第二十四章 終戦の静けさ
第113話 戦い終わって
すべてのことは終わろうとしていた。
「一服しようかね」
嵯峨は刀に付いた血を左腕の袖で拭うと、再びタバコをつけた。胴を離れた近藤と呼ばれていた男の頭部。それが目を見開いた状態で嵯峨を見つめている。嵯峨にとってそれはあまりに見慣れた光景だった。
「人を斬るのは……慣れねえもんだな」
嵯峨はしみじみそう言うと、タバコの煙を吐き出した。
シャムと部下達がブリッジに現れたのはその時だった。幼く見えるシャムの顎から胸にかけては返り血がしみ込み、彼女が近藤の同志達を殺めてきたことを示して見せた。
「隊長!艦の制圧終わったよ」
「そうかい」
それだけ言うとゆったりとした足取りで通信担当将校の席の前に立つ。
「吉田の!聞こえるか?」
嵯峨はマイクに向かってめんどくさそうにつぶやく。
『すべて準備OKですよ!』
吉田の声と同時にブリッジの全モニターの機能が回復する。シャムは非情な表情で倒れている近藤の死体を指差すと部下達は広げ始めた携帯用のシートを死体にかぶせた。
「さてと、店をたたむかね」
嵯峨は話を続けた。
「各員に告げる。近藤中佐は自決した。状況を終了する。繰り返す!状況を終了する」
嵯峨はそう言うと静かにそこの椅子に座った。吸い殻を床に投げると、再び胸のポケットからタバコを取り出して火をつける。
「現場にいらないものを残すと……」
そう言い掛けたシャムだが、うつろな嵯峨の表情を見て言葉を飲み込む。彼女が確認しただけで16体の斬殺死体が確認されている。戦闘中の高揚感が去った今では、嵯峨の姿は恐怖の対象にも見えた。そんな彼女を照らすように『高雄』からの映像がモニターに映る。動きを止めた近藤派のアサルト・モジュールが静かに漂っている様が見えた。
「グリファン。残存アサルト・モジュールはどうしたい?」
『高雄』のブリッジを映していた画面の中で、嵯峨に呼びかけられたサラが髪にやっていった手を放して、直立不動の姿勢をとる。
『失礼しました!すべて投降を希望しています!』
「一応お客さんだ。こっちつれてきな!」
サラの答えに嵯峨はそう言うとゆっくりと咥えていたタバコの煙を吸い込んだ。
「そう言えば吉田!うちの損害は?」
『三名負傷ですが、全員軽傷です。シャムが上手く動いてくれたおかげで人質も迅速に解放できました』
「そりゃあよかった。ベルガー!そっちはどうだ?」
第二小隊の三機のアサルトモジュールがモニターに映し出される。すぐに小さなウィンドウが開き、小隊長であるカウラの顔が浮かんだ。
『損害無し。現状では機体に異常は見られません。第二小隊は直ちに撤収を開始します!』
モニターの隅にヘルメットを脱いで大きくため息をついているカウラが映し出された。彼女のエメラルドグリーンの髪が無重力に漂っているのがブリッジからも見えた。
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