【番外編】おじさんとレイくん

――――死神・・・それは、迷える魂を死によって救済し、天界に送る仕事である。この時に、不自然な死に方にならないように偽装するのが、下っ端死神の仕事である。そして、下っ端死神には。天界によって100年以下の罪を犯しているものが多く存在している――――








今日はこのビルから死ぬのか・・・はぁ・・・




いい加減この仕事やめてぇ・・・でも、刑期縮むしな~・・・




なんだよ死神の仕事って言っても、人の体で自殺するってなんだよ。苦行だよ!




『ねぇねぇおじさん、どうしてそんなに辛そうなの?』




そう話しかけてきた、少年の体は透けていた・・・




「何てことなああああお化けええええええ!!!!!!?」




その反応を見て少年は誇らしげな顔をした。




『お?やっと気づいた。どうも~地縛霊です~レイくんって呼んでね?』




なんでそんなに、堂々としてるんだ?年齢にしたら12にもならないのに、死んだどいうのか・・・体が透けているから、お化けだと断定しているが。しかも、ひねりのない名前・・・?名前はないのか?




「君の本名は?」




少し落ち着きを取り戻した。と言っても目の前にお化けがいるのを理解している時点で、おかしいのだけど・・・




『名前?わかんなくなっちゃったんだ~。』




???なるほど?訳が分からない。何かしらの理由があって地縛霊ではないのか?




「今、現世にいる理由は?分かるのか?」




少し考えるそぶりをして、思いっきりの笑顔を浮かべてこう言った。




『わっかんない!』


「おいおいおい何のためにいるんだよ?」


『分かったら成仏できそうだね。』




だめだ、こいつは。とりあえず、自殺を終わらせて、家で休もう。




「それじゃ、おじさん死ぬから、がんばれよ。」


『待って待って待って。何のために話しかけたと思ってるの?』


「暇つぶし?」


『違うよ、自殺を止めるためだよ!』




なんだこいつ???とりあえず、現世の人じゃないから言ってもいいはずだ・・・




「俺の仕事なんだぞ?俺は死神でも下っ端だから、こうやって寿命外で心が死んだ奴の体を使って自殺してるんだよ。」


『へぇ~そんなお仕事あるんだ~とでも言うと思ったか!』




こいつ・・・結構力強い!?違ぇこれ、魂が負けてんだ!




「ちょっと離せ!強いんだよ!」


『あーあー聞こえないな~』




このガキ・・・こんななりで俺より霊魂が強いってなんだよ!?




「なんで止めようとするんだよ!赤の他人だろ?」


『やっと僕と話せる人なんだ!逃がしてたまるか!』


「ぜってぇそれだろうがよ!お前が現世に留まってる理由!あーもう、さっさと成仏すればいくらでも話せる人いるだろ!」


『嫌だ!僕は一期一会を大事にするんだ!』


「めんどくせーな!このガキぃ!」






と、もみ合うこと30分。




「オーケー分かった。天界に口利きしてやる。こんな下っ端でも、死神だ。神だからな?お前を死神に取り立ててもらおう。」


『それでまた君と出会えるんだね?』


「お前がどんだけの悪い罪を犯してるかによるがな。死神はある種の刑の執行だ。一人送るだけで1年は輪廻に戻るのが早くなる。お前は大犯罪者じゃないし、俺が選ばれるようにするから、早ければ今日中に会える。」


『分かった。じゃあまず僕は成仏をするね?』




あ・・・消えてく。まじで理由それだったんだ。




「俺も仕事終えてすぐ合流する。」


『了解。じゃあお先~』




これほど間抜けな地縛霊がいただろうか?


いや、後にも先にもいないだろう。


それなのに霊魂が強かったのはたぶん、今みたいに、自殺する人を止めたり、死にそうな人を助けるかなんかしてたんだろう。勝手にいろいろな噂を取り込んで強くなったんだろう。




そうじゃなきゃ、俺は困る。






さて、お仕事~っと。






靴を脱いで、手すりからスタイリッシュに空へ跳び出す。






地面へのフリーフォール、当然耐えられるはずもなく・・・






・・・ぐしゃっとな。お仕事完了。






よし、魂分離完了。魂の保護も完了。




行くか。






天に昇って、天界の門に行き、死神パスと魂を受付に見せる。




門に入ったところで、ガキが魂の状態で揺れていた・・・


恐らくこれは貧乏ゆすりして待ってたのだろう。








「おーい待たせたな~大丈夫か~?」


『あっ!おそーい!結構待ってたんだよ?というか、それが本当の姿なんだね~』




頬を膨らませてるので頭のあたりを撫でてやる。




「悪いな、待たせて。それじゃ行くか。」


『子ども扱いしないでよ!』


「はっはっはっはっは!ガキが何言ってるんだ!」








そうして歩いてる後ろ姿は、はたから見ると親子のようで、親友のようだった。






――――――――――――――――――――






春の風が頬を撫で、どたどたとした10も歳下の甥のやかましい足音が聞こえた。




「んあ?寝てたのか・・・それにしてもいい天気だな~。」




春の日差しでうたたねをしていたらしい。それにしてもあの夢・・・




「おーい!おじさーん!相変わらずの老けた苦労人顔だね~。」




風情をぶち壊しやがった。




「なんだクソガキ!おじさんじゃないって言ってんだろ!お兄さんって呼べ!」




「いいじゃん別に好きに呼んだって。ところで、勉強教えて~・・・どうしたの?涙なんか流して?」




もしかしたら、あれは夢じゃないのかもしれない。ふと、再会に涙がこぼれた。




「なんでもねぇよ・・・ったく仕方ねぇな~。こい。教えてやるよ。」




「あ!嬉しいんでしょ~僕に頼られるのが。」




前もこんな風だったよな?




「うっせぇ!なんでもねぇよ!」




あれは、あそこでの俺たちの生活は確かに大変だった気がする。




いや、俺の勝手な妄想かもしれない。




だけど、どうしても憎めないこの甥を、ずっと前から知ってたような気がするんだ。












なぁあの夢の親友よ・・・明日でも、なんでもいい。いつの日か思い出してくれ。




俺とお前が親友だったことを。






ふと空を見上げたら、光り輝く門が見えた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る