2日目  団欒

ふと、先ほどのことを思い返した。

体を通り抜ける手。それに取り出された黒い結晶。

僕の体の契約書も同様にすれば取れるのかもしれない。

まぁ、確証もなく意味もないため、やる気は起こらないが。


それに・・・テツが僕のことをどう思っているか、少しふれられた気がした。

ふっ、と笑みが漏れてしまった。


見たところ気づかれてはないみたいだ。

部屋の中を見ているみたいだった。


そのテツは、急にこちらを振り向いて口を開いた。


「なぁケンちゃん。この後昼飯のはずだよな?」

「そうだね、アレックスさんがそう言ってた。」

「ならよ、今のうちに少し魂装確認しないか?」

「は?危なくないか?」

「武器は実戦として使わないで、に決まってるだろ?あくまでも確認だけだ。」

「あー・・・やっといた方がいいかも。」

「んじゃやってみるか。」


そう言って瞬間で姿を変える。

僕も追従するように姿を変えた。


「「やっぱり目の前に自分の姿があるの違和感だな(ね)。」」


そうは言いつつも、なんとなくお互いに理由を察する。


僕はテツの力強さとしなやかなばねを。

テツは僕の脳と小回りの良さを。

それぞれが実は欲していたものがお互いに当てはまっていたのだ。


テツが武器の確認をして、「ちょっと自分の武器を触ってみろよ」と言ってきた。

左手で刀の鞘を握った。

そこからは漠然としたイメージが、【斬らせない】というイメージが流れていた。

少し刀を抜いて、刀身に触れてみた。

そこには、鞘とは逆の【斬る】というイメージが流れていた。



「テツ、この武器ってまさか・・・」

「多分、ケンちゃんの思ってる通りだ。考えたようになる。イメージが実体化するんだろうな。俺も拳銃を握ってそれを感じた。まぁ俺の場合は、【保護】とか壊れないとかだけどな。」

「これって、【壊れない】と【壊す】がぶつかり合ったらどうなる?」

「試すか!」

「・・・そうだね。」


新しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃぐテツに、少し自分も同じような気持ちになってることを感じて、少し恥ずかしくて、少し嬉しかった。

だからこそ同調してしまったのだろう。


「んじゃ、俺は【壊れない】って金の延べ棒でやるぞ?」

「なんで???まぁいいか・・・僕は【壊す】バットでやるよ。」

「よしこい!」

「まだ危ないでしょうが、地面に置いて。」

「あ、ごめん。」


そう言って、延べ棒を床に置いたテツが、十分離れてからバットを振り上げた。


「ここでいいね?じゃあはじめるよ。」

「オッケー!」

「3、2、「待て待て待て待てぇ!!!」え?」

「どうしたんだアレックス。」

「あんたらどんなアホやろうとしてんだぁ!?」

「「え?」」


やばい事だったのか???


「なんとなく、嫌ぁ~な予感がして来てみりゃこれかよぉ~。あんたらあれだろ?相反する性質2つぶつけようとしただろぉ?」

「「はい。」」

「それやるとなぁ・・・まぁものによるけど辺り一帯に両方の性質バラまくんだよ。」

「ってことは、【壊す】ってイメージも?」

「そう、何にも指定が無きゃぜ~んぶぶっ壊す性質をばらまく。逆のほうは【壊れない】かぁ。イメージ力が豊かなんだなぁ。そんな非現実的なものをちゃんとイメージできるやつなんてほとんど居ないぜぇ?とりあえず、黙っておいてやるからしまえ。体にってか、魂に触れさせるだけでいい。魂から生まれたもんは、魂は壊せねぇから安心しなぁ。はぁ~あっぶねえ。あと、魂装もしまっておけよぉ?」


そう言ってアレックスは、額の汗をコートの外ポケットから取り出したハンカチでぬぐう。

そんなにやばいやつだったのかあれ・・・言われたことから推測するに魂装は粒子か何かで出来てるのだろう。それに自分たちのイメージという力を持たせて・・・という具合か。

正直、甘く考えすぎていたかもしれない。


「「すいませんでした。」」


テツと全く同じタイミングで謝る。


「いいってことよ・・・もうやるなよぉ?」

「「はい!」」


そうして答えて顔を上げると、やたらと笑顔になっていたアレックスがいた。


「あの・・・何かいいことありました。」

「ん?そうそう、なんとなぁ・・・食堂で一番うまい飯って言われてるフレンチトーストの食券が3枚も手に入ったんだよ!いくか!いくよなぁ!有無は言わせねぇぞ。まぁ、先輩だから奢ってやろう!」

「やった!行きたいっす!ゴチになります!」

「ありがとうございます。ご馳走になります。」


そうして、「ほらいくぞぉ?」とアレックスに呼ばれるままについていくと真っ黒なコートでごった返しているところについた。


「すっげぇ人の数・・・いつもこんな感じなんですか?」

「あぁ、いつもこんな感じだなぁ。正直、良くこの食券取れたと思ってらぁ。」

「そんなに競争率高いんですか?」

「かなりなぁ。正直、課長がいたら半分なくなるからなぁ。」

「半分課長ってどんだけだよ・・・。」

「うわぁ・・・。」

『何を話してるんですか?』

「おっ、オイラ死んだわ。もう死んでたけど、HAHAHAHAHA!!!」


ミシミシと音を立てるアレックスのこめかみ。そのこめかみをアイアンクローしていたのは僕らの担当の天使の課長だった。


『どうですか、仕事の方は?』

「ちょっ!助けて!結構やべぇって、あだだだだだだだだ!」

『もう、うるさい人ですね。人が話してるときに割り込んではいけないって習わなかったんですか?』


すまないアレックス・・・僕には救うことはできない。

正直、ざまあ見ろなんて思ってるけど。


「マジやばいって!誰か!誰・・・」

『オッケーですね。それじゃ感想の方をお願いします。』

「「あ、はい。」」

「それじゃあ、僕から。なんか、生まれて初めてのことが多すぎて、それにアバウトなものでも、人の死ってものを知って、色々とイメージが変わりましたね。あと、正直、自分にできるのかって不安になります。あと、単純に寒気とかが感じにくくなりましたね。でも、やっぱり魂の強い人とのああいう仕事でのかかわりは怖いですね。」

『寒気を感じるのは当然ですし、不安を感じるのも当然かと思います。ですが、大丈夫ですよ~魂装が使えるからと言って、戦闘を行う訳じゃないので。そちらは?』

「うす、俺は自分ではあまり変わったとかそういうのはないんすけど、なんか、胸の奥にグワーッって来るような感じって言えばいいんすかね?いろいろな人と関わって、ここに来る前よりそれが強くなったっす。仕事っていう仕事をちゃんと出来てるかは分からないんすけど、俺の心に今まで出会った人が生きているって感じを強く感じるようになったっす。」

『なるほど、そちらは縁を強く感じるようになりましたか。やはり二人は似てるようで違う。ピッタリハマる歯車のような感じなんですね。見込んだ通りです。では、このくらいで。アレックスはここに捨てていきますね。』

「「あ、」」


僕らが話している間に、アレックスはぼろ雑巾のようになっていた。

すまない、アレックス!正直罪悪感は湧かなかったことは、心の底に隠しておこう。

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