黄金卿の章―― 黄金の鋼鉄城 其の③

 「……ナフフ。我が主はワタクシに一体何を施してくれるのか。実に実に楽しみですねェ」

 

――アリスが目覚める数刻前。黄金卿に呼ばれたデップは、深淵に覆われた玉座の間にて主の到着を心待ちにしていた。

 突如、雷鳴の光が玉座の間に入る。すると、いつの間にいたのだろうか……体中を無数の機械管で覆われた黄色きローブの人影が出現していた。


 「これはこれは我が主マイロード。お待ちしておりました」


 「……道化師デップよ。出迎えご苦労。さて吾輩に呼ばれた理由を貴公は存じているか?」


 「ええ勿論ですよ『黄金卿エルドリッジ』。我々を嗅ぎ廻っていたあの薄汚い鼠めはワタクシの手で始末しました。抜かりはありませんとも!」


 黄外套の男——『黄金卿エルドリッジ』に問われたデップは、胸に手を当て意気揚々に答えた。


 「ほう……流石だな。それで、その男の亡骸は何処に……?」


 主の投げかけにデップは一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに調子を取り戻し、ペラペラと弁論した。


 「我が主よ。……大変大変申し上げにくいのですが、その者の死体はございません。彼の施設ごと灰塵と化したので欠片も何も残っていないかと。ええ、けれどもご安心を。あの爆弾——スピリダスの威力は折り紙付きです。いかに英雄と呼ばれたあの男でも生存確率は0%でしょう」


 「――つまりお前はあの男の死体を確認していないと。……そうか。それがお前の答えか。失望したぞデップ。お前は判断を誤った。ゆえに――」


 黄金卿は手から放出された無数の機械管を触手の様に伸ばしデップの脳へ目掛けて一刺した。


 「ホォエェ!? 主よ一体何を……アァァァァァエェ……!!?」


 「出来損ないにはおしおきが必要だ。お前の中から不要な感情モノを取り除く。もう二度と失敗しないようにな」


 「……おっと、これまで吾輩の命令を遂行してきた褒美も与えないとなぁ……喜べデップ、念願が叶う時だぞ。吾輩がお前を『完成』させてやる……!」


 黄金卿は背中から更に機械管の触手を出現させると、それをデップに巻き付けていく。切断される四肢、そして新たに継ぎ足される歪なパーツ。響き渡る絶叫はやがて甘美なものへと変わり、そしていつしか何も聞こえなくなった。

 

 全ての改造が終わった時。デップは背中に三本の剣を生やし蠍に似た姿形をした屍と機械の融合体『屍猟機甲兵ネヴュラゾーグ』と化していた。


「どうだ。これがかつてお前が憧れたモノだ。人の心などという老廃物は破棄してやったぞ。光栄に思うがいい。そして、これからも私の手駒として働くのだ――永遠にな」


「グゥエハハアァ……有難キ幸セデス」



「生まれ変わったお前に早速新指令を与えよう。……ザッシュ・ヴァインを探せ。奴は必ず生きている。そして今度こそ息の根を止めるのだ。確実にな」


「ハッ!ワタクシハモウ負ケマセン。コノ素晴ラシイパワーデ八ツ裂キニスル」


 触手が波打つ音とノイズ混じりの歪な機械音だけが反響する中、暗闇の中で怪しく光る赤色の双眸が獲物を狩る肉食動物の様にその存在を滾らせていた。

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