黄金卿の章―― 神の右腕 其の④

「――さて、じゃぁとっとと奴のところに行くぞ。――アリス、どうした?」


さっきの調子は何処へやらといった様子で、ザッシュが意気揚々と戦闘準備を数進めていると、アリスはバツが悪そうな顔で苦笑いし、ボソリと零した。


「あのー啖呵を切っておいてあれなんですが、実は知らないんですよねー」


ザッシュは嫌な予感がした。この先の展開が大いに予想できてしまったからだ。一応、アリスに尋ねることにした。


「うん? なんだアリス? なにを知らないんだ?」


「だからー支配者の居場所までは知らないんですよー。うーん。ごめんな……さいっ♪」


 アリスの吹けてもいない口笛と、ウィンクしながら舌を出す仕草に多大な苛立ちを覚えながら、ザッシュは肩を大袈裟に竦める。


「結局……振り出しじゃねぇか!」


「――あのぅ、お客様。一階酒場にあなた方を尋ねて赤髪のご婦人が来ておられるのですが……っな、なんとまぁ。こいつは派手にやらかしましたなぁ!?」


 ザッシュが雄たけびを上げるのとほぼ同時に隠れアウトローの店主がやってきた。店主は部屋の惨状に目を白黒させていたが、ザッシュは店主の言葉を聞き逃さなかった。


「そうだ。『デップ』だ。奴なら情報を持っているはずだ。おい、オッサン!そのご婦人ってやつは何処にいる?」


 ザッシュが捲し立てると、店主は静かに部屋の下を指さした。


「アリス、行くぞ。手掛かりってやつが自分から飛び込んできやがった」


「はいはい、今行きますよっと。――全く喜怒哀楽が激しい人ですね」


 満開笑顔でザッシュの後を追うアリスを尻目に、彼は口元を不気味に歪め笑みを浮かべる。


(レイニー・ゾーンの嬢ちゃんか。どうやってオレの居場所を問い詰めたのかは知らんが、どちらにでよ好都合だ。必ず奴の居場所を突き止めてやる)

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