1日目 把握
「「はぁ?」」
『じゃあ、今からあなた方には状況を説明しますね。』
そう言ってほほ笑む美しい女性。声が脳内に響いてくる感じがする。
頭にはわっかがそして何よりも、その背中から確かに・・・羽が見えた。
「なぁケンちゃん。俺には後ろに羽が見えるんだけど気のせいかな。」
「大丈夫、僕にも見えてる、だめかもしれない。」
『もぉー聞いてくださいよ!良いですか?状況を説明しますよ!返事は?』
「「はい!」」
反射的に・・・学生の性で・・・
『よろしい。では聞いてくださいね。』
そういって女性・・・というか天使は、こほんと喉を鳴らしてから口を開いた。
『まず自己紹介から・・・私は天使です。個体番号は9987899204872334の魂です。比較的最近生まれた天使なのでこのように、「待て待て待て待て!個体番号ってなんだ?」はぁ・・・』
思わずテツが声を上げるとあからさまに不機嫌になった。
『少しは黙って聞いてられないんですか?ガキどもが。いいですか?個体番号と言うのは創生神のジジイもとい神様が作った魂の作られた順につけられる番号です。ぶっちゃけ関係ないです。言わないといけないから言ったら毎度毎度毎度毎度・・・そういわれるから、ほんとは言いたくないんですよ!わかりました?』
「「はい」」
返事の後テツに耳打ちをする。
「話を聞いてる間は黙っておこう。後が怖い。」
「分かった。」
二人して姿勢を正して向き直った。
『よろしい。では続きから、えー比較的新しい天使なのでこうやって貴方たちのような、一時的に魂を預からざる負えない魂のインストラクターをやっています。要するに下っ端です。そして、その下に死神やらなんやらもいるんですが、天使はそんなに地位が高くないので、言えば何でもできる存在ではありません。何なら私なんかは、死後死神になってから天使になったので比較的叩き上げですね。なのでフラットに接してください。たーだーし、話を最後まで聞かない人は大大大嫌いなのでお覚悟を。では質問は?』
「一つ質問していいですか?」
僕は一つだけ気になったことがある。それを聞かないのは機嫌を損ねるより危ないと思ったので聞いてみる。
『ちゃんと許可を取るところすごく好感持てますよ。どうぞ言ってください。』
「一時的に魂を預からざる負えない魂のインストラクターをやっているって言ってたんですけど、僕たちにはどんな事情があってここに呼ばれたんですか?」
『それはですね、あなたの姉が原因ですね。お二人を呪ってましたから。来る前に貴方たちに雷が落ちたでしょう?それで、一時的に意識不明の重体にして連れてきました。』
「「なっ!?」」
二人して驚いた。そりゃそうだ。誰だって体に雷落とされて、そうですかの一言で済ませられるか・
『当たり前でしょう?そうじゃなきゃ来れませんよ。と言ってもその仕事は死神の仕事なので。私にやり方をどうこう言われても困りますよ。それに、その原因は新島健太さんのお姉さんにあるんですから。普通あそこまで弟に縛られませんよ。まぁ未練が解消されずにどんどん負の感情をため込んで霊が変質したのでしょう。その負の感情の大元はきっと健太さんでしょうけどね。霊ってすごく不安定な状態の魂の中身なんですよ。それこそ、憑りついてる幽霊なら、どこかから感情を喰らわねば消えてしまうほどに。』
思い当たる節がある。
あの寒気に喪失感は、きっと僕の感情を食べていたのだろう。
今までは話しかけることなどをトリガーにしたとしたら納得もできる。
そして今回は・・・思い出すだけで恐ろしい。
「ちょっと俺からもいいか?」
テツが声を上げた。
『どうぞ。』
「どうにもこうにもよくわからないんだけど、健太は何も悪くないんだよな?」
『そうですね。彼も君と同じく被害者ですから。』
「ならいいんだ。ケンちゃんに非があるように言ってたなら、全力で反論しなきゃならなかったからな。」
そういわれてかなり、照れた。
『ふふっ、仲がよろしいようで。』
「まぁな。」
そんなにどや顔で言うことではないだろう・・・少し恥ずかしくなってきた。少しぐらい言い返したっていいだろう。
「それよりも!よくわかってないんだろ!テツ!」
そう言うとキョトンとしてから、「あ、そうだった。」と間抜けた声を出した。
「魂と霊とか死神と天使とか言われても何がどう違うのか分からないんだよな。」
なるほど、確かに不明瞭ではあるけど、僕は天使の言い方のニュアンスでなんとなくは分かる。
『健太さん教えてあげてください。分かりそうな顔してますし。』
「僕が?」
唐突に振られると思っていなかった。まぁ自論を述べるしかないか。
「多分ですけど、魂と霊って空の入れ物か中身の入った入れ物かですよね。魂はコップ、霊はそこに人生という液体を入れたもの。それが更に人の体に入ってる。それで人は動くって感じですよね。天使と死神の違いは、魂を死体とかから集めるのが死神で、それを死後の世界で導くのが天使ですかね。」
天使は『おおー。』と声を上げてからこう言った。
『とっても惜しいですね。正解は人生という液体がこぼれた状態が霊ってものです。いわば中身だけの存在。普通なら消滅してしまうのに、中途半端に器となる依り代、もしくは憑りつき先を得てしまった為に残っているものです。稀に魂付きの霊もいますが、彼らはとても理知的で消滅もしないので人に憑りついたりはしませんよ。死神の呼びかけにもちゃんと応じますし。平行世界は知りませんが、死者は仏にならず、ちゃんと天界に来ますから。というか仏って存在や神の子なんて存在がこの世界にはいたら困りますから。私たちが存在できなくなるか、存在解釈が捻じ曲がりますから。ついでに、死神と天使の違いは、生者に死を告げて、魂を持ってきて導くのが死神で、中間管理職やサポートセンター、ヘルプセンター、エントランスの受付的なことをするのが天使です。私は【トラブル対応課課長】兼【霊現象サポートセンター電話係】です。』
中間管理職の課長に加え電話係、結構多忙だな・・・?
『さてもう疑問はないですね、ではこの先を言わせてもらいます。』
そう言って、コホンと小さく咳をしてから切り出した。
『貴方がたに魂だけでなく霊ごと来てもらった理由は他でもない、健太さんの姉のことです。お姉さんの霊の方は雷の時に切り離せたんですが、それが天界めがけて飛んできてます。時間にしてあと2日でしょう。今は6月4日の15時です。つまり到着予定は6月6日の16時。その瞬間まで匿わさせてもらいます。そうでないと、魂ごと持っていかれる可能性がとても高いので。その上でただ置いておくのも無意味ですし、働いて欲しいそうです。ちなみに、健太さんのお姉さんの魂は、別の部署で死神として働いているのでご安心を。テツさんと健太さんには【魂の洗浄】を手伝っていただきます。要するに霊を洗い流す作業です。と言っても洗剤やらなんやらでやるわけではないですよ?言うなれば、罪の精算です。どんな生命でも命を食べて生きている時点でそれは罪のひとつなのです。そのうえ、必要外の殺しなんかはかなりの罪です。そうですね〜一部の植物だけが罪なく生きていると言えますね。それ以外の生命は等しく罪を持っています。それを霊とともに分離させるために、相手に罪を教えるのです。あとは、担当者を呼ぶのでその人に質問等を行ってくださいね。また2日後にお会いすることになります。ではでは担当者を連れてくるので少々お待ちください。』
そう言って、何もない空間から出て行ってしまった。
テツもぽかんとしてる。
ちょっと待て?いろいろ情報がおおいぞ?てか、どうやって移動したんだ?
改めて部屋を見渡す。というか今まで余裕がなかった。
床はもこもことしていて扉らしきものはなく、本棚とデスク、電話、そして何かの資料がある。壁紙というか、壁なのか?よくわからないが薄橙のあいだに白の波打ったような模様が常に動いている。
反対方向は少し紫がかっていた。もし、外と同じ風景ならば、夕方なのだろう。
ここは何処なんだ?天界とは言っていたが、いまいちつかめない。
そして、担当者ってなんだ部下がいるのか?課長とは言っていたが、どうなんだ?
疑問がぐるぐると回っていく。
頭の中で情報を整理してると、テツが話しかけてきた。
「なぁケンちゃん、結局俺らは2日間何をやるんだ?」
「さぁ・・・たぶんなんかの仕事だろうね。魂の洗浄だとは言われたけど、罪を教えるって言ったって、あの基準じゃあまりにも多すぎる。それこそ生命単位で考えるなら、人殺しと普通に暮らしてた人は同じくらいの罪になるんだけど・・・」
「どういうこと?」
僕の言葉に首をかしげるテツ。これも分からないとだいぶまずくないか?
「うーん、ざっくり言えば、食事のため以外で奪った生命について考えるんだ。そう考えると僕たちは虫や雑草を必要外にあまりにも殺しすぎてる。言ってしまえば10人殺した殺人鬼と一般人の殺した総数が大差ないくらいに殺している。」
「つまりはなんだ?食事のため以外に殺した数で罪を数えるのか?」
「それ以外もあるだろうけどね、それが重いみたい。」
その瞬間空間が歪み、間から天使が戻ってきた。
『はい、帰ってまいりました。今からこの方々の言うことに従ってくださいね。ベテランなので丁寧に教えてくれると思いますよ。』
そう言うとその歪みから二人の大人と子供の背丈をした、黒のコートを着た人たちが入ってきた。
大きい死神は30代前半ぐらい小さいほうは10代前半位に見えた。
「うっす、どうも部長の死神・・・って言っても番号はめんどくさいからお兄さんって呼んでくれ。もう一人のこいつはクソガキだ。そう呼んでやれ是非ともな。」
「おじさ~ん?それ酷くない?どうも~同じく部長の死神だよ~。元魂付きの地縛霊だからレイくんって呼んでね~。」
「んだと?クソガキで十分だろぉ?あと、俺はそんな年じゃねぇ!」
「あっ!やべ・・・いいからさっさと連れていくよ!また課長にサンドバッグにされたいの!」
「うっ・・・」
そう言って後ろを向いた大きな背丈の死神は顔を真っ青にした。
『私・の・デ・ス・ク・で・な・ぁ・に・や・っ・て・ん・だ・ぁ・???』
天使の表情は天使と言うよりも・・・悪魔だった。
「「すいませんでした!!!」」
そう言って二人の死神は頭を下げて僕たちを掴んで持ち上げた。
「えっ?」
「ちょ!?」
「「いいからいくぞ(よ)!!!」」
そしてそのまま、出てきた空間の歪みから連れ出された。
「「うわああああ!!!」」
着いた先で手を離される。というかどんだけ筋力強いんだ?このお兄さん(仮)、二人持ったままで結構な速さで動いたぞ?
額の汗をぬぐいながらお兄さんは話しかけてきた。
「よし、無事戻れたな。ここが俺らのデスクだ。と言ってもここで大したことはやんないぞ?やるのは始末書と領収書ぐらいだ。」
確かにさっきのデスクと比べると随分と殺風景だな。
「僕たちの仕事は、まぁ言われたと思うけどよく分からないよね。僕も最初分からなかったから見てくれれば分かるよ。」
「そうだな、とりあえず応接室に来い。待たせてるからな。全く、課長は急に呼び出してくるから嫌いなんだよ。嫌いになりきれねぇ良さもあるんだけどな・・・」
そう言って、鍵のようなものをコートのポケットから取り出した。
それを前にかざすと空間の歪みができた。二人が先に入った。
「何してるの?早くおいでよ。」
レイくんが手招きをして話しかけてきた。
「いくか・・・ケンちゃん、もう選択肢はないっぽいし。」
テツにそう言われて頷く。
そっと二人そろって足を出すとそこには確かに床があり、入ってみるとやはり別の空間になっていた。
目の前に鎮座する重厚感のある長机。いくつも並ぶ丈夫そうな椅子。そして、目の前にいる靄のような存在。どこが既視感があった。それを見てテツが声を漏らした。
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