた。


「シャムは確かにアホだがここまでひどくないな」 


 模擬戦で負け知らず、遼南内戦などの実戦でのスコアーもその戦いに従軍していた嵯峨やラン、技術部長の許明華大佐などを凌ぐ最高のエースである、画面に映るナンバルゲニア・シャムラード中尉の姿を写真に撮り、告げ口しようとしているかなめに西がすがるような視線を投げる。


「確かにひどいですね」 


「そうだぞ!せめて……」 


 そう言うとかなめはコントローラーを操作する。知力の欄にカーソルを合わせて数値を8にした。


「これでリアルだ」 


「あの、それでもかなりアホなんですけど」 


 誠はあきれ果てた。その視線の中には得意顔のかなめがいる。アイシャは同意するようにうなづき、ランも納得が言ったような顔をしていた。


「アホでないシャムに価値は無いんだ!」 


 一言で斬って捨てるランの姿はある意味すがすがしいと誠は思うことに決めた。


「それは良いんですけど……皆さんなんで謹慎しているんですか?」 


 コントローラーを奪い返した西がようやくレベッカと並んでゲームをしながらつぶやいた。レベッカも不思議そうに誠達を見つめてくる。一応、今回の調査は極秘事項である、問い詰められた誠は冷や汗をかきながらこう言うときには頼りになるかなめを見た。


「東都租界でドジを踏んだ。それだけだ」 


 そう言うとかなめはタバコを取り出すが、すぐにレベッカに白い目で見られてため息をつくとタバコをしまう。


「お前に話すと部隊全員に知れ渡るからなあ」 


「島田班長!そんなに僕の信用は無いんですか?」 


 そう言ったとたん西が画面を見つめて口をつぐむ。それを見てこの部屋を埋め尽くしている人々は皆が画面を見つめた。


『謀反!謀反じゃ!嵯峨和泉守!謀反にござりまする!』 


 非常事態を知らせる音楽に西がコントローラーを取り落とす。何度か画面の数値を確かめたあと、アイシャが忍び笑いをもらしているのに誠は気づいた。


「やっぱりあの数値じゃ駄目なのか?」 


「そうね、このゲームは忠誠度80以下だとばんばん謀反起こすから。それに隊長の義理が0だから特に謀反を起こしやすい状況だったのよ。でも凄いわね、開始4ターンで謀反て」 


 そう言うと再びアイシャが笑い始める。かなめは納得が言ったように画面を見つめる。


『神前様、鈴木様、シュバーキナ様が嵯峨殿につきました!』 


 バックに流れるクライマックスの音楽と共に次々と西の支配から脱して嵯峨側に寝返る部隊の主要メンバーに西はただ唖然として画面を眺めていた。


「これはひどいですわね。西さんの味方は……奥さん役のシンプソンさんだけ」 


 同情するように茜がレベッカを見やる。レベッカは口を押さえて画面を見つめていた。


「でも兵力はこちらの方が多いから……って!城乗っ取られた!」 


 絶望的な西の言葉と共に画面の中で次々と自決する西家の家臣達。そして倒れる鎧武者と共にゲームオーバーの画面が現れた。


「ああ、楽しかったな。西いじめるの本当に面白いよな」 


「お前、やっぱり隊長の姪だってよくわかるな」 


「おい、カウラ。それはどう言う意味だ?」 


 かなめはカウラをにらみつけるがカウラは涼しい顔で目の前の惨状にうなだれる西とレベッカを見つめていた。

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