黄金卿の章—— 起死回生 其の①


 「――ッハァハァ……! あ、危なかった……ぜ……」

 

 煤だらけになった地面の上で、同じく煤だらけの男が無様に転がっていた。

 金属質の右腕は所々溶けており、肉体の至る所に酷い火傷を負っている。

 瀕死の重体——誰が見ても今のザッシュの状態をそう判断するだろう。

 掠れ行く目で先ほどまで建造物が建っていた場所を見る。そこは空虚が漂うばかりで最早、灰すら残っていなかった。

 この状況で彼が一命を取り留めている。それだけでも十分奇跡だった。


 

 あの大爆発の瞬間。

 

 ザッシュは体内に残る全てのエネルギーを錆剣へと費やし、第五の型——渡刃蚯蚓ドバミミズへと変化させた。蛇腹剣の変形モードである渡刃蚯蚓ドバミミズを限界まで伸長させ、内壁をぶち抜き、外側にある物質に固定する。そして、渡刃蚯蚓ドバミミズを収縮させ、自身の体ごと外部へ吹っ飛ばす。それはどんな博打よりも割に合わない危険過ぎる賭け。極限状態で彼が思いついたとっさの判断だった。

 不幸中の幸いか、爆発とほぼ同時に彼の体は外部へ放り出されたため、直撃は免れた。しかし、爆発の余波により全身に著しく火傷を負うことになった。

 だが、結果として即死不可避の状況から彼は生還した。


「あ、あの女……一体何だってんだ……」


ザッシュの脳裏にイザラの言葉が蘇る。



*** *** ***



「『彼』に挑む気概がまだ少しでも残っているなら……を使うことをお勧めするわ」


デップが魂魄爆弾スピリダスを起動した後。イザラは去り際にザッシュに耳打ちしていた。まるで、最初から彼の隠していた力を知っていたかのように。


「誰にも見せたことのない渡刃蚯蚓ドバミミズのことを何故知っていたのか。

あの女には一度問い詰める必要があるな。……それよりも今は……」


ボロ雑巾のように傷ついた体を引きずり起こす。蓄積したダメージにより、尋常じゃなく体はフラつくが、どうにか立ち上がることが出来た。どうやら骨は折れてないようだ。


「一刻も早くアリスを奪還しに行きたいところだが、傷の手当と休息できる場所を探すことが先か。……クソッ、なんて様だ」


苛立ちから、ザッシュは力の籠らない左腕で壁を殴り付ける。すると、その音に反応してか、所々破損した魂魄機甲兵アニマゾーグの残兵が怨念が込められたような不気味な機械音を響かせてザッシュに目の前に立ちはだかった。


「おおかた、仲間をやられた敵討ちってとこか。そりゃ崇高なこったな鉄屑野郎ッ!」


額から流れる冷や汗が熱気で瞬く間に蒸発する中。最早限界を超えている右腕を鋸斬鮫に高速変形させ――そのまま全身全霊を込めて兜割りの如く目の前の残兵を叩き切る。それと同時にオーバーヒートを起こした右腕は亀裂が入ると、激しい音を立てて砕け散った。


「ハッ……俺を甘く……みるんじゃ……ねぇ……」


右腕が砕け散り、ザッシュの意識が薄れいく中。

彼は自身に近づく微かな足音に遂に気付くことはなかった。







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