2日目  訓練



連れてこられたのは真っ白な部屋だった。

「ここでお互いに、別の部屋に入ってもらうぞぉ?それで、自分自身と対話をしてもらう。」

「「はい!」」

「いいか、くれぐれも、自分以外を思い浮かべるなよ?ここは心象をそのまま写す。要するに鏡ってことだぁ。この中じゃ魂力は使わねぇから安心しな。」




そう教えられて入ると本当に何もなかった。

真っ白な四角い箱というのが正しいのだろう。

自分を思い浮かべてみる。


身長は平均ぐらい。

誰かに言えるような優れた点はなく。

つい昨日まで幽霊に憑りつかれていた。

だが、その姉は・・・


『ケンちゃん。』


えっ?

目の前には・・・姉が立っていた。



「姉さん?どうして姉さんがここに居るんだ?」

『言われなかった?ここは心象を写すんだって。』

「あっ。」


『本当はこんな感じになりたかったんじゃないんだけどね・・・ごめんね。』


「いいんだ、姉さんは何も悪くないじゃないか。」

『本当に、本当にごめんなさい・・・』


そう言って泣き出ししまった。

いったいどうしたらいいんだ?僕はこんな時にかけるべき言葉なんて知らないぞ?


『あぁ、また困らせちゃったね・・・ごめんなさい』


ん?待てよ?姉はこんなに謝る人だったか?


もっと天真爛漫だっただろう。なんでこんなに憔悴しきった表情を浮かべているんだ?まるでこの表情を一番知っているような。・・・可笑しいぞ?


『あらあら~ばれちゃった?』

「ばれたって何が・・・やっぱり、僕の姉じゃなかったんだな?」

『そりゃあね。私はあんたの姉を殺しはしたが、アンタの姉じゃないんだから。イメージを使ってみたよ。どうだい?そっくりだっただろう?特に泣き顔をとかね。っ!?何するの?』


思わず、手を出してしまったが、体をすり抜けた。

あの事故はおかしいとは思っていた。


「・・・ゆるさない」

『え?』

「絶対に許さない!」

『おー怖い怖いwどう?アタシのこのモノマネは?いやーアタシにはなんでか、色々出来ちゃってね。泣いた顔で落ちて死んだよ?君におねーさん。』


あまりにもひどくて吐き気がした。

死んでしまえばいいのに

心の底からそう思ったのは初めてだ。

だけど、聞かなきゃならないことがある。

何でここに居るのかだ。


「もしかしてお前は、死んでいるのか?」

『ごめーとー!おめでとー!大正解だよ!アタシは今この天界のどこかにいるのサ。どうにかこうにか殺してごらんよぉ!アレックス一緒にさぁ!』


その言い方、もしかして、アレックスのコンビも殺したのか?


『そう考えるよねぇ?そうだよぉ!生きてる人では失敗しちゃったけど、死神だと無事に成功して、人生を乗っ取れたんだよぉ~♡さいっこー!きゃはハハハ!状況証拠も完璧にやったはずなのになぁ~。死神が男だったら男から服を奪えばいいしって高校のオカルト研究部メンバーに声かけて無理やり集めて、何があろうと自殺しようってしたら、まぁ見事だね~。天界での記憶があるから魂状態だと性別がガバガバなのは十も承知だったから途中までの読みとしては完璧だったのにな~。君みたいな探偵君がいるだなんて。惜しかったな~。』


頭の中で何かが切れる音がした。

こいつはだめだ、絶対に生かしてちゃいけない。

命を何だと思っているんだ!


「殺す!絶対に!」

『あらあら~とっても怖いのね~まぁ探偵君がこれるかどうかよりも、力が足りてないよねぇ~どうやって殺すつもりなの?』


それは・・・待て?これ考えるだけ読まれるなら、考えないほうがいいんじゃないか?


『バーレチャッタ♡まぁいいわ。どうせ魂装で殺すつもりでしょうけど。そんなものじゃ勝てるわけないってことを知らしめるから♡じゃあね~』


そういって姉の姿をした人が消えた瞬間アレックスとテツが飛び込んできた。


「ケンちゃん!大丈夫か!?」

「健太!?無事か?いきなり魂装の気配がしたからなんだと思ったんだが・・・その顔、まさか」


「ええ。伝えておきたいことが・・・」


そうして事情を説明すると、確証はなくとも、確信に至ることがあったようで。


「いいだろう、多分まだ自分自身の力、わかってないだろう?オイラも一緒に入る。それで対話の方法を教えよう。本来、これは荒治療だから正直やりたくはなかったんだけどなぁ。まぁしょうがない・・・やるぞ、健太。テツはもう終わったんだってな?待ってろ」

「はい!」「おう!」



アレックスと一緒に部屋に入るとアレックスが僕の胸に向かって手を突き立てた。


「今からあんたの本性を引きずりだす。そいつと戦うんじゃない。認めろ。」

「分かりました。」


自分の体の中から重要な何かが抜けていく感覚。この感覚に少しだけ、恐怖を覚えながら、目の前に僕が出来ていくのを感じた。


その僕は髪や、目の色が逆で。とてもつらそうに見えた。


「君が僕なんだね?」

「あぁ、そうだぜ?俺っちが、アンタの心にいた、テツのがわをきて魂装になっていた存在さ。んでどうするんだい?認めるって口では簡単だけどよぉ。できるのかい?」


そういっておちゃらける感じに少し嫌な気を持った。

その瞬間歪に歪む目の前の僕。


「あらら~ほら認められねぇだろう?俺っちは俺っち。そっちはそっち。絶対的に相容れないはず何だ。それを無理に認めなくていいんだよ。」

「それはできない。」

「目的のために?そりゃ意味ないぜ?アンタが心から俺っちを求めなきゃ俺っちは真にそっちの味方にはなれない。」


そういってけらけらわらう自分がいる。

いやというほど、保身主義が体に感じられてしまって、とても嫌だ。


あぁなんて、自分は卑しい人間なんだろう。


再び、目の前の彼が歪んだ。

これは・・・やはりそうか。


「本当に君は僕なんだね。」

『当たり前だろう?そう言ってんだから事実に決まってんだろう?なんで自分に嘘つかなきゃならんねぇんだ?この口調ブレブレマンめ。』


「悪かった。けど、なぁ・・・これって僕が認めるんじゃないだろう?」

「おっ?早いな。そうだぜ、俺っちが認めてそっちがそれを信じる。それだけだ。」

「どうすれば認めてくれる?」

「そうだなぁ・・・今までのことを認めてくれや。」

「今までのこと?」

「そう、色あせた現実だと思ってたところに色があったってな。正直、それをしてくれなきゃどうしようもなく救えねぇぜ?俺っちは意地悪してるわけじゃないんだぜ?別に簡単だろ?今までの全てが美しい現実だって認めるの「嘘だな。」へ?」

「嘘だね。姉と向き合えって言いたいんだろ?「っ!?」だって顔がそう言ってるぞ?なぁ『俺』。」

「はは~ん?さてはそっちは分かっちまうのか?」

「いや分かる訳じゃない。」


感情を読み取れるわけじゃない。

ただ、分かるんだ。

というより感じるんだよ。


「君が何を思っているかなんて、手に取るように分かっちゃうよ。だって君は『俺』なんだから。」

「あらら~ばれたか。そうだ、俺っちはあんたの思ってる通り。」

「「姉が死んでしまう前の自分。」」


なら、もう言うことはねぇな・・・いつでも力を貸してやるよ。なんせそっちは俺っちだからな。


僕のこころに溶けながら、その自分は意志を残して混ざっていった。


「終わりました。」

「あぁ見てた。魂装してみなぁ。」

「はい・・・ふ!」


そうすると僕に変化はなかった。

いや、髪の毛や服に変化があった。

白い線が横切っているんだ。

まるで『俺』がいるかのように。


「うん。完璧だなぁ。じゃあ、今度はオイラとの戦闘だ・・・実践だから覚悟しろよぉ?」


構えられた、その弓矢にとてつもない闘志を感じた。

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