2日目 新人
話をしているうちに、だんだんとあたまがぼーっとしてきた。
「テツ、ごめん上せそう。」
「じゃあ朝飯でも食いに行くか、そろそろ俺も上せそうだ。」
「そうだね。昨日のご飯もおいしかったからね。」
「あの女将さんめっちゃ可愛いしな。」
「何言ってんの~?もしかして~?」
「いいだろう!?かわいい人をかわいいって言ったって!」
「まぁ、明後日までしか居られないんだ。好きにするといいよ。告白するなりなんなりね。」
そういって軽口を叩いて先にお風呂から出る。
ぱっとイメージ出来たのは学生服だったから、学生服に着替え、速足で部屋から出る。
「おっさき~。カギ閉めて来てね~。」
「ちょっと待てよ!速いって!性格変わりすぎだろ!今の発言に断固として・・・」
そんなテツを置き去りにして先に一人先に広間に行くとおじさんとレイくんがいた。
女将さんと何か話してるみたいだった。ん?女将さんの顔が少し赤いな。
「やっぱりシンさんはいけずやわぁ。いつになったらうちん思いに答えてくれはるん?」
「あのなぁ・・・一応妻がいた俺にそれ言うの止めろって何度言ったら分かるんだ?」
「おじさんも諦めなよ~。毎度そう言いながら、思いを最後には受け止めてるじゃん。」
「ったくお前も毎度毎度そうやって・・・おっ!良いところにいるじゃねぇか!健太!頼む!女将さんを止めてくれ!」
「何言うてはるん?うちとシンさんとの逢引を邪魔するん?」
目が・・・結構怖い。
「・・・いいえ~やりすぎずにどうぞご自由に~。」
「っちょってめえ!見捨てやが「はーいおじさんこっちこよーねー。」俺には美恵っていう生きてた頃のつまがああああああ!!!」
「今はいぃひん。なら浮気ではおまへん。そないでしょ?ほな、少し行ってくるわぁ。」
奥の部屋に連れていかれるお兄さん。連れていくレイくんと女将さん。
殺伐と(仲良く)してるなぁ・・・ん?なんだこれ?紙?表は白紙、裏には『バイキング形式なので、ご自由に取っていってください。』か、なるほど。
とりあえず置いてあるのは、主食に白米。副菜に鮭の塩焼き、アジの干物、サバの味噌煮・・・和食だな。やっぱり宿だから当たり前か。
飲み物は色んなお茶があった。
漬物やお吸い物、味噌汁、それにお浸しにきんぴらもあるのか・・・
とりあえず、サバの味噌煮と白米、ほうれん草のお浸しと麦茶を取った。
そうしていたら、テツが来た。
「おーい!ちょっと速すぎないか?」
「なんか・・・ごめんな。」
「いや、大丈夫だけど・・・どうした?」
「なんでもない・・・なんでもないんだ。」
「???そうか。」
とっても申し訳ないなと思う。あの光景は結構な・・・。
2人で仲良く話しながらご飯を食べてるときに何人も黒いコートを着た人が来て、ご飯を食べていた。
死神御用達というのはよく分かるけど、なんでみんな部屋を借りたりしないんだ?
軽くそれをテツに話しながら見ていたら、一人の飄々とした感じの50歳ぐらいの赤めの茶髪の細目の男性がこちらの視線に気づいたみたいだ。その男性が手を振ってきてこっちおいでと合図をしていたので、テツと一緒に向かった。
「おはよう。坊やたち、新参者だよなぁ。連絡は来てるから大丈夫だ。特務のお二人さん。オイラたちがそんなに珍しいかぁ?」
「おはようございます。視線に気を悪くさせてしまっていたらすいません。なんでみんな部屋を借りたりしないのかなって思って。」
「ああなるほどなぁ。それはな・・・ここの女将さん目当てさぁ!」
「えっ!?」
「いやテツ反応しすぎ。冗談ですよね?」
「あながち冗談でもないけどなぁ。正しくは女将さんが作ってくれたこの宿の空間目当てってことさ。」
「なぁんだ・・・」
「おやぁ?その坊やは女将さん目当てかぁ?止めておきなぁ。あの子には好きな人がいるからなぁ。」
「えっ!?そうなんすか!?」
この人、両方分かっていながらこういうことを言ってるな?
少し細い眼の奥を爛爛と輝かせている。
「まぁ、一つ言っておくと、オイラにもその経験があるから、安心しなってことかな。ほら噂をすればなんとやらってやつだ。」
そうするとコツコツいう音と共に奥に消えたみんなが、姿を現した。
ニヤニヤしているレイくんと少しやつれ10歳ぐらい老け込んでしまった、お兄さん、艶々した表情と少し上気した顔になっている女将さん。
何があったかは瞬間で察した。
「まぁテツ、諦めも必要だ。僕は君がきっといい人を見つけると信じてるぞ。」
「なぁ、ケンちゃん、なんでか頬っぺたが、目が熱いんだ。何だこれ。」
「それを人は涙っていうんだ。」
「ナミダ?コレガナミダ?」
「ノリノリじゃないか。もう元気なのか?」
「いや、こうでもしてないと気が狂いそうだ。」
「HAHAHAHAHA!!!」
「ケンちゃん、ちょっとこの笑ってる屑を叩いていいよな?」
「いいよ。他の誰も許さなくても僕が許そう。」
「〇ねええええええええ!」
「Ouch!何するんだいきなり!」
「それ言っちゃいけない人が何言ってんだ?」
テツにしては珍しくど正論だな。
女将さんと会わせるといろいろやばそうだから先に済ませておこう。
「なぁテツ。どうする?今日もここに泊まるか?」
「・・・まぁここが一番いいからな。」
「未練がましいなぁ!坊や!HAHAHAHAHA!!!」
とりあえず無言で頭を叩いておいた。
「それでいいのか?」
「ああ、・・・ぶっちゃけ幸せそうなあの顔を見られて満足だからな。」
「そうか、分かった。」
そうしていると、お兄さんたちが話しかけてきた。
「おはよう二人とも。健太は後で覚えておけよ?何吹っ切れたか根掘り葉掘り聞かせてもらうぞ。てか、よくこんな所見つけたな。」
「まぁ覚悟はしてます。でもあの顔は・・・」
「なぁに?うちがなんやんね?」
「ナンデモナイデス。」
「怒った顔もかわいいな・・・」
ぼそっと言うなぼそっと。
「分かった何でもない。許してやろう。それでここはどうやって見つけたんだ?」
「たこ焼き屋さんで教わりました。」
「あぁジェシカさんか。どうりでな。」
「分かるんですか?」
「分かるも何も、俺らも最初はその人に教わったからな。それからずっと使わせてもらってる……それに責任も取らないといけないからな……もうダメだって何度言ったって聞いてくれないんだよ。」
「なるほど、両方把握しました。」
「ぐはぁ!」
「HAHAHAHA!!!」
もうダメだって顔しているお兄さんに、エア吐血してるテツに、それを笑う例の男性、うんカオスだな。
「そういえば、シンさんって呼ばれてましたけどそれって?」
「あぁそれは俺の本名から取ったんだよ。個別番号はめんどくさいだろ?ならお兄さんって呼べって言ったんだけど、それじゃ嫌だって言われてな。」
「僕達もそう呼んでいいですか?」
「上司のいないところならな。レイのことも同じだからな?」
「わかってます。」
そう言われて、レイくんを探すと何処にもいなかった。
「そういえば、レイくんは?」
「あいつなら今頃、小雨に甘えてるよ。」
「へ?」
「それはどういう?」
「あいつはな、前世の記憶も無ければ、今回は5歳ぐらいに両親が他界したからな。俺が叔父の立場だったから、引き取ったんだよ。そっから記憶が戻ってきたからな……。多分父親の代わりはできても母親の代わりは出来ないな。妻ができるのも少し遅くなったし、その頃にはすっかり親離れしたと思ったんだが、やっぱり少しな……。」
そりゃそうか、どんな人だって、過去はあるんだ。魂が強くても、心が強いわけでも何でもない。
「湿っぽい話はこれぐらいにするぞ。準備はできてんのか?っていうか、持ってきてるものがないか。まぁとりあえず、風呂とかにも入れてるみたいだし、多少は魂の使い方も分かってきたみたいだな。イメージが大事なんだが、それこそ、植物だって動物だってここじゃ人の形をしてるからな。頑張れば変わることはできる。が、若いころの姿とかのほうがまだやりやすいな。それと、お前らには今日から見学じゃなく実際にやってもらうわけだが、たった一つまだ、見てもらってないことがある。それをまず見てもらう。」
「それは?」
「そこにいる死神にも手伝ってもらうけどな。【魂の洗浄】の浄化のほうは見てもらっただろ?洗濯のほうを今度は、見てもらう。そうしたら、本格的にやってもらうぞ。」
「どぉも!オイラが先輩のアレックスだ!アルとでも呼んでくれぇ!」
「屑野郎とでも呼んでやれ。」
「「よろしくお願いします(な)!屑野郎!」」
「コンビネーションはバッチリだなぁ!シン君。指導完璧じゃないか?まぁ先輩として部長の後は引き継がせてもらう。特務の坊やたち・・・いいかぁ?」
アレックスは突如として表情を真面目にした。
「あんたたちがおこなったことは素晴らしいことだぁ。英語で言うならPerfect!そう手放しで褒めてやりたい、が、そう簡単な話じゃあねぇ。特務にしては出来すぎてしまっていらぁ、少々やりすぎとさえ思えた。されど、功績が廃る訳じゃあねぇ。だからこそ、君たちの部長や課長が彼らで良かったなぁ。オイラたちの課は少々実力主義だ。だからこそ、オイラはあんたたちを直で見たかった。それだけさ。」
「お眼鏡にかないましたか?」
「あぁ、若ぇのに十分だ。観察力行動力、二人揃って完璧だ。改めて言わせてもらおう。オイラの相棒を救ってくれてありがとう。あそこであんたたちによって救われたのは、オイラの相棒だ。一時的にピンチヒッターとして死亡代行として駆り出されたらこうなってやがった・・・まぁオイラ自身としてはさっさと気づけなかった、オイラ自身を一番許せねぇ。それでも、乗っ取りやがったそいつも許せねぇ。だからこそ、部長たちに託したんだ。オイラ自身が何するかわからねぇから。」
彼の胸の奥が靄となり真っ赤に燃えていた。
それは、怒りなのだろう。
軽薄な態度で、飄々としながら、冷静で、仲間思い。
そんな彼はきっと、本当に優しいのだろう。
「まぁそういう訳で、件の輩をとっちめるために今日は俺らは居ない。今日か明日には捕まえらるはずだ。その上で8時集合って言ってたのはこれを伝えるためだ。仕事開始時刻は8時30分。特務の健太ですとでも、哲也ですとでも言えば受付が対応してくれる。あと、早めだがこれを渡しておく。」
そう言って投げ渡されたそれは、スマホだった。
「お前らはこれでいいよな?流石にこれ以上の機種ものは基本求めんなよ?」
「了解っす。」
「ハンズフリーの端末無かったんですか?」
「あ?あったとしてもお前ら特務だからそんなに使わねぇぞ?」
「それもそうですね。ありがとうございます。」
「おーい!おじさーん!お待たせー!説明終わったみたいだね~。」
「おう、やっておいた。んじゃ俺らはいくから。アレックス後のことは任せた。」
「了解した。部長、相棒を頼む…」
「「任せておけ。(いて!)」」
そう言って二人は出ていった。
「それじゃあ、オイラたちも行くかぁ。」
「そう言えば歯磨きは?」
「ん?あぁそうか日が浅いからなぁ。それはやってもやらなくてもいいんだ。気分的にやりたい人が多いから一応置いてるんだとよ。」
「そうだったんすね。」
「そんじゃ、テツ君、ケン君仕事場に行くとするか。」
「今日泊まる分お金払ってないんですけど。」
「それもそうか、女将さーん!」
「なんどす?」
「「おわっ!」」
すっと後ろから現れた女将さんに驚かされた。
「今日の分のお金を払っておきたいんですけど、継続できます?」
「当たり前どす。40信でよろしおす。」
「ありがとうございます。これでお願いします。」
「ほな、丁度もろたで。気ぃつけてな。いってらっしゃい。」
「「「行ってきます!」」」
そう言って僕たちはみんなで宿を出た。
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