2日目 気付き
アレックスが復活した頃に、ココアさんがこちらにやってきた。顔がクシャッとなった状態で。
「久々の大規模戦闘は辛かったのぉ。」
「あれぇ?ココアがそんなに疲れるなんて珍しいことがあるもんだなぁ?」
「そんなことはないぞ?課長との戦闘訓練なんて・・・」
「・・・そうやって、思い出すたびに腹を上に向けるのやめとけよぉ?」
「・・・はっ!わしはいったい何を!?」
「見たまんまのことだよぉ。」
「そんな感じになるほど怖いんすn「怖ぇよ!」「怖いぞ!」あ、はい」
なんだかんだ和気あいあいとしている現状を見守って満足しながら、こっそり食券を持ってきて列に並んでいた。ココアさんは自分のはちゃんと取ってきているのが分かったため、特に聞かなかった。
びっくりするぐらい、混んでいたように見えたのに、実のところちゃんと並んでいたようで、うるさいという一点を除けば普通だった。食券を3枚渡したとき、少し顔にしみとしわがあるけどそれが丁度よく感じる、素晴らしい笑顔がある故に接しやすいおばちゃんだった。食券を見せた瞬間、驚いてから「ははぁん?新人さんなのにがんばったねぇ」と言って頭を撫でてくれた。高校生にもなって撫でられたのは少し恥ずかしいが、嫌な感じはしなかった。
渡されたフレンチトーストを周りのみんなが食い入るように見ていたため、少し申し訳なかった。
テーブルに着くと殺気を一瞬感じそちらを見ると課長がいた。
少し頭を下げたら、軽く申し訳なさそうな顔をしたが、演技だろうと思った。
でも、優越感も感じた。だからこそ、少し考えるとアレックスに申し訳ないことをしたと感じてきてしまう。アレックスは元々めっちゃおちょくってくるタイプだから、そんなに罪悪感は感じなかったけど、今となっては少しだけ申し訳ないな・・・
「おっ?持ってきてくれたのかぁ!ありがとうなぁ!」
わしわしと力強めに撫でるその手に、やはり祖父の面影を感じた。でもその髪は、赤っぽくはなかった。
いつからだろう、こんなに色づいて世界を見れるようになったのは?
『ケンちゃん・・・こっちおいで。そうだ、お茶でも飲むかい?』
あぁ、あんなにも色づいていた世界が・・・
撫でられるのは今が最初じゃないのに、空腹からか、疲れているからか、分からないけど、世界が色鮮やかに滲んでしょうがないんだ。
「オイオイ!何だってんだぁ!?オイラなんかやっちまったかぁ!?」
「いえ・・・なんでも・・・なんでもないんです。」
「・・・アレックス、察してやれ。お主だってあったであろう。」
「ん・・・まぁそんな感傷に浸るときもあるよな・・・泣きたきゃ泣きなぁ。」
「ケンちゃん!大丈夫か!?」
「あぁ・・・テツ・・・大丈夫だ。」
目に浮かぶのは、昨日の帰り道。今日の通り道。黒のようでアスファルトには結構いろんな色が混ざっていた。そんな色でさえ愛おしい。
ああ、狂ってしまえるほどに。
みんなにとっては大したことじゃないのかもしれない。
いや、普通の人ならそんな大したことじゃないんだ。
ただ・・・ただ、その色があまりにもきれいで・・・
「目が焼けてしまいそうなんだ・・・ははっ。はははっ!そうか、そうか!こんなにも綺麗だったんだなぁ!僕はすっかり忘れていたんだなぁ・・・そうだ、冷めちゃう前に食べましょ!」
「ケンちゃんもしかして、ちゃんと色が?」
「あぁ、もう大丈夫だ。僕は『幸せ』を怖がらなくて済むんだ!!!」
みんなで食べたそのフレンチトーストは、綺麗に黄金のように輝いていて。初雪のような粉砂糖がかかっていて。どうしようもなく甘くて、それが嫌じゃなくて。フワフワで。溶けて。バターの香りがすごく効いていて。ただの情報としてのおいしさじゃなくて。すこししょっぱくて・・・
「旨あ!なにこれめっちゃ旨い!なぁケンちゃ・・・あっ「大丈夫」そうなのか?」
「あぁ・・・おいしいなぁ・・・ぐすっ・・・本当に・・・ちゃんとおいしいなぁ!」
涙が・・・止まらないんだ。
「なぁテツ、もしかしてあいつは味も感じなかったのかぁ?」
「いや、違うっす。ただ、『味しか』感じなかったんす。」
「『味しか』?」
「情報としてこんな味とはわかる。でも正しくおいしいかどうかが分からない。そんな状態だったんす・・・さっきまで・・・ぐすっ・・・うわああああ!よかったなぁ!!!!」
僕は体から、煙が出るような音を聞いた。
僕はようやくスタートラインになったのかもしれない。
――――――――――――
「よし、食い終わったなぁ?んじゃ午後の業務は1件だぁ。簡単だなぁ?」
「おう!」「はい!」
ぐっとアレックスとの距離が近くなった気がする。
まだまだ、ここから帰る日まではある。
課長の天使や部長たち、アレックス、女将さんにも何か返せるものを準備しておきたいな。
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