2日目 覚醒

「それじゃあ、これ届けて来たら、二人目を呼ぶからなぁ。」

「「了解です。」」


ふと彼の後ろ姿に、言っていた言葉を思いだした。

彼の言っていた、狂っているという発言には、きっと多くの呆れの中に心配が含まれているんじゃないかと感じた。

気のせいかもしれないけど。

どうしても、彼は少しだけ悪ぶっているだけのように感じた。

悪くなりきれなくて結局、笑ってしまい、軌道修正したようにも。


「なぁ、ケンちゃん。」

「ん?どうした?」

「俺さ、思うんだけど・・・俺らってここに来てから結構変わったよな。」

「そうだね。僕が一番変わったと言っても過言じゃない。」

「俺は比較的変わってないと思ってたんだけど、やっぱりここの空気っていうかな、正直に生きてるような人たちを見て、聞いて、話して・・・それで変わっていってるんだと思うんだ。」


その顔には多くの喜びと、少しの困惑が見えた。そして、困惑の色をかなり深めた。


「それで、戻った時に俺らって大丈夫なのか?ここにいるのは死神っていう価値観、俺らとは絶対的に違ったはずのものだろ?俺らみたいな、いわば普通の男子高校生が持ってていいものなのか?って思っちまうんだ。」

「それは・・・」


YesともNoとも言えない。そんな感じにとても嫌なもやもや感がぬぐえなかった。だからこそ、自分に言い聞かせるように言葉を巡らせた。


「・・・僕は間違いだったと言いたくない。それは、きっと僕らの今を、ここの人たちを否定しちゃうことだ。でも、確かに価値観が絶対的に違うんだ。それを僕らは理解してしまった、できてしまった・・・だからこそ、僕らはどちらも尊重しなきゃいけないんだと思う。」

「・・・確かにそれはそうだけど、今までと同じようにみんなに接することができるか?」

「・・・」

「お?随分と考え込んでるみたいだなぁ。」

「「うわ!」」


気付くとアレックスが帰ってきていた。


「オイラがいない間に、何考えてたんだぁ?当ててやろう。オイラがさっき投げかけた言葉、『あの部長を基準とした形に精神性が変わってきてるんだなぁ。』っていうところだろう?」

「その通りです。」

「ああ、俺らは戻った時に今まで通りでいられるのかって・・・。」

「無理だろうなぁ。」

「嘘だろ?そんなんどうやって生きていけば「だがなぁ。」いい・・・えっ?」

「話は最後まで聞くもんだぞぉ?いいか?どんな人だって1日2日で変わるもんだ。Japanにだってこんな言葉あるだろ?『男子3日会わざれば刮目して見よ』ってなぁ。それなら、変化があるぐらいが丁度いいだろぉ。オイラだって最高神様だと思っていた人にまだ上がいるなんて知らなかったしなぁ。かなり価値観は変わっちまった。それでも、受け入れてくれる多くいる。安心しなぁ。オイラも元々特務だったからなぁ。先輩の言葉は信じるもんだぞ?まぁ、あんたらの周りがどうか・・・までは知らねぇけどな。」

「その感覚に差異は無かったんですか?」

「差異だぁ?いったい何の?」

「今までの人生の価値観との差です。周りとの関り方とかの。」

「そんなん、気にすんな。オイラにも、誰にも人生の正解なんぞないんだからありのままを受け入れていりゃあそのうち、幸せってもんが分かるようになるからよ。少なくとも、無理して取り繕って変化を嫌悪するよか、数十倍楽しめる。あ、これ実体験な。特に母親なんかは一発で見抜いてきたからなぁ。それほど悩むもんじゃねぇよ。」

「そうか・・・分かりました。」

「俺はこのままの生き方でいいってことっすよね?」

「そうだなぁ。テツは、もう少しだけ深く考えるようにすればいいんじゃねぇか?HAHAHAHAHA!!!」


そう言って、アレックスは大きく笑ってテツの頭を強く


「うわあああ!何するんだよ!」

「いやぁ、息子みてぇでな、つい。」

「息子さんですか?」

「おう、オイラにはなぁ30歳のころにやっとできた息子とその下に2人の娘が居てなぁ・・・あとは飯食う時にするぞぉ?さっさと終わらせようぜ。」


言い終わると同時に、手元からスライド式のガラケーを取り出して電話をかけるアレックス。


「おう、アレックスだ。うん?ちょっと!?待ってくれ待ってくれ、ちゃんと課長からは許可を貰ってるから!そうそう、んじゃ頼むわ。ん?そうそう、特務の二人とセットだぁ。ふぅ~焦らせないでくれよぉ~。次も頼むぞぉ?んじゃ、送ってくれ。ランク?確認はいらねぇよ。そんなんしたら特務の二人にばれちまうだろぉ?よし、んじゃ頼む。」


そう言うと、前回と同じように魂が現れた。

特大の恐怖感と眼前いっぱいの青色を携えて。


「っっっ!?」

「アレックス!?どういうことだ!」

「何って見りゃあ分かるだろう?霊魂ランクAランクの超大物だ。やってみな。今回は部分切除か解消だからよお。」

「「はああああ。」」

『耳元でうっさい!!!』


その一言に僕らは押しつぶされてしまいそうだった。アレックスはそれを受けても顔色一つ変えなかった。


『あんたらあたしに何しようってのよ!!!』

「おぉ、課長ほどでもねぇから余裕だなこりゃ。」

「何言って・・・」

『いいから!答えなさいよ!!!』


ガタガタと机や椅子が震えた。

ガラスの物があったら壊れてしまうんじゃないかとも思った。


「あぁ何かするぜ・・・但し、こいつ等がなぁ。」

「マジで言ってるんすか・・・?」

「この圧の中でどうしろと・・・?」

「とりあえず圧を抑えなきゃあなぁ!HAHA!」

『あんたら何をする気なのよ!』

「ぐうぅ。」

「ちぃ!」


どうすれば、収まる?いや、どうすれば聞く耳を持ってくれるんだ?


「ふぅ~・・・すぅ~。」


ん?テツが深く深く息を吸ったぞ?


「ケンちゃん!ここは俺に任せとけ!!!」

「おぉ?」


何の考えなしに言う訳はないと思う・・・

だが、テツはあんなにヒステリー起こしている人に、どんな声をかけるのだろうか?


「分かった。」

「おい!俺の話を聞いてくれ!!!」

『な・・・何?』

「やっと聞く耳を持ってくれたな・・・」


なるほど相手も止まるほどの大声でびっくりさせて、聞く耳を持たせるのか。

なかなかに頭がいい「俺の過去の話を聞いてくれ。まずはそれからだ。」は?


「テツ?」

「ケンちゃん悪いけど、こういう人にはまず自分を知ってもらうことが大切なんだ。」

「そうなのか・・・?」


どうなんだ?今から魂を傷つける人に対してそれは・・・?


「そうだなぁ・・・俺の人生について話させてくれ。俺の人生は中学までは順風満帆だった。言わば、天才みたいに思ってた。【何だってできる】そう思って疑ってなかった。実際中学までは特に努力せずに大体できたしな。だけど、高校でそれが変わった。そこそこの偏差値の高校に入ったら、勉強も部活も中学と比にならなかった。それに、クラスメイトとの関係とかも変わったし・・・何より、楽しくなかった。中学の時に住んでた場所の近くでは【何だってできる天才超人】って有名になってたんだ。それの色眼鏡やらなんやらで、正直学校に行きたくないって思う日もかなりあった。なんたって、期待に全力で答えないといけないんだからな。それを、壊してくれたのは、クラスで【厨二病】やら【薄気味悪い】って言われてたやつだった・・・それからかな。そいつのおかげで変われて、学校生活をちゃんと楽しめるようになったのは。」

『どうやって壊したの?』

「それは決まってんだろ?なぁケンちゃん!」


ここで話を振るか!?しかもそれ僕のことじゃないか!?僕は特に何もしてないぞ!?その時にやったことなんて・・・ぁ、あれか・・・


「頼む、教えてやってくれ。」

『早く教えなさいよ~』

「あーもう!僕がテツに【無理するなよ?辛そうに見えるぞ?】って言っただけだろ!?」

「それじゃなくて・・・まぁいいや俺が言うわ。その前に、文化祭の時に俺の仕事を代わりにこっそりやってくれてただろう?他のみんなは、何にも手伝ってくれなかったっていうか、できるだろうってたか括ってたから見ても手だししてこなかったやつを。」

「そりゃ、部活で多忙そうだったし、遅れたら困るなぁって思っただけで・・・」

「そう!それだよ!ケンちゃんにとっては大したことないかもしれないけど、俺にとっては大きなことだったんだよ!」

『二人は仲がいいのね。」


気付いたらヒステリーがかってた魂も落ち着いている。

これならできるんじゃないか?

アレックスがその瞬間を見計らって口を開いた。


「おっとぉ、言い忘れてたなぁ。今回のは中身を抜かねぇぞ?」

「へ?」

「はい?」

「まぁ、嬢ちゃんには死ぬほどの苦痛はあるかも知れねぇがな、HAHAHAHAHA!!!・・・がその程度だ。嬢ちゃんは耐えられるかどうかって聞かれたら。確実に耐えられるはずだぁ。」


そう言ってにこっと笑う顔に無性に苛立った。せっかく落ち着いてきた魂を、わざわざ荒立てる可能性のある発言をしたからだ。


『あたし・・・また痛いことされるの・・・?もう嫌よ!あんなの!』


再びまき散らされる、魂の暴威。だけど、その中には怒りによる恐怖よりも、忌避感や恐怖感をまき散らされたことによってくる寒さが比率を増していた。


「アレックス!なんてことを!「遅かれ早かれこうはなるんだぁ。」っ・・・」

「ケンちゃん俺に任せろって!な!」


無理してるようで無理してないというより、自身で満ち溢れた顔で言い放った。僕はなんとなく、信じてみようと思った。僕の恐怖がまだ過去の姉と重なって見えてしまって、抜けきらないからかもしれないが。


「なぁ!逆に考えてみろ!」

『何をよ!!!』

「ここで、受けなかったら、下手すりゃ存在そのものが消されちまうかもしれないんだぞ!?」

『えっっ!?でも・・・でも!もう痛いのはいやなの!』

「じゃあこうしよう!痛く無くできる方法を探そう!アレックス!あるか!?いや、あるんだろ!?解消って方法が!」

「ばれちゃしょうがねぇなぁ・・・あることにはある。が、それをやるにはちょっとだけ、えげつねぇ難易度をしなきゃなんねぇ。」

「それは・・・?」


アレックスの顔には、なぜかとても嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。


「魂装して、中身だけをはがす。そんで、見えてるその淀んでる部分を結晶化して、それを抜く。以上だ。」

「結晶化させた上で、中身だけはがせるんですか!?」

「できるだろぉ。なんたって魂装は魂から思った通りの姿を作り出すんだからよぉ。」

「そんなん・・・ん?そうか!魂にだけ触れない体にすればいいのか!」


テツが頓珍漢なことを言って魂に近づき、手を無くした・・・無くした!?


「おいテツ何やって「おらあああああ!よし掴んだ!」『きゃあああああ!?何すんの・・・あれ?痛くない?』うっそだろ!?」

「あとはこれを抜く・・・包んで・・・テレポートさせる・・・こうか!うん!出た!」

『あれ・・・何かもやもやしてたものが無くなった感じが・・・』

「あらら、完全に中身から腐ってる部分固めて抜いてらぁ・・・ちょっと待てよ、確認入るわ・・・まじ?一発目でこれは良くできてんなぁ・・・おし、んじゃ返してくるわ。」

『テツだったわね?ありがとね!』


わぁ、少し快活な感じになってる~

まぁこれで良かったのか??

少なくとも、オレンジ色になってるから(若干ピンク色だけど)、いいんだと思う・・・


「んじゃ、嬢ちゃんいくぞ?」

『もう!分かってるわよ!もしも、ここでも来世でもまた出会えたら、仲良くしてくれていいのよ?そこのケンちゃん?もね。』

「おう!仲良くさせてもらうわ!また巡り合う日まで!」

「こっちこそ仲良くさせてもらうよ。また巡り合う日まで。」

『あら、それいいわね!また巡り合う日まで!』


そう言って、別れるテツとあの子は手を振りあっているようにも見えた。

魂しかないはずなのに。いやだからこそ、直に感情を感じるのかもしれない。


「嵐みたいな人だったね。」

「いい人でもありそうだったな~。なんで腐ったんだろ?」

「確かに・・・でもそれは多分、異常なまでの痛みへの恐怖から来てるんじゃないかな?」

「なるほどな・・・てかアレックスはいつでも性格悪いなぁ~。」

「でも、ココアさんのおかげで元気になったからこそじゃない?」

「かもな!」

「というかテツ?どうして僕の話をしたの?」


そう言ってテツに少し責めるように言うと、テツはあっけらかんとした表情で

「俺の本当の人生の始まりはそこだと思ったからだよ。」


言葉を返すことができなかった。あまりにも照れてしまって。


「これからも頼むぜ?相棒!」

「あぁ・・・分かったよ!」


テツはここに来て一皮むけたのかもしれない。

そう思わずにはいられなかった。


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