黄金卿の章―― 黄金の鋼鉄城 其の②

 スピーカーが切れた後、奥の扉が音もなく開き、奥からカタカタとキャタピラ音を鳴らしながら、案内用ドローンが現れた。


「あらあら、随分と可愛らしいガイドさんですね」


 アリスはドローンを一瞥する。オレンジ色のボディーに鉤爪の付いた2対の腕を備え、身長は小柄なアリスの胸元までしかない。これまで戦闘型の自立機械ロボットしか見てこなかった彼女にとっては新鮮に映った。


「おいおい、お嬢ちゃん。そんな呑気にしておるが、分かっているんか?これから行くのは『黄金卿エルドリッジ』……つまりお主を捕えた親玉のところなんじゃぜ、怖くないんか?」


 肩を竦めてアリスに問うハーティマスに対しアリスは先ほどとは打って変わって真剣な表情でハーティマスに回答する。


「そりゃ、怖いですよ。でも『支配者』はわたしを殺すつもりはないと思うんです。だって、最初から殺すつもりならこんなところに監禁なんてしませんよ。それはつまり、わたしに『人質』としての価値がまだあるということです。……少なくとも今のところはですが」


「……なるほど。只の嬢ちゃんではないと思っていたが、そこまで考えていたとは。じゃが、良かったのか?曲がりなりにも敵であるわしにそんなことを話しても」


「失敬な。わたし、これでも人の見る目はあるんですよ。例え敵でもおじいさんは信用できるとわたしが確信したんです。されにおじいさんはわたしを解放してくれたじゃありませんか。それが何よりの証拠です!」


 胸を張ってドヤ顔をするアリスを見て、ハーティマスは「まいったのぅ」と呟くと口元を僅かに緩ませながら自慢の顎鬚を撫でるのだった。


***


「そういえば聞き忘れていたのですが、此処って一体何処なんですか?」

 

 案内用ドローンに導かれるまま、部屋の外へ出たアリスは、壁に張り巡らされた気色の悪い配線模様に目を奪われながら、隣を同じ歩幅で歩くハーティマスに尋ねる。するとハーティマスは淡々と語り始めた。


「この場所はかつて軍の機甲要塞が置かれていた軍事拠点じゃった。もっとも、彼の戦争が終結してから数百年が経ち、今じゃただの廃墟。巷では『がらくたの城ジャンク・キャッスル』とまで呼ばれる始末だがの――まぁそれも表向きはじゃが」


 ハーティマスは含み笑いを浮かべたまま、アリスに続きを話す。


「此処は『黄金卿エルドリッジ』の隠れ蓑。そして、その実態は屍機兵達の巨大製造プラント。改めてましてようこそお嬢ちゃん。我が主『黄金卿エルドリッジ』が誇る居城『黄金の鋼鉄城アイアンクラッグ』へ」


 ハーティマスはそう言うと、大袈裟に被りを振ってアリスに向かってお辞儀をするのだった。

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