2日目 感情
「んじゃ、こいつを連れていくから、少し待っててくれよぉ。戻ってきたら、課長のところに、っとと、忘れちまうところだった。
元の形に戻る部屋。片手で俵のように死神の人を担いで、もう片手で瓶を持っていった彼には、どんな世界が見えているんだろう。
最初の仕事の時に見せた悲しそうな瞳。その前で吐き出した後悔。今も尚付きまとう彼の自責の念をなんとなく感じてはいたけど、かなり軽くなったと言える。
どうにか、
どうにか、出来ることはあるだろうか?
「テツ。」
「なに?」
「手伝ってくれるか?」
「任せな。何やるんだ?」
「アレックスを喜ばせたい。」
「それじゃ明日何かやるんだろう?」
こちらをみてシシっと笑い鼻をこするテツにうなずいて返す。
「僕は、救ってあげたい。彼とマリーって人を。」
「魂を取り返しにいくのか?」
「あぁ。」
「勝ち目はあるのか?場所の目星は」
「まだ・・・「なら課長か部長のところ行こうぜ。」そうだな。」
「一緒に救おうぜ!」
「あぁ!」
僕らはそっと約束を交わした。
――――――――――――
アレックスが戻って来てから、道場に向かった。
道場に入った瞬間に強烈な闘志を感じた。
恐怖感がさっきの比ではない。
そこには頭の天使のわっかが6重になり、翼が6対になった女性が・・・課長が立っていた。
『良く逃げずに来たな、アレックス、褒めてやろう。』
「やべぇガチモードだ。死んだわ。」
「「強く生きて。」」
あれはもう手に負えない。
ごめん、アレックス強く生きて・・・
てか口調がめっちゃ荒くなってるなぁ・・・
「しゃあないかぁ・・・
『では行くぞ?
「ふっざけんなぁ!
神々しい炎が爆発的に大きくなったかと思ったら、それがアレックスの周りのみを取り巻き、燃やした。
指向性が決められたのか?それとも、威力を上げる能力なのか?
かわいそうに・・・てか魔法なのか?
「それって魔法ですか?」
『いえ、イメージを固めるための詠唱です。まぁ魔法とは言えなくないのですが、これは魂装の応用なので。』
「あっ、口調戻ったんですね。」
「さっきの口調はおっかなかったっすね。」
「ばっか!テツ!」
『大丈夫ですよ~そこまで器が狭いわけじゃないので~。あのバカは人の話を聞かなかったからぶっ潰しただけなので。あとはあの駄犬を潰せばいいだけなので・・・。』
とても怖い笑顔だった。
だけど、なんとなく大丈夫だと思った。もう、頭の輪も翼もいつも通りになってるから、ってものあるかもしれない。
さて、テツと一緒にこっそり聞こうかな・・・
幸いにもアレックスはのびてるし、しゃべれそうだな。
「すいません、一つ聞きたいことが。」
『何でしょうか?』
「ケンちゃん、あれ言うのか?」
「そうだよ・・・お願いします。俺たちに、例の死神の居そうなところを教えてください!」
『そうですね・・・
・・・嫌です♡』
「なんでですか!?」
『アホですか?そんなことさせるわけないでしょう。』
「どうしてダメなんだよ!」
『そりゃ、雑魚だからに決まってるじゃないですか。』
「俺たちは勝ったぞ!?」
『あの程度にあれだけ時間かけて?アレックスにあれだけ負担かけて?それで勝ったと?それに加えて、勝ったと思って慢心したテツ君に、カバーしてもらうことが大前提の動きの健太君。どうしようもないですね。』
「それじゃあどうすればよかったんですか!?」
『単純ですよ、相手の攻撃を上回る霊魂の力を使って倒すんですよ。あんな戦い方はアレックスみたいな搦手主体のやつかシン君みたいな、レイくんとちゃんとセットで、何をどう動いても対応できる人じゃない限りやりませんよ?【殺す】には【殺す】で貫く。それで相殺して引き寄せればいいですし、何なら万物透過させて抜けばいいだけですよ。』
「それって脳筋じゃ?」
『それが最強ですよ。いいですか?どんなものも力の前じゃ無力なんですよ。私だってそうでした・・・最後には搦手を使わされるとは思いませんでしたよ。』
悔しそうで、何処か楽しそうで、何処か寂しそう。
だけど、もう一度やりたいって言ってるのがひしひしと伝わってくる。
『あぁ、思い出すだけでワクワクしますね。もう一度あの人とやるためにはもう少し、もう少し足りないんですよ。それじゃあ始めましょうか・・・
なぁ、雑魚どもが。』
ざわざわざわざわと体が震えて心も震える。正直無理しか感じない。
だけど、構えないと、確実に死ぬ。そんな気配を感じる。
「「魂s『遅い』っっっ!?」」
腕を軽く払われただけで壁際まで吹き飛ばされた。
『等身大の力で戦ってないくせに勝てるとでも思っているんですか?』
「ぐっ!」
「ケンちゃん!」
一瞬で距離を詰められて殴られる。腕をとっさに十字にしたら、違うところを思いっきり殴られる。
『よそ見してる暇があるんですか?ねぇテツ。』
「ごぁ!?」
ハイキックが綺麗に決まる。
テツは真横に吹っ飛ばされる。
それだけの威力がある蹴りを余裕をもって、しかもしゃべりながらやってくるなんて。
だけど、しゃべり始めた一瞬なら。いけるか?
『探せたとしても、殺されるだけ。そんなこと許すわけないじゃないですか。』
今だ!加速しろ!僕の体!
『ねぇケンタ君?』
「嘘でしょ!?あがっ!?ああああああああ!?!?」
瞬間でアイアンクローをされる。
「【手を・・・放せェ!】」
『邪魔。』
「ぐああああ!」
僕をテツに向けて投げた。それだけで、僕らは立てそうになくなった。
『方法は一つだけありますけどね。君たちにはまず、自分自身を正しく見つめて、等身大の力が手にできなかったら終わりです。もし、それが出来たら明日アレックスと一緒に、二つの仕事をやってもらいます。出来なきゃ雑事で終わりです。いいですね?甲斐性の無いサンドバッグはいらないんですよ。では。』
「待て、待ってくれ!」
「少しだけでいいので、聞いてください!」
『ダメです。』
そう言って出ていってしまった。
「最後まで話は聞いたなぁ・・・あぁ痛ぇなぁ~。よかったなぁ、見込ありだとよ。」
「え?」「は?」
「オイラははっきりと聞いたぞぉ?『等身大の力が手にできなかったら終わりです。もし、それが出来たら明日アレックスと一緒に、二つの仕事をやってもらいます。』ってなぁ。要は等身大の力・・・つまりは魂装でそうやって取り繕った力じゃなくて、元来のアンタら自身の力さえ手に入ったら、一緒にあいつを倒しに行けるってことだろう。もう一つは多分、健太お前の姉だろうなぁ。それを倒すんだぁ。お前の手でなぁ。」
「「ええええええ!?」」
なんだかんだ、酷くないか?
「それじゃ、訓練していくかぁ。」
いや早くないか?
「マジっすか!?ちょっとしんどいんですけど・・・」
「でもなぁやらなきゃいけねぇんだよ!そうじゃねぇと・・・あぁ悪い。でもな、契約書がある限りは消えねぇからよって思ってな・・・」
「いえ、分かります・・・。」
なんとなくその表情に、何があるのかを察してしまった。
幸い、疲れがあるだけで筋肉とかの概念はないみたいだから。
やはり、HPという概念で合っているのだろう。
「やりましょうか、特訓。」
「ケンちゃん・・・分かった、俺もやる。」
「悪いな、なんか付き合わせたみたいでよぉ・・・。」
そう言って笑うアレックスにいつもの飄々とした表情は微塵もなかった。
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