第107話 度胸試し

『アタシについてきな!新兵さんよ!とりあえず戦争の作法って奴を教えてやるよ!』 


 そう言うとかなめは機をカタパルトデッキに固定させる。誠は続いて固定装置をパージして後に続く。


『おい!サラ!出撃命令まだか!』 


 かなめが叫ぶ。


『作戦開始地点に到着!各機発進よろし!』 


 サラがやけ気味に叫んだ。


『んじゃ行くぞ!ブラボーツー!05甲式!出んぞ!』 


 リニアカタパルトが起動し、爆炎とともにかなめの機体が誠の視線から消えた。誠はオートマチック操作でカタパルトデッキに機体を固定させる。


『大丈夫だ。お前ならやれる』


『ちゃっちゃとついて来いよ。待ってんぜ』 


 カウラとかなめ。二人の思いが誠に直接働きかける。


「ブラボースリー!05乙!出ます!」 


 カタパルトが作動するが、重力制御システムの効いたコックピットは、視野が急激に変わるだけで何の手ごたえも感じなかった。ただ周りの風景だけが移り変わる。


「宇宙だ」 


 誠は射出され、慣性移動からパルス波動エンジンの加速を加えながら目の前に広がる闇の深さに感じ入っていた。


『何、悦にいってるんだ?ちゃっちゃと移動だ。すぐ盆地胸も出てくるぞ!』


 目の前に光る点。かなめの思念通話が頭の中に響く。


『ブラボーワン!05甲式!出る!』 


 カウラの機体も『高雄』を発艦した。


『まだ『那珂』からの発艦は確認されていません!速やかに目的地点の制圧を完了してください!』

 

 赤い髪をなびかせてサラが叫ぶ。


『なんだ。近藤の馬鹿野郎、こんくらいのことも読めねえとはお先が知れるな』 


『戦力差を考えろ!』 


『わかったよ!隊長さん。ちゃんと指揮頼むぜ』 


 かなめは口元を緩めながら目的地点へと機体を向ける。


『敵戦力出撃!数22!作戦地点に向け速度200にて進行中!』 


 サラからの伝言。カウラは表情を曇らせる。


『火龍22機か。アタシ一人でで潰せると思うが、ブラボーワン。どう読む?』 


『ブラボーツー。司法局実働部隊の出撃規約も見ていないようだな。現出動政令では敵の発砲がない限りこちらから仕掛けることはできない。防衛予定地点の制圧を最優先として展開』 


『はいはい分かりましたよ!距離1200……ってなんだか国籍不明の観測無人機が山ほどあるぞ。どうする?』

 

 かなめのその声にカウラは少し悩んだ。


『観測機は外で待ってる諸外国の艦隊のものだ。無視しろ』 


『ギャラリーは大切にしろってことか。分かった。とりあえず制圧を最優先に進行する!』 


 かなめはそう言うと、ようやく後ろにへばりつこうとしていた誠の機体を振り切って加速をかけた。


『敵機確認!なんだ?幼稚園の遠足か?隊長さんよ、今なら食おうと思えば全部食えるぜ』 


 かなめが不敵に笑う。


『何度も同じこと言わせるな!速やかに目標宙域を占拠!敵の動きの観測は続けろ!』 


 冷静に、冷静に。誠はそればかり考えていた。左腰部に結構な質量のサーベルを吊り下げているというのに、バランスも崩さず誠の機体は進む。


『敵艦からさらに14機発進!』 


 サラからの通達。誠は自然と手に汗をかいていた。


『あと二十秒で目標宙域!ここまで撃ってこないってことは見えてねえのか?』 


『火龍のセンサー類は一世代前の物だ。こちらは最新のステルス機。そう簡単に見つかるようでは開発した菱川の技術部も泣くだろ?』 


『言えてるな。おい新入り!初めての出撃の感想はどうだ?』 


 かなめもカウラも軽口を続ける。誠は話そうとするが、口の中が乾いて声が出ない。


『そう緊張することねえだろ?それに今のうちだぜ、死んだらしゃべれなくなるからな!』 


 サイボーグ用の口元だけが見えるヘルメットの下でニヤついているかなめ。


『まあこんなもんさ、初陣なんざ。落ち着いてカウラのご機嫌とってるうちに終わってるよ』


 思念通話で慰めるかなめだが、誠はまだ手の先の感覚が無くなっていくように感じていた。


『目標地点確保!敵にこれ以上の増援は無い模様!』 


 かなめがすばやく機を回転させ、向かってくる敵部隊に照準をあわせる。


「ブラボースリー、作戦宙域到着!指示を!」 


『中央の艦船の残骸の陰に回れ、ブラボーツー!敵との距離は!』 


「距離二千!速度変わらず!」 


『おい!新入り。度胸試しやるか』 


 カウラに報告しながらかなめの考えが、誠の頭に流れ込んだ。 


「度胸試しって……」 


『胡州軍の伝統で火龍の250mm磁力砲は銃身が暖まらないと照準がずれるようになってる。あのフォーメーションの組み方はど素人が乗ってる証拠だ。馬鹿正直にオートでロックオンして大外れを撃つのは間違いない。そこでだ。』 


「僕に突っ込めってことですか?」 


 かなめはヘルメットの下に笑みを作った。


『別にこりゃ命令じゃないし、お前の根性次第ってところで』 


「分かりました!行きますよ!」 


「ブラボースリー!吶喊(とっかん)します!」 


 そう叫ぶと誠はサーベルを抜いて敵中へと機体を進ませた。


『西園寺!煽ったな!』 


『アタシも出るぜ!新米に死なれちゃあ気分悪いしな!』 


 かなめ機がデブリから出て誠機の後に続く。カウラは渋々その後に続いた。

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