第369話 受け入れられない設定

「おう、西。休暇か」 


 そう言って部屋に入って来たのは先ほどまで縛られていたようでどこか顔色の冴えない島田だった。そのまま西がちらちらと見ている端末の画面を覗き見る。


「ゲームやってたのか」 


 落ち着いている島田に誠達は胸をなでおろす。だが、いつの間にかコントローラーを手にしていた島田がすぐに情報画面を開いたのを見て西が頭を抱えるのが見えた。


「西家、妻がレベッカ・シンプソン中尉。これはかなりむなしくないか?」 


 島田のつぶやきにレベッカが大きな胸に手を当てて苦笑いを浮かべている。すぐに島田は画面を見て情報を探す。


「姫武将が多いな……西園寺かなめ」 


「おっ!アタシか」 


 かなめはすっかり仕切り始めた島田の言葉で飛び上がる。そして画面の正面に座っていたアイシャを押しのけるとそこを占領して画面を食らいくつように見つめる。


「知力52、武力100」 


「西!テメエ!知力52ってのはどういうことだ!」 


 島田から数値を聞くや、西の首にはかなめの腕が絡みついていた。ぎりぎりと首を締め上げていくかなめの鋼の腕に西はもがき苦しむ。レベッカやカウラが取り押さえようとするが、それに面白がるようにかなめが今度は締め上げつつ振り回し始めた。


「次はアイシャ・クラウゼ」 


 島田は騒動を無視して相変わらず画面の操作を続けていた。


「知力82か。使えますねえ」 


「当然でしょ……って!武力72?ちょっと!西君!」 


 今度はアイシャがかなめに締め上げられていた首を抜いてようやく落ち着いた西を悲しげという言葉を超越した視線で見つめる。西はただ愛想笑いを浮かべながらデータを検索する島田を見つめていた。


「ああ、ベルガー大尉ですか。知力75、武力88」 


「おい、西。なんで西園寺より私の能力が劣るんだ?」 


 西はカウラの言葉に今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。


「おい、島田。アタシのはあるか?」 


 そして先ほどまで部下達の様子を黙ってみていたランまでもが声をかける。


「ちょっと待ってくださいよ……クラウゼ中佐っと」 


 島田が楽しげに検索する。かなめ達におもちゃにされていた西だがようやく三人の気が済んだというように解放されてはいたが、完全にうつむいて動かなくなった。


「知力83、武力96か。順当かな?」 


「じゃあ私はどのようになっておりますの?」 


 今度は茜が顔を出す。島田は言われるままに検索を続ける。


「この前の撮影会の写真を使ったのか」 


 一つ一つに設定された写真を見て誠は近くの豊川八幡宮の時代行列に参加するために嵯峨の私物の鎧兜の試着をしたことを思い出していた。


「でもこの時代じゃ変じゃないのか?あれは源平合戦の時期の大鎧だぞ。まあアイシャは当世具足だからこの時代の設定でも良いかもしれないけどさ」 


「こだわるわねえ。でもかなめちゃんの写真良いじゃない」 


 ステータス値の出ている画面には必ず武将の顔が写っているが、そこの写真はすべて先日の時代行列の時に撮った鎧兜の写真が使われていた。


「おい!神前!」 


 データを検索していた島田が誠の肩を掴んだ。気がついて誠もそこに映る自分の能力値を見てみた。


「知力63、武力58」 


「馬鹿だな、そっちじゃなくて妻の欄見てみろよ!」 


 島田は誠の首を抱えて画面に近づける。そこには正妻がかなめ、側室にアイシャとカウラの名前が並んでいた。


「良かったな!モテモテじゃん」 


 笑顔の島田とサラ。だが隣で明らかに殺気を帯びている二人を見て誠は後ずさる。


「神前。お前って奴は……」 


「ひどい!私とは遊びだったのね!」 


 カウラとアイシャの殺気が部屋に充満する。


「いい身分だな、側室持ちとは。遼南皇帝にでもなれるんじゃないか?」 


 そう言いながら島田からコントローラーを取り上げてかなめが検索を続ける。味方は誰もいないと気づいた誠はさらに後ろに下がりついに壁際に追い立てられる。


「オメー等馬鹿か?これは西の設定だろ?」 


「西きゅんがこう見てるって事は整備の隊員が同じ事を考えているって事でしょ?」 


「そうだな」 


 ランの説得もむなしく怒れる二人は壁際に追い詰められた誠を威嚇していた。


「そのーあの、皆さん。謹慎を命じられたといってもこう遊んでばかりでは……」 


「良いんだよ」 


 コントローラーをいじるかなめは意外に落ち着いていた。いつもの彼女なら壁やドアにでも八つ当たりをするのではないかと思っていた誠だが別にそう言うわけでもなくただ面白そうに画面を眺めている。


「良いんじゃねーの?」 


 それを見ながら隣でランが西から取り上げたポップコーンを口に運ぶ。彼女なら嵯峨の副官としての仕事がこなせないことにストレスでも感じそうなところだが、そんな様子は一つも無かった。


 とりあえず士気は落ちていない。誠はかなめ達のそんな様子を見て少し安心した。

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