2日目 差異

「ここがオイラとマリーの仕事部屋だ。部長の部屋ほど殺風景じゃあないだろぉ?」

「そうですね。思ったより賑やかですね。」

「まぁ、ほとんどマリーの私物とファイルだがなぁ。HAHAHAHA!!!」


アレックスはデスクの周りの椅子に手をかけて、笑いながら話しかけてきた。


「ここに座りなぁ。オイラは他の椅子を準備するからよぉ。」

「その間にできることはありますか?」

「それじゃ、受付に電話をしてくれるかぁ?番号は入ってるからなぁ。」

「了解です。」


スマホを立ち上げて、電話のマークのアプリを押すと、そこには【死神受付】と書いてある連絡先があったので、その連絡先をタップして、電話をかけると2コール程で出た。

『はい、こちら死神受付です。どのようなご要件でしょうか?お名前と一緒にお伝えください。』

「あ、すいません特務の新島健太です。仕事をお願いします。」

『ええと、特務の新島健太さんですね。今から書類のある場所に魂をお送りいたしますので、届き次第お仕事お願いします。ランクはD、霊魂ランクはC-となっています。魂の洗濯をお願いします。』

「了解です。確認で読み上げていいですか?」

『はいどうぞ。』

「ランクD、霊魂ランクC-、魂の洗濯ですよね?」

『はい、大丈夫です。』

「ありがとうございます。」

『では、お気を付けくださいね。失礼します。』


ガチャッという音と共に、ツーツーツーと電話特有の切れたときの音が流れた。


「なぁ、アレックスさん。今回やることってなんなんだ?」

「ん?見りゃあ分かるさ。黙って待ってなぁ。ほら、お出ましだぁ。」


すると、前と同じような感覚で、魂が現れたが・・・

酷く小さく感じた。


『どうも~。初めまして~。ここで、俺の罪を減刑してくれるって聞いたんで、とりあえず、天国に居られるようにしてくれます?』

「とりあえず、罪状を確認しといてくれよぉ?」


罪の一覧を見ても、同族殺しも何もなかった。敢えていうなら、自殺幇助が1回あるくらいか。

うん?なんでこの人がダメなんだろう?よっぽどの殺人鬼か、なんかじゃない限り、地獄に行くわけないのに。


「こいつには特例札が付けられていてなぁ。これを見なぁ。紙媒体にしか書いてないことだ。」

「どれどれ。」

『自分そんなことしたんすか?』


見てみると・・・

『【報告】

魂の腐敗を探知、中身を速やかに撤去し、疑似魂を入れるべし。比率は2対1対7。模範囚の培養済みの中身をここに送る。』


腐敗?魂に傷がつくとかは聞いたが、どういうことなんだろう。


「すいません、魂の腐敗って何ですか?」

「あぁ、そりゃそのままの意味だ。そいつの魂は腐り始めてるってことだなぁ。」

「どうして、そんな風に?」

「ん?そんなん分り切ったことだろうよぉ。中身が腐りきってるからだよ。」

『ちょっと!何ですか急に人のことをさしてそんな風に誹謗中傷するなんて!』

「あぁ?事実を言って何がおかしいんだぁ?腐った人格を保持しておくほど天界は甘くねぇってことだ。始めるぞ。Anfang起動しろIm Namen 神の名にGottesおいて。」


その言葉の直後に、透明な液体の入った水差しのようなものと何も入ってないグラス、そしてノミとトンカチが出てきた。


「さて、やるこたぁ簡単だ。魂に物理的に穴をあけて中身を抜く。普通なら出来ないことをできるようにする。まさしく神器を使うんだからよぉ。安心して消えなぁ。」


そう言って、魂をむんずと掴み上げ、床に胡坐を掻き、魂を股に挟み、手に持ったノミとトンカチで打ち始めた。


『やめろろおおおおお!いやだあああああああ!こんなことならここに来なかったあああ!』

「安心しなぁ。もし死ななかったとしても、首狩りの徒に殺されらぁ。逃げられたとしても、魂ごと斬らてれらぁ。だから、ここにきて正解だったんだぞ?あんたら邪魔したら、こいつのためにも、オイラたち死神のためにもならねぇからなぁ。」

『嘘だろ!?おい!痛い痛い痛い痛い痛い!がああああああああああああぁぁぁ!あっ……』


パキン

そう大きな音が鳴ったと同時に、沈黙する魂。

言われた内容と、昨日知った霊という存在の由来を知っているからこそ、自由に動くことができない。

まして、止めることさえできない。


「さてと、こっからが本番だ。」

「ちょっと待てよ!なんでそんなにあっさり人を殺せるんだ!?」

「殺してるわけじゃねぇけどなぁ・・・」


視線を魂に移し、魂の中身をグラスの中に入れながら、少し困ったような表情を浮かべるアレックス。その口調はまるで、あくまでもおかしなことをしていない主張をしているようで、少し嫌だった。そして、8割入れ終わった後、グラスにふたをして、水差しの中身を入れてる最中に、思いついたように「あぁ!」と言ってから再びこちらを見た。


「あんたらは多分見たことないだろうけど、動物を保護する保健所ってあるだろ?Japanにもよぉ。そこにはな、ある一定期間経つと入ってる動物を殺すって仕組みがあるだろぉ?それと同じ。世の中綺麗ごとだけじゃ済まされねぇのが現実だからな。いいか?完全無欠な幸せほど脆く崩れやすいもんはねぇ。オイラなんか分かりやすかっただろぉ?つまりはそういうことさぁ。なんせ、神の名前を持ってる死神だってこんな体たらくだ。これは、他のやつらのためにも必要なんだよ。どんなもんだって、生きてる上で清濁併せ飲まないと生きていけねぇ。それを分かれ。なぁ?」

「そうは言ったって・・・割り切れないっすよ。」

「いくら、正しい死や死神とかの仕組みを知ってても、許容できないことはあります。僕にだって。」


「ん、まぁそんなことだってあらぁ。それに例え話で殺すってわけじゃねえんだよ。教えてやらぁ。これは、あくまでも魂を治すためで、中身はちゃんと別のところで保管されるんだよ。来世が来るたびに、どの中身を残すか決めさせてな。だから、こいつ自体の価値は殺させてるわけじゃない。どうだ?これで満足か?そうそう、オイラはな、捨てやしないさ。ただ、こんな処遇になる腐ったやつを天界に住まわせるほど人は良くねぇよ・・・。」


ふと悲しそうな顔をしているように見えた。


「中身が腐るってのはどういうことをしたんですか?」

「そうなぁ・・・大切な人を失うってぇことをさせた奴らだな。もしくは生の意味を捨てた人だなぁ。こういう奴ほど人として破綻してんなぁ。基本。意味もなく、人の人生をふみにじれる価値なんてねぇイメージが正しいかぁ。」

「価値ない人生なんてあるんすか?」

「なくはない。いや、あるなぁ。他のやつらに害しか撒かなかったやつだなぁ。価値ってもんを決めるならだけどよ。」


そんな人がいるのか・・・まぁ居そうではあるけど。


「オイラたち死神はあくまでも天界の汚れ役。それ以上でも以下でもねぇ。部長たちに来る仕事は綺麗だっただろぉ。だけどなぁ、それはあくまでも『一例に過ぎない』んだよなぁ。オイラにだってこの仕事以外だって来る。でもなぁ部長たちはな、俺らが処理しきれないくらいの強い意志を持った奴にそれをやっているんだ。要するに、今みたいな奴よか、質悪く魂ごと取り込もうとするようなバケモンみてぇなやつの相手もした上で、最悪自分の裁量一つで【どんな奴でも】裁かないといけねぇんだ。それこそ、腐ってないやつでも、何かの拍子でそれに目覚めかけた、その因子を持つ奴ですらな。因子の壁を超えた奴には悪いやつは居なかったがなぁ・・・」

「もしかしてそういう人にも?」

「全員じゃねぇけど、やっぱり魂まで染みてるってなるとなぁ・・・やっぱりやらないといけねぇ。」

「それは・・・」

「やっぱり辛いっすね・・・」

「あの部長を基準とした形に精神性が変わってきてるんだなぁ。いや、変わらないわけがないな。天界に来て、生と死を間近に感じたんだからなぁ。それ、大事にしろよ。」


そう言って飄々と笑うアレックスには悲しそうな瞳をしていた。


でも、やっぱりアレックスは悪い人ではなさそうだ。


「んじゃ、終わったことだし、とっとと2人目済ませて昼めし食いに行くかぁ?」


やっぱり残念感が漂っているけど。

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