第346話 捜査

 機動部隊の詰所からやってきた誠とかなめ、カウラそしてランがが会議室に入ると、そこではすでにアイシャと島田、そしてサラが茜の説明を受けているところだった。


「ああ、いらっしゃいましたのね。ラーナさん。説明をお願いするわ」 


 そう一言言うと、茜は何事もなかったかのようにアイシャ達への説明を再開する。


「じゃあ、よろしいっすか?クバルカ中佐」 


「おー始めてくれ」 


 ランは手前の椅子にちょこんと座るとすぐに携帯端末を開く。誠とカウラもすぐにポケットから手のひらサイズの携帯端末を開き、その上方に浮かぶ港湾地区の地図に目をやった。かなめは黙って目をつぶっている。誠は彼女がいつものように脳内と直結させて情報を仕入れているのだと思った。


「今回の捜査っすが、茜警視正と私、それにクラウゼ少佐、グリファン少尉、島田准尉のチームとクバルカ中佐、ベルガー大尉、西園寺大尉、神前曹長のチームに分かれるんす」 


「誠ちゃんとは別チームか……残念ね。と言うか……かなめちゃん!誠ちゃんに変なことしたら承知しないわよ!」 


「誰がなにするんだ!」 


 アイシャの茶々にかなめがお約束で怒鳴り返す。それを無視してランはせかすような視線をラーナに向けた。


「まずは港湾地区のエリアっすが、私達は主に陸地側と租界ラインから内側の地域を担当、クバルカ中佐達はそれより租界側と租界内部の調査をお願いするっす」 


 ラーナの言葉が当然と言うようにかなめがうなづく。


「西園寺、テメーの人脈はどうなんだ?使えるか?」 


 小さなランの頭がかなめに向き直る。


「あてには出来ねえな。実際、三年前の同盟軍の治安出動でやばい連中はほとんど店じまいしたって聞くしな。それに叩けば埃が出る連中に会おうってのに、カウラみてえな堅物をつれて回ったら何にもしゃべるわけがねえよ……てか肝心のこの研究のスポンサー連中の捜査はどうすんだよ。今聞いた限りじゃ末端の研究施設を見つければ御の字みたいな口ぶりじゃねえか」 


 そう言って隣のカウラを見る。誠も私服を着ててもどこか軍人じみたところがあるカウラを見て苦笑いを浮かべた。


「愚痴るなよ。アタシだって研究の総元締めを叩きたいのは山々なんだが……物事には順序があるだろ?この数か月であの化け物を量産する程度の技術力がある連中に政治的影響力がねーと考えるほうが不自然だ。もしその行き先にふんぞり返ってるお偉いさんがいたとして、証拠もなしに噛み付いたらアタシ等の首だけじゃすまなくなるぞ」


 ランは明らかに不機嫌な調子でそう吐き捨てた。彼女もかなめの言うことは十分分かっているが組織人としての経験がかなめの無謀な行動に釘を刺して見せた。


「じゃあ捜査のチーム分けはそうするとうちのチームは必然的にアタシと西園寺。ベルガーと神前の組み合わせになるな。いつどんな法術師に出会うとは限らねーからな。アタシか神前で対応することになる。西園寺とベルガーが支援だ」 


 ランの言葉にカウラをにらむかなめだが、すぐに何かを思いついたように黙り込んだ。


「でもどう調べれば良いのですか?人体実験を行うそれ相応の規模のプラントなどなら警察や諜報機関が察知していても良いはずなのに……そちらの情報は無いんですよね」 


 確認するようにカウラがラーナに尋ねると、彼女はその視線をかなめに向けた。


「まあ諜報機関はあてにならねえな。あいつ等は上層部の意向で動いている連中だから情報つかんでいても上のOKが出ない限り口は開かねえ。一方、地理には詳しいだろう東都警察の方は湾岸地区はお手の物だが租界内部は管轄外だ。今回のプラントを作った連中の本拠がそこにあるならどうせいつもの見えないふりだ。ただでさえ連中、沿岸の再開発地区の広すぎる地域をカバーするだけの人手が足りないってぶうたれてるし。アタシ等の出たとこ勝負の捜査に割ける人員などゼロだろうな。まあ叔父貴から正式な要請があれば動くだろうが……ホシが逃げる準備が十分できるようなローラー作戦意外考えつかねえ連中だ、当てにできねえよ」 


 かなめはそう言うとランを見つめる。


「それにだ。非合法とは言え明らかに先進的な法術覚醒や運用の技術を持ってる連中が相手とすれば、その情報を欲しがっている国の庇護を受けている可能性が高けー。そうなれば相手はチンピラじゃなくて国軍の非正規部隊だ。お巡りさんの手に負える相手じゃねーよ」 


 そんなランの言葉に誠は握り締めていた手に力が入る。


「でもそれなら僕達でなんとか出来るんですか?」 


 誠の顔を見てランが不敵に笑う。


「隊長はそれだけのオメーを評価しているってことだ。ラーナ、とりあえず捜査方針とかは後でアタシのデータに落としといてくれ。行くぞ!こんなところでくっちゃべったところで始まらねーだろ?」 


 そう言ってランは椅子から降りる。誠はそのかわいらしいしぐさに萌えを感じてしまう。


「ロリ!ペド!」 


 かなめはランに目をやる誠の頭を軽く叩くと会議室の扉に手をかけるランの後ろに続いた。


 まさにチョコチョコと先頭を歩いて進むランを誠は萌える瞳で見つめていた。


「おい、さっきから目つきが怪しいぞ」 


 かなめは今度は誠のわき腹を突いた。カウラは呆れたようにため息をつく。


「おう!ちょっと任務で出かけてくる!しばらくは連絡や報告は携帯端末にしてくれ」 


 実働部隊の部屋に顔を突っ込んでランが叫ぶ。あいかわらず青ざめて死にそうな顔のかえで以外が敬礼を返すのが見えた。そしてその隣では先ほどの虫をシャムが美味そうに頬張っている。


「シャムもしつこいねえ。またかえでに喰わせたな、ゾウムシの幼虫。でも本当にかえでは苛めたくなるよな!」 


 うっとりとした表情で吐き気に耐えているかえでを見つめるかなめの顔に不敵な笑みが浮かぶ。その怪しげなタレ目の輝きを見て背筋に寒いものが走った誠は思わず一歩下がった。


「西園寺……やっぱり貴様のせいなんじゃないのか?嵯峨かえで少佐がいじめられて喜ぶようになった原因は」


 カウラが呆れたと言うように、にやけるかなめにそう言った。誠はいつもの鉛のような目で自分を見つめてくるかえでがかなめに縛られて恍惚の表情を浮かべている姿を妄想して思わず興奮していた。

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