第108話 戦闘の間に

 誠機を発見すると先頭を飛んでいた五機の火龍が肩のキャノン法を乱射した。


「撃ってきました!」 


 誠が叫ぶ。


『下がれ!新入り!』 


 逆噴射で飛びのく誠機の手前までかなめが突撃を行う。


『自殺志願者め!地獄の片道切符だ!受け取んな!』 


 かなめはそう叫ぶとチェーンガンを発砲した。円形に並べられた九本の銃身が回転し、厚い弾幕を形成する。その高初速の弾丸は4機の火龍の装甲をダンボール同然に貫き、爆散させた。


『たった4機か』 


『ブラボーツー!発砲許可は出していないぞ!チェーンガンの爆炎でセンサーが利かない!各機現状で待機!』 


『馬鹿!止まったら食われるぞ!』 


『馬鹿は貴様だ!センサー感度最大!やられた!6機が迂回して目標地点に向かっている!』


「僕がやります!」 


 暴走するかなめを押さえきれないカウラを見て、誠は急加速して目標地点到達を目指す敵機を追う。 


『死ぬんじゃねえぞ!ってこっちも手一杯か!』 


『誰のせいだ!』 


『誰のせいとか言ってる場合か?とりあえずこいつは用済みだな!』 


 かなめはそう言うとチェーンガンを捨てて、背中に装着されたライフルを構える。


「敵は、6機。編隊がちゃんとできてる!」 


 誠は追っている敵機を観察した。敵の整列に乱れは無かった。それなりの練度である。簡単に済む話ではないことはすぐに分かった。


『ブラボースリー!貴様が追っているのが敵の本命だ!やれるか?』 


『ブラボーワン!テメエが援護しろ!ここはアタシが支える!』 


 その言葉にカウラは誠機を追って進んだ。


「接近しないと!接近しないと!」 


 誠はひたすらに敵編隊に直進する。すると三機が方向を変え、誠機に向き直った。


「干渉空間形成!」 


 そう叫ぶと同時に敵が手にした220ミリリニアレールガンを連射し始めた。誠機の前に銀色の切削空間が形成され、火龍のリニアレールガンの徹甲弾はすべてがその中に吸い込まれる。


「行ける!」 


 誠はそう言うと再び敵機を追い始めた。


『ブラボースリー!ここから狙撃する。照準補助頼む!』 


 カウラはそう言うと主火器、ロングレンジ重力波砲を構える。


「分かりました!足はこっちの方が速いですから!」 


 そう言うと誠はさらに機体を急加速させる。


「間に合え!間に合え!」 


 機動性を犠牲にしてまでの火力重視の設計の火龍との距離は次第に詰まる。自動送信機能により敵機のデータは瞬時にカウラ機の下に届いた。


『右から落とす!』 


 カウラはそう言うと発砲した。最右翼の敵機の腰部に着弾する。瞬時にエンジンが爆発し、その隣の機も巻き込まれる。 


『次!』 


 カウラは今度は左翼の機体に照準をあわせる。


「ブラボースリー追いつきます!」 


『馬鹿!やれるものか!』 


「やって見せます!」 


 距離を詰め、サーベルの範囲に敵機を捕らえた誠は火龍の胴体に思い切りそれを突きたてた。白く光を放つサーベルは、まっすぐに敵機の胸部を貫き、さらに頭部を切り裂いた。 


『うわー!!』 


 一瞬だが、誠の脳内に敵兵の断末魔の声が響いた。


 誠の体が硬直した。


 死に行く敵兵の恐怖。それが誠の頭の中をかき回していく。


『止まるな!死ぬぞ!』 


 カウラのその思念通話が無ければ、誠の方が最期を迎えていたかもしれない。先頭を行っていた三機編隊の一機が引き返して誠機に有線誘導型ミサイルを発射した。


「干渉空間展開!」 


 ミサイルは誠の手前に展開された、銀色の空間に飲まれた。


『ぼさっとするな!あと、3機だ!』 


 カウラの怒号がヘルメットにこだまする。 


「了解!」 


 自らを奮い立てるために誠は大声で叫ぶ。すべての攻撃を無力化して急加速をかけてくる誠機に、敵は慌てふためくように編隊を乱した。 


『ブラボーワン、左の機体を叩く!残りは頼んだぞ!』 


 思念通話を閉じたカウラがライフルを構える。


「一気に潰す!」 


 誠は自分に言い聞かせるようにして、真ん中に立つ背を向けた敵機に襲い掛かった。


『さっきの感覚。死んでいく敵兵の意識が逆流した?』 


 誠は肩で息をしながらそう考えた。すべての敵の放ったミサイルが干渉空間に接触して爆発を始める。


『照準補助!敵機の位置は!』 


 叫び声、カウラのものだ。誠は自分を取り戻そうとヘルメットの上から顔面を叩く。 


「行きます!」 


 ようやく搾り出したその言葉。誠は機を干渉空間を避けるようにして、敵の牽制射撃の中、突撃する。


「主力火器で関節なんかを撃たれなければ!」 


『やめろ!ブラボースリー!』 


 カウラの言葉が誠の意識に到達した時、誠は既にサーベルを振り上げていた。 


「落ちろ!」 


 誠は全神経をサーベルに集中した。サーベルは鈍い青色に染まり、誠の機体にレールガンを放とうとする敵隊長機を切り裂いていく。


『なんだ!これは!』 


 驚愕する敵指揮官の断末魔。もはや誠は意識を手放しかけていた。


 一機が誠の機体の後方に回り込み、照準を定める。サーベルを振り切った状態の誠機は完全に後ろを取られた形になった。


『死ぬのか? 僕は』 


 誠は思わず目を瞑っていた。しかし敵機が発砲をすることは無かった。


 カウラの狙撃の直撃をエンジン部分に受け、火を吹く敵機。


『あと、1機だ!』 


「判りました!突っ込みます!」 


 最後に残った1機は攻撃が効かないことが分かったのか、背を向けて敗走を始めた。誠は一挙に距離をつめ、サーベルを敵機のコックピットに突きたてた。 


『死にたくない!死にたく……』 


 再び頭の中を駆け抜ける敵兵の意識。誠は額ににじむ汗を感じながらカウラの指示を待った。


『よくやった。だが西園寺が包囲されている。私はそちらに向かう。お前は帰等しろ』 


『奥の手ならあるぜ』 


 急に開いたウィンドウに巨大なヨハンの顔が映し出される 


『ブラボースリー!すぐに干渉空間を形成しろ!』 


 ヨハンの言葉が響く。


『それで?』 


 カウラが怪訝な顔をしてたずねる。


『説明は後だ!ブラボースリー、意識をブラボーツーの居る方向に飛ばせ!そのまま干渉空間を切り裂いて飛び込め!』 


『何がどうなってる!シュぺルター!』 


「僕!やります!」 


「無事で居てください!西園寺さん」 


 そう意識を集中する。敵機と近接戦闘を行っているかなめの感情が誠の中に流れ込んできた。


「じゃあ行きます!」 


 目の前に展開された干渉空間をサーベルで切り裂いて、誠はその中へと機体を突っ込ませた。

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