2日目 訓練(2)
「正直なぁ、そこまで出来上がってるとは思わねぇよなぁ・・・思う存分出し切れるってもんだ。っと言ってもだ、教えながらいくぜぇ?」
今まで感じたことのない圧に、少し恐怖を感じながら、僕自身も武器を構えようとする。
俺っち、何やってんだ?
え?何って防御を。
守るのに武器は悪手だぜ?体を使おう。【無効】やらなんやらを使えば安全だ。
なるほど・・・それもそうだ。ありがとう。
「んじゃ、まずは
喋ってる最中に唐突に、ノーモーションで、ソフトボール大の石が飛んできた。
「それになぁ・・・誰もそれが当たらないとは言ってねぇぞぉ?
避けたと思ったら急に軌道を変えて、散弾のように砕けてきた。
「「っ!?痛!」」
「んでなぁ、そこが一番の隙なんだよなぁ・・・実践なら確実に死んだぞぉ?HAHAHAHA!」
そう言って僕らの鼻先に矢を掠めさせたアレックスは笑いながらそこに立っていた。
まるで全部の行動が見通されてる気分だ。
俺っち、そうじゃない。今のは無理に避けなくていい。正面から突っ切るぐらいしなきゃ。
そうか、僕はテツより霊魂ランクが高いんだ。
それに言葉的に・・・アレックスも僕より低い。
なら、出来る。
「いいかぁ?オイラみたいに武器を作る奴は、単純な火力不足、ランク不足で小細工するやつだぁ。そうじゃなく武器を使いたいなら、オーダーメイドで魂の波長に合ったものを作ってくれらぁ。あぁ、波長ってのはよぉ、合ってないとそれに概念付与とかできないからよぉ。神器とかなら、問答無用でできない代わりに効果が元からついてるから安心なんだけどなぁ。ほら、立て。次いくぞぉ?」
そう言って武器を構えなおすアレックスの手の中に、石があったのを忘れずに見ていた。
「・・・テツ、手に注意。」
ぼそりとつぶやくとテツはうなずいた。良かったちゃんと聞こえたみたいだ。
「なんか相談かぁ?とりあえず、魂力の使い方も見せてやるよぉ。こうだぞぉ?」
つがえたと思った瞬間に射出され、瞬間高速で、今までの比にならない速度で飛んでくる矢があった。
「こんな感じで単純な火力を引き上げられるってぇことだぁ。これは魂力を注ぎ込むだけで出来るからなぁ。イメージ的にはなぁ、武器に使ってたエネルギーを纏うだけだぁ。」
単純明快な火力の強化。故に恐怖を覚えた。
課長クラスが使った場合どうなるんだ?下手すれば、床を簡単に抜けるかもしれない。そんな強化は存外あっさり出来てしまうものであり、やってみてその容易さに、概念を付与する時間なんて無くなってしまうということが良く分かった。
「それで、概念とは並行してかけられない。単純に仕組みを考えれば当然だがなぁ。なんたって、魂力を使ってそれの効果を強めるんだからなぁ。要するに、オイラには逃げるとき以外は基本使わねぇ能力よ。さてと・・・黙りこくってないで来いよぉ、瞬間で全部返してやらぁ。」
・・・戦略は立った。単純な火力で押す。それが多分今の最適解だ。
「いくよ!テツ!」
「了解!合わせる!」
足に纏った瞬間から加速し、全身に纏うと全身が強化される。
小ジャンプでフェイントをかけてスライディングする。
丁度アレックスの足の射程外寸前でその加速を使い、追加で地面を強く蹴り飛ばすことで最後の加速をして蹴りあげる。しかしそこには、アレックスの手が出されており・・・
「【
蹴った速度と全く同じ速度で地面にたたきつけられる。
後ろから来てたテツはその僕を飛び越えて、手にもっているバスケのボールをアレックスに投げつけ、叫んだ。そこにはまだ、反射の板がある故にそれを壊さないといけないが――――
「【破壊】【分裂】【弾道操作】【反発係数変化=2】!」
「4つだぁ!?テツ、あんた何やってんだぁ!?バケモンかよ!」
「安心しろ!一つ一つは弱い!」
「めんどくせぇ!
――――それをあっさり破壊しながら1つから6つほどになったバスケのボール全てがアレックスに飛来する。
テツの最も使ってきたものと言ったら、バスケのボールだからか自由自在に、まるで手足のように使いこなしていた。
あれを使いこなすってバケモンみたいな集中してるな。
そりゃ、僕の相棒だからね。
それはバウンドするたびに増え、加速し、移動する向きを変える。故に破壊力は微弱でも、とても強い力になる。アレックスはどうにか避けているが、正直当たるのも時間の問題のように感じた。
「そらそらぁ!」
「ちぃいい!めんどくせぇなぁ!ほんっと概念付与に関してと体の使い方は天才的だなぁ!なんとなくあの時でわかってたけどなぁ!思考力どうなってんだぁ!?」
「そんなもん、気合いだ!」
「クッソ脳筋じゃねぇか!」
「これで終わりだ!」
十分にボールが増え、僕でもここだと思うタイミングで、全方向からボールを一転に殺到させた。
「そいつをずぅぅっと待ってたぁ!【
ボールに覆いきられる前にアレックスはコートを翻えし、体を覆った。
「ぐあああああ!!!」
テツが謎に叫び出した瞬間、全てのボールが一気に崩れて消えた。
そうか、だからボールを一点に集中させたのか!すべてを同時に壊すために!
だが、浸食の能力を使ったこととテツが苦しんでいる理由が分からない。
「悪いなぁ。倒すのには破壊を浸食させるしかなかったんだぁ。」
「浸食ってどんな効果が・・?」
「簡単に言うとなぁ、相手の魂装越しに相手の魂自体にダメージを飛ばせるってやつだぁ。しかも継続的に痛みは残る。回避するには浸食前に作った武器とか接触部分を内部崩壊させて先に壊すしかねぇ。まぁ解除するけどよぉ。」
「あ~!めっちゃ痛かった!」
「なるほど。じゃあ・・・こう言うのは?」
そう言って距離を詰めて、脚撃を打ち出す。
狙うは膝。ローキックで、コートに当たらないようにする。
そして、足の甲に一応簡単に1つ布をかぶせておく。
それは衝撃と共に内部崩壊するようにしておく。
「コートは自由なんだぞ?それは悪手だろぉ、そらぁ!」
コートがまるで生き物のように伸びてくる。
足を止めることはできないが、布があるので思い切り蹴り抜く。
それは多少の手ごたえと喪失感をもたらした。
「ちぃ!そういうことかぁ!さっそく使ってきやがったなぁ!」
「テツ。いけるか?」
「もちろん!よっと。」
距離と時間を上手く取れたのでテツに話しかけた。
テツは思いのほかピンピンしていた。
アレックスも当たる瞬間に、少しバックステップで距離を離すことで無理やり完全に当たることを回避したみたいだ。
「あっぶねぇ・・・だがなぁ、内部崩壊系は魂力の消費が激しいぞぉ?なんせ、全部作ったもんは体に戻せるのに、わざわざ繋がりごと失ってんだからなぁ。」
「だから、あんなに後で怠くなったのか・・・」
「あの喪失感はそういう・・・。」
だからと言って手を緩めるわけにはいかない。
「あと、少しだけやったら終わりにするぞぉ?」
「・・・なら、いくぞ!テツ!」
「おう!フォーメーションXだな!」
なんだそれ?分からないけど・・・
「了解!」
答えなくちゃ相棒じゃない!
一歩踏み込むテツの左斜め後ろに付く。
アレックスはコートを脱ぎ棒のように固めて構えた。
テツの突進に対してアレックスは、右手に持った棒で横なぎに払う。それを飛び越えたテツはそのまま回転してかかと落としをかける、が左手で受け止められる。
それをテツは重いっきり蹴りきることで無理やり跳び上がる。
「今だ!」
「はぁ!!」
そこで空いた体に思いっきり拳を叩き込む。
テレビで見たかっこいいボクサーのパンチでもなければ、どこぞ空手家のような正拳突きでもない。
まっすぐに伸びることしかできないテレフォンパンチ。
だが、的確にみぞおちを打ち据え、願った手ごたえは有った――――
「っぶねぇなぁ!読めてなけりゃ吹っ飛んでたなぁ!お返しだぁ!」
――――はずだった。
瞬間で棒状のコートがハエたたきのように横面に広がって受け止められる拳、蹴りによって叩き返される体。
無理じゃないか?勝ち筋が・・・
「まだだ!」
意識を切り替える。
まだ、テツが諦めていない。
俺っちも諦めたいんだけどなぁ・・・まだ、一息いくしかない・・・か。意識少し貸してくれよ。なに、半分もいらねぇ。4分の1貸せ。マルチタスクしてやるよ。
頼んだ。合わせてくれる?
合わせる?もとより一つだからな・・・こう言えばいいんだよ。
「『行くぞおおおお!』」
視界はクリアになる。
より思考もクリアになる。
概念は要らない。遅くなるだけだから。
必要なもの以外はシャットアウトしろ。
テツの体が見えた。
合わせる必要は?
皆無!今は進むのみ!
テツが右手を突き出しボールを作り出したのを見た瞬間に、把握した。理解した。
体をそのままアレックスの方向に進める。横から3つほどボールが跳ねて加速していく。
「甘ぇ!」
その全てを打ち払うのは承知の上。
雲を踏み込む。
歩を進める。
加速する。
止まらない。何があろうと!
ここで・・・
「しっ!」
足を振り切る。それだけだ。
アレックスの一歩手前で行うそれには、何も当たる訳はない。通常なら。
アレックスの困惑した顔が浮かぶ。
そりゃそうだ。なんせ、何もないところで足を振ろうとしているんだから。
だが今は――――
「ケンちゃん!」
――――通常ではない。テツがいる。
準備は万端、角度調整は完璧だ!
『俺』がいる。
なら、負ける暇などない。
気づいたアレックスはとっさに概念付与しようとするがもう遅い。
賽は投げられているんだ。
後出しじゃんけんはさせない!
ぎちぃと不快な音をまき散らすバスケットボールが僕の足には付いていた。
変形し、弓なりになり、暴威をアレックスへと向けた。
「間に合わな、ぐっ!」
それはアレックスの体を正面から捉え、体をくの字に曲げた。
「まだ!もう一段仕掛けはあるんだぜ!お返しだ!【衝撃】【破裂】【増殖】【引力】!」
2つのボールがそれを追従するように進み、僕が蹴ったボールが増殖した途端アレックスに吸い寄せられて、全てが破裂し衝撃が爆発した。
「よっしゃ!」
「どんな事したらそこまでのコンボを思いつくんだ・・・?」
「そんなもん、ケンちゃんがいるからだろ?俺はもともと天才肌なんだぜ?」
「要するに、何も考えてないってことか・・・末恐ろしいよ。テツ。」
「褒め言葉として受け止めればいいんだろ?」
「あぁ、最高の相棒だよ、まったく。」
アレックスがズタボロになった状態で戻ってくる。
「あぁ~いってぇなぁ・・・くっそ、最後読み違うとはなぁ。最近の若いもんはバスケットボールを蹴らないってことを知らんのかねぇ?まぁいい。よくやった。魂力もかなり残ってるみたいだしな。」
そう言いながら、笑いかけるアレックスの懐の広さに、僕らは純粋に感心した。
「一応言っておくがな、破壊とか浸食とかそういう現実にイメージを無理に作れば作るほど威力は下がるんだからなぁ・・・課長とやることになると思うが、気を付ける点はなぁ、あの人は素が一番強ぇ。剣とか呪文使ううちは手加減されてると思え。それと、あの人に状態異常系、要するに破壊だのなんだのは効かねぇからな。魂の格が違いすぎらぁ。だから、使う概念は吹き飛ばしやら、移動やらそれぐらいにしとけよぉ?んじゃ、課長のところいくからなぁ・・・アンタらは最高にいいコンビだよ。シン君とレイとはまた別の方向で、良い進化するんだろうよ・・・全部が終わったら、オイラとマリーの話をしよう。そんな余裕ないだろぉ?頭んなかぜぇ~んぶアイツで埋まってんだろ?なら明日、話してやるよぉ。楽しみにしとけよぉ。」
そう言って出るアレックスに引き連れられて再び、僕とテツは道場に足を運んだ。
そこには、ボロ雑巾のようになったココアさんとそれを踏んでいる課長の姿があった。
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