2日目 虚勢
外に出ると、夜にあった屋台が全て無くなっていた。
存在が無くなったわけじゃないのに、まるで、元からなかったかのように・・・
「すいません、どうして夜の屋台が形跡もなく、全部なくなっているんですか?」
「そりゃ当たり前だろ?・・・ってそうか、あんたら、ここにきて日が浅いんだったなぁ。悪い悪いHAHA!」
ヘラヘラとしながら頭を掻くこの人はどうにも憎めない。
そんな明るい彼の顔は、無理をしているようにも見えた。
「ここの屋台ってのもな、創生神様が生み出した3柱の神様のうちの万物神様が作ってんだがなぁ、どうにもあの人は苦労人でなぁ。ん?苦労神か?なんせ、【万物を生み出す】って創生にも近しい御大層な名前を付けられたもんでなぁ、一番魂たちに向き合ってくれてらぁ。その神が、一つ一つこんな町の床の雲から屋台の骨組み、更には贖罪まで、丹精込めて作ってんだから、そりゃぁみんな大事にするわけよ。それこそ、破損一つ、ごみ一つ残さないぐらいになぁ。」
確かに、そこまでしてもらったら、普通に大事にするだろう。
それにしてもなんだ、この人イケおじって感じだけど残念臭が……
「なんかオイラに対して失礼なこと考えてないかぁ?」
「いえいえそんなことは・・・はいあります。」
素直に認めておいたほうが良さそうな気がした。
「なんだぁ?最近の若ぇもんは、素直なのかぁ?それとも、逆に少し捻くれてるのかぁ?まぁどっちでもいいが、嘘はなるったけ噓をつかないに越したことはねぇな。HAHAHA!!!」
わしわしと頭を撫でてくるその大きな手はまるで、祖父のようだった。
最後に祖父と会ったのは、いつだろう。また、会いたいな・・・
「ん?なんだぁ?オイラの手がそんなに老けてたかぁ?それとも、その年になって撫でられるのは恥ずかしいかぁ?」
「いえ、そういう訳じゃなくて・・・なんというか、その祖父を思い出しちゃって・・・。」
「そうかぁ、不躾なようで悪いが・・・死んだんか?」
「???元気いっぱいに生きてますよ?」
「はぁ?なんか、しんみりしてやがるからそういうことかと思っちまったじゃねぇか!」
「多分ケンちゃんは、その、姉が死んでからそんなに人と関わらなくなったらしいので、多分3年ぐらい関わってないんすよ。」
「テツ?なんでそれを?」
「そりゃあ、お前がぶっ倒れたときにプリントとか渡しに行ったの誰だと思ってんだ?その時にケンちゃんのお母さんに聞いたんだよ。」
「あっ。」
「あぁ、なるほど、悪いな聞いちまって。」
「いえ、大丈夫です。僕もそのうち言わなきゃいけないなって思ってはいたので。」
思わぬところで、知らないことを知ってしまった。そんな顔をされても困る・・・
「いやぁ色々悪ぃなぁ。オイラはちと配慮が足らなかったみてぇだ。恩人にそんなこと聞いちまうなんてな。」
「それより、初対面なのにあんなにからかってきたのはどう思ってるんすか?」
「テツくんよぉ~それは言わないお約束だろぉ?」
「調子いいこと言ってんじゃねぇぞ?絶対忘れない!」
「HAHAHAHAHA!!!そりゃ悪かったなぁ!」
この人なら、きっとどんなことでも、自分が背負ってその上で笑っているんだろう。
きっと誰よりも、根が優しいんだ。
「おうおう、そんなこと言ってる間についたぞ?受付はこっちだからついてきなぁ。」
「えっ?昨日はその奥のところから、何もせずに出たんですけど。」
「そりゃあ、部長とか課長専用の通路だな。平や下っ端には鍵がねぇんだわ。」
「そうだったんですね。そういえば、死神って死亡代行者とかもいるらしいんですけど、他にはどんな仕事があるんですか?」
「あぁ、だいぶ多岐に渡ってあらぁ。まずは下っ端、こいつらは基本3つのことしかしない。知ってるだろう『自殺代行者』、それに加えて『首狩りの徒』、『偽装者』だ。それぞれ名前の通りのことをしてらぁ。敢えて言うなら、『首狩りの徒』こいつ等は殺すんじゃない、魂だけを文字通り切り取っていく。んで、俺たち平から、部長までは主に10の仕事を振り分けられてる。オイラたちは『魂の洗浄』まぁそれは分かるな?」
「「はい。」」
「それ以外は・・・あとは受付で仕事とってからだ、ほら言うこと言え。」
そう言いながら、コートの内ポケットから、免許証の様なものを出して、僕たちにニカッと笑った。
「あっ。僕は特務の新島健太です。」
「同じく特務の山城哲也です!」
そこには小さな鼻眼鏡をかけた黒髪ドレッドの黒人女性がいた。
とても、優しそうな笑顔を浮かべていた。
「あら、坊やたちが特務の子ね?『魂を洗う』仕事依頼が来ているわ。あとは、二件の『魂の浄化』の依頼もね。頑張ってね小さなヒーロー!」
「おいおい~言ってくれるじゃねぇの?オイラにはそんな言葉かけられたことないんだけどぉ?」
「・・・アレックス・・・アンタは災難だったわね。これ以外にかけられる言葉がないのよ・・・私があの時出勤していれば・・・有給休暇を取ってなければ・・・・」
彼女は急に声のトーンを落として、俯いてしまった。
「いや、何もジェシーに非はねぇ。ジェシーは魂の権利を正しく使っただけだ。間が悪かったとしか言えねぇ「アンタは!」・・・なんだ?」
「アンタは・・・苦しくないの?悔しくないの「苦しくて、悔しいに決まってらぁ!オイラさえついていればとは言わねぇがなぁ!救えたもん次分から取りこぼしたんだ!」・・・そうよね。ごめんなさい。はい、今日の仕事よ。ごめんなさい、顔を見ているだけで辛いの・・・どうしてもよぎってしまうの・・・」
「あぁ分かってる。貰ってくぜ。あんたら、ついてきな。あとは部屋で話す。」
そう言って先に進む彼の背中は、宿を出たときほど大きく無く感じた。
足裏から感じる、雲の感触が、やけに固く感じた。
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