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第三兵器学校は百三十一番ダミー都市の地下シェルターに存在するが、それは国家機密となっている。臨時政府の未来のテクノクラートたる生徒たちの安全に十分配慮しているからだ。
生徒たちの居住区も地下にあって、学舎とは地下トンネルで結び付けられている。だから基本的に生活は地下で完結している。そもそも地上に出たところで、ダミー都市になにかがあるわけではないから、苦労して長い階段をのぼる生徒はほとんどいない。
だから地上の公園で春川桜子の姿を目にしたとき、げ、と自然に声を漏らしてしまった。
げ、ってなんですか。
耳ざとく聞きつけた春川は、怒っているというわけではなく、どこか面白がるような表情で僕を見つめた。サクラの老樹に向かい合った木製のベンチに、行儀よく腰を下ろしていた。
すまん、悪気があったわけじゃないんだ。僕は弁明するように気弱げな声でいった。誰かがいるとは思わなかったものだから。
たしかにわたしも、ここで誰かと会うのは初めてです。どこか余裕を感じさせる笑みを浮かべて彼女はいう。不思議ですよね、こんなに気持ちいい場所なのに、誰も関心がないなんて。
風に煽られてハラハラと散るサクラの花弁が、青っぽく見える空っぽのビル群を背景に薄いピンクを明滅させる。公園は有刺鉄線付きのフェンスで四方を仕切られていて、外へは出られないようになっている。フェンスの向こうには、誰もいない無人の都市が広がる。
二十一世紀初頭の地方都市をイメージした、ダミー都市。
作り物の構造物が四囲を取り巻くなかで、サクラの老樹だけが本物だ。もしかしたらダミー都市が出来上がるよりもずっと前から、ここにうわっているのかもしれない。もちろんあとから植樹された可能性もあるけれど、僕としてはそちらの案を採用したいと思っている。
ここは行き来に時間がかかるからな。だからみんな来ないんだろう。
そうつぶやいて、ベンチのそばにたたずんでいると、春川は僕にベンチの隣をすすめた。うながされるまま座ると、彼女は尋ねた。先生って何歳?
十八、と僕は短く答えた。
飛び級をしまくったんですよね、と春川はつぶやく。すごく優秀だ。
春川も優秀さでは引けをとらないだろう。僕はすなおにそう告げた。学園期待の星だ。
うーん、と彼女はちいさくうなった。そして急にこちらを向くと、じっと僕の目を覗き込んで尋ねた。先生ってわたしのことどう思います?
どうって。正直なところその言葉に僕は動揺しまくっていた。うろたえつつも、なんとか無難な言葉を探し出す。さっきもいったとおり、優秀で、勉強熱心な優等生だと思っているよ。ミサイル科も毒ガス科も、君のことを引き入れようと、いまからあれこれ画策しているくらいだ。
違うんですよ先生。彼女はサクラの老樹へ視線を移し、どことなくしおれた声でつぶやく。わたしは優等生なんかじゃないんですよ、ほんとうは。
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