2日目 説教

部屋に行くまでの間に、アレックスは色んな人に話しかけられた。

植物もいたし、なんならめっちゃダンディボイスのチワワにも話しかけられていた。

その度に辛そうに顔を歪めて

「大丈夫だ。心配なんてガラじゃねぇことすんなよ。」

とヘラヘラしていた。

それを途中からついてきていた、ダンディチワワが悲しそうな顔をして見ていた。

テツが見かねて、アレックスに話しかけた。

「なぁ、アレックスさん。大丈夫な顔してないっすよ?」

「なぁに言ってんだ?大丈夫だ。オイラはあいつが居なくても・・・どうにかできる。やらなきゃなんねぇんだ。安心して戻ってこれるように。相棒の俺が、マリーのことを・・・」


その時、ダンディボイスのチワワの目が吊り上がって、そのまま吠える如く怒鳴った。


「貴様ぁ!何を言うておる!今にも消えそうな惰弱な顔をして!マリー嬢もそんなことは望んでおらん!」

「ココア!てめぇはマリーの何を知ってるんっていうんだ!」

「お主よりは知らん!」

「なら「だが!」あん?」

「お主よりは、お主のことを思うマリー嬢の気持ちは知っておるわ!このたわけ!」

「ぐふっ。」


チワワは錐揉み回転で、アレックスのみぞおちに突進と言うよりダイブした。


「貴様は!マリー嬢が何を願っておったか知っておるか!知らんであろう! ならば教えてやろう!マリー嬢はな、貴様の幸せを願っておったのだ!今度は貴様が願ってやる番だ!貴様が待つ番だ!いつまでもマリー嬢の気持ちに応えてこなかった、雄にあるまじき雄よ!」


そう言ってアレックスの上にまたがるチワワはフンスと鼻を鳴らした。

アレックスは目を合わせられないでいる、


「わしはな、己が身を失ってから初めて、どれだけ愛されていたかを知ったのだ。それを貴様にはしてほしくは無かったが、逆の形式で起こるとはな。しかも、よりによって記憶喪失など・・・貴様は何だ?叱って欲しかったのか?ふむ、図星のようだな。ならば最後に一つ言わせてもらおう。貴様は下らん事ばかり考えすぎなのだ、単純に言わせてもらおう。死ぬ気で生きろ。それだけだ。貴様がどれほど辛かろうと苦しかろうと、それこそ、本人に叱って欲しかろうと関係がない。マリー嬢のためにも貴様が心から真摯に生きてないと意味がないのだ。」

「っっ!ココア、お前・・・」


涙を流し始めたアレックスは少し、いや確実に少しは元気にはなった。

今後あのチワワのことをココアさんって敬おうと思った。


「まぁ。わしから言えることはこれくらいじゃな。すまんの年寄りの冷や水かもしれん。されど、覚えておけ。そこの子供たち、すまんな、時間を取らせて。」

「いえ、大丈夫です。」

「そうか・・・む?お主たちもしや・・・こ奴と一緒のところの特務か?」

「そうっすよ。」

「はい。今から教わるところです。」

「なるほどのぉ、お主らに感謝を伝えておこう。調査の結果、お主らの助けた魂はマリー嬢の・・・と言っても分からんか、こ奴の相棒のものじゃった。魂のみを奪うなど・・・そのためには、契約書の効力を超えるほどの残酷な真似をせねばならね・・・ふざけた真似をこの牙で食いちぎってやろうか・・・。」


グルルと唸っているココアさんは徐々に大きくなり、大きな狼になった。


「「へ?」」

「ぬ?お主ら魂装こんそうも知らんのか、ならば教えてやろう。魂装こんそうとはな、魂に纏う姿形を思いどうりに変えて、戦いに適した姿に変えることだ。お主らも衣服を変えたりしたことがあるだろうから、そこのやり方は省く。やってみよ。そうじゃな、剣でも盾でも、鎧でもいいぞ。」

「ぐすっ、ああお前ら魂装こんそうやるならイメージを強く持てよ。一応慣れれば誰だってできるからなぁ。」

「「は、はい。」」


目を閉じて、想像、想像そして、姿形を創造・・・思い描くのは、テツのように大きな身長で刀を持って、弓を背負って・・・それでいて、鎧を着るいわば、武者に・・・


「おお~!すげぇな!見事なもんだ。」

「ふむ、お主らも十分に戦えるようじゃな。あとは技術があればと言ったところか。」

「そうですか?よかった~」

「そうっすか?へへへ。」

「「ん?」」


僕の声がテツのようになっていて、隣から僕のような声が聞こえた。


「まぁ一つ言うなら。お互いにお互いが理想の戦う姿ってぇのが面白いな。HAHAHAHAHA!!!」

「お互いに信頼しあっておるのだろう。それこそ、いざという時に任せればどうにかなるとな。」


テツのほうを向くと、西部劇のような恰好の僕がいた。両方に銃を入れており、そこは忠実じゃないというか、ロマンを取っているあたり、テツらしいとも思うが。


「僕じゃないか!」「俺じゃん!」

「なんで僕なの?絶対元の背丈のほうが強いって!」「なんで俺なんだよ!大きければ強いわけじゃないぞ!?」

「そりゃあ、テツがすごいって思ったからだよ!」「そりゃあ、ケンちゃんをすげぇって思うからに決まってんだろ!」

「こんだけ息ぴったりなコンビ、今までいたかぁ?」

「おらんな。」

「んじゃ、ちょっくら戦ってみる『そこのお前ら?』ヒェ」


僕たちを初日に迎えた天使の課長が突然現れた。仁王立ちで。周りに圧力を振りまきながら。

体が急に固まり、ろくに動かすこともできなくなる。それなのに足が震え、寒気が止まらない。

首元に鋭利な刃を突き付けられているようだ。


『なに魂装こんそう展開している?仕事はどうした?今の時間を言って見ろ。』

「「「「すいませんでした。」」」」

『百歩譲って特務の二人は許そう。だが、私はお前ら二人を許さないぞ?』

「「すいませんでしたあああ!!!!」」

『それじゃあ・・・コホン。』


圧力が急に消えた。どっと噴き出す汗に、どれほど張り詰めたものだったかが分かる。

未だに、足の震えが止まらない。威圧されたココアさんは狼からチワワに戻ってしまっていた。


『特務のお二人はアレックスについて仕事をしておいてください。あとで道場に来るように。ココア、あなたも仕事を終えたら、一緒に来てくださいね?』

「「「「分かりました!」」」」


そう言うと振り返って鍵を使い、空間の歪みを使って早々に出て行ってしまった。


「それじゃあ・・・仕事するかぁ。はぁ~怖かったぁ~。」

「わしはほぼ処刑みたいのもんじゃないかの?まぁ仕事終えたら集まろうぞ。場所はここで良いな?」

「ああ、大丈夫だ。」


そうして別れた僕らがみたのは、ココアさんのより小さくなった、捨てられたチワワのような背中だった(物理)

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