1日目 平穏

少し薄暗くも、月明かりで十分に視界がとれる死神区の大通りを抜けて、きらきらとした商店街のある場所にたどり着いた。


テツは目をキラキラとさせている。


僕も内心かなりワクワクしている。


頭にも肩にも異常は訪れない。


今が一番楽しめるときなのかもしれない。




「なぁなぁ!ケンちゃん!あそこのトウモロコシとか焼きそばとか買おうぜ!」


「そうだな!なんせ二万もある・・・待て待て待て先にホテルを取ろう。そのあと残ったお金で買おうよ。」


「あっ忘れてた。」


「おいおい・・・大丈夫か?」


「まぁ、ケンちゃんいるからね。」




何でそこで鼻を鳴らす?誇る?自分の事を誇れよ、テツ・・・


二人で商店街の街並みを眺めながらふと、指先で電光をなぞった。




きっと僕に残っている姉の心が・・・霊が光を求めるんだろう。


僕の魂にはきっと穴が開いていたのだろうな。テツがきっとそれを塞いでくれていたのだろう。


あの話を聞いても尚そう思わずにはいられない・・・。


目の前でイカ焼きをダッシュで買いに行って、戻ってきながら頬張っているやつがそうだと考えるとどうしようもなくおかしく感じる。




「ん?ほうひは?ふふか?」


「いや、まだ食べなくていいよ。ふふっ。」


「んぐ。いや旨いぞ!これ!」


「顔を見ればわかるよ。めっちゃ旨そうに食ってたから。でも、僕の話聞いてた?」


「あぁ聞いてたから、イカ焼きとトウモロコシしか買ってないぞ?あといい情報聞いたけど聞く?」


「そういうことじゃないんだけどなぁ~。まぁ聞くよ。」


「ふっふっふっ、聞いて驚くなよ?なんとこの食べ物の材料は全部、神様が作ってるんだぞ!!!」


「おお~。まぁそうじゃなかったら、罪になりそうだからな。なんたって動植物全てが魂判定だからね。」


「えっ?そんなに驚かないの?俺めっちゃびっくりしたのに。」


「まぁ僕も驚いたのは事実だけど、テツほどじゃないね。なんとなくわかってたから。生産元が神様だとは思わなかったけど。焼きとうもろこし一つ貰うね。」






そう言って一つを貰う。さすがに、空腹を匂いで加速されるとどうしようもない。




「お、おう。」


「うん、普通に旨いね。醤油とかもそうやって作られてるのかな?ちょっとそこのたこ焼き屋さんに行かない?」


「あぁそうだな・・・てかホテル先に取るとか言ってなかったっけ?」


「あっ・・・お腹空いてたんだよ。いい匂いでついね・・・。」


「仕方ない、とりあえずそこのたこ焼き食ってから決めるか。」




そういっていいにおいがするたこ焼き屋に向かった。


てか、出店多くないか?




「すいませーんたこ焼き一パックください。」


「あいよ!」




気のよさそうな金髪のふくよかなおばさんが、明るく返事を返した。




「日本語話せるんですね。」


「おや?あんた新顔かい。言語なんてあってないようなもんじゃないか。あたしらは魂で生きてるんだよ?魂が話してる時点でおかしいことになっちゃうわ。あんたが今話してる言葉は、あたしには英語に聞こえる。ならお互いに意思疎通出来てる。それでいいじゃない。」




確かにそりゃそうか、会話が成り立たなきゃどうやって暮らすっていうんだ。




「それもそうですね。何分今日来たばっかと言うか何というか、死神や天使に助けてもらって一時的に来た感じです。」


「ほうほうつまりは何だい、特務か来訪者のたぐいだね。」


「特務?」


「聞かされてないのかい?じゃあもしや、あんたら、シトラから来たみたいだね。あ、死神のトラブル対応課ってことよ?」


「あ、そうです。その課長に働けって。」


「そうそう、課長はてんしだったな~。すげぇ綺麗なんすけど、口がどうにも悪かったすね。あんなにおっかない美人には初めて会いました。」


「課長かい!?あらま~。よりによって『天界荒らし』かい。そりゃあ大変だっただろう。しかも、働くってことは特別な事情があるんだろう。そうなるとあんたたちは特務さんだね。」


「部長さんがすげぇ体験をさせてくれましたし、大丈夫っすよ。いい体験できましたから。てか『天界荒らし』って?」


「それは、聞かないほうがいいよ・・・ちなみに部長はどこの部長?いやどのコンビだい?ああ、番号じゃなくてだいじょうぶだよ。愛称教えてくれれば分かるから。なんたって死神にはお得意様がいっぱいいるからね。」


「レイくんとその子におじさんって言われている人たちですね。」


「あぁ!あの親子みたいなコンビかい!」


「そうそう、そのコンビっす。すごくいいコンビっすよね。」


「まるで親子みたいでね~それを言うとレイくんが途端に顔を赤くしちゃって。はいできたよ。2信だよ。」


「「ありがとうございます。」」


「そういえば、出店が多いんですけど、お祭りかなんかですか?」


「違うよ。毎日こんな感じさ。死んでまで憂鬱に生きたくないだろう?みんなそう思って踊ったり歌ったりして楽しく生きてんのさ。どうせホテルを取るんだろう?特務さんらは」


「まぁそうですね。」


「それじゃそこの通りの緑の看板が見えるだろう?そこの手前を右に曲がりな。死神御用達で特務も歓迎してくれる宿屋さ。特務は一部の人からは僻まれるからね、気をつけな。」


「親切にありがとうございます。でも何で僻まれるんです?」


「そりゃあまだ、生きているからさ。後悔なく死んだ人なんているわけがない。みんな後悔を抱えてここで生きてるんだ。それなのに生きている人がいたらどう思う?」


「ああ・・・」


「そういうことさ。それじゃ、また巡り合う日まで!」


「えっ?どういう別れの言葉ですか?」


「そりゃあ、ここにいる人はいつ転生するか分かったもんじゃないんだ。今いる人と今生の別れでも後悔の無いように、次また巡り合ったらって願いあうのさ。ロマンチックだろう?」


「ロマンチックですね、テツ僕たちもそうするか。」


「そうだな。」


「「おばさんまた巡り合う日まで!」」


「また巡り合う日まで!」




そう言って手を振りあって別れた。


たこ焼きを食べながらゆっくりと進む。


アツアツのたこ焼きは外がカリッとしていて、それでも仲がトロっとしていて、不思議と銀〇このたこ焼きを思いだした。元の世界に帰ったら行こう。


周りの何人かが黒のコートを着ていて、あぁきっと死神なんだろうと思った。


それ以外の格好のひとはどんな仕事だろうか?


大工とかもあるのかもしれない。それに、仕事が非番なのかもしれない。




「いや~いい人だったな~。」


「そうだね。ホテルも見つかったし。」


「多分あの看板だよな?」


「それ以外には無さそうだしね。」




そう言って見た先には、緑色のネオンが輝く看板があった。


スナック輝美?日本名だなぁ。てかスナックだと、ここ違くないか??




「そのホテルだな。」


「えっ?どこ?」


「見えないのか?」


「あっあれか。」




看板もなくやってるかやってないか分からないくらい薄暗い、切れかけの玄関照明に照らされた『藤の宿』という文字が見えた。中からはほぼ一切の光が出ていなかった。




「暗くない?」


「まぁおばさんのおすすめだし、行ってみるだけ行ってみようぜ。」


「そうだな・・・頑張ろう。」




覚悟を決めて足を踏み出した。


ここに来てから改めて雲の上のようなふわふわとした床に、謎に抵抗感を感じた。


足元から感じる雨音に少し恐怖を感じつつ、大通りから外れ、その場所に入った。




カランカランとなる昔風のベル、中でエントランスに居たのは一人の黒髪ロングの和服の幼女だった。




「はばかりさん。こっちおいでやす。そんなもっさい顔をせぇへんで。一応女将やっとります。小雨と呼んでおくれやす。」


「うん???」


「あんさんがた、もしかして特務どすか?」


「「あっはい。」」




ごりごりの京都弁、これはきっついな。ところどころ分からないかもしれない。


まだ大丈夫だけど。


おばさん・・・方言に判定は無いんですか?


テツが小さな声で話しかけてきた。




「なぁケンちゃん・・・。」


「どうした?」


「あの子可愛くね?」




そこじゃないだろう・・・まぁいつものことか。




「部屋はどうしはるん?2,3部屋なら開いとるよ。」


「あ、ベットが2つある部屋かシングル2つでお願いできます?」


「持ち合わせはいくらあるん?」


「あ、残りは190信ありますね。」


「結構あるんね・・あんさんら外のたこ焼き食べはったん?」


「そうですよ。」


「なら分かるわぁ。あんさんらそこでここの宿を教わったやろ?うちの宿は誰でも歓迎やから。」


「じゃあなんであんなに外を暗くしてるんですか?」


「そんなんしたらあんさんらみたいな特務みたいな職務やと、恨み買うやろ?そんな人のためにうちらは、あえて入りづらくしとるんよ。」


「なるほどな~素晴らしいっす!」


「あんさん口調が少しチャラついてはるん?」


「そんなことないはずなんすけど・・・テツどう聞こえてる?」


「あー言われてみれば、少し~っすって口調になってるね。」


「マジか・・・あー昔の口調に戻ってるんだ。」


「そんなことある?」


「あんさんがた知らんの?素の口調に近うなるんよ。つまりは年上に対する素の口調はそうなるってことなんやで。」


「ほへぇ、なるほど~。」




なんか骨抜きにされてない?


まぁ京都弁は艶っぽくなるのは分かるけど、そこまでじゃなくないか?


そう言えば、先月ぐらいに振られてたから傷心なのかもしれないな・・・


振られた理由が、推しは推しで合って恋愛対象にはならない。だからなぁ・・・よくわかんないけど。辛かったんだろうってことは分かるくらい落ち込んでたな。そう言えば、その子僕とテツを見て鼻息荒くしてた時あったのは何なんだろうか。




「ほな、部屋はここでええか?二人一緒やけど。」




そう言って指さされた写真を見たら、普通の和室で、16畳。結構広めだな、と思った。


お風呂もついてるし・・・でも和風だな。というか五右衛門風呂(信動)ってなんだ?




「すいません信動とは?」


「ああ、それは電動とおんなじやと思っといてな。こん世界んエネルギーやから。」


「なるほど。」


「ケンちゃんいいよな?」


「ああいいよ。お値段は?」


「せやな~、うん今日の気分は2人で朝食付き60信でええよ。」


「「気分!?てか安い!?」」


「そうやで?正直言って、お金取らんでもいいんやけど、取らへんと土地代払えへんし、お金余っても特に使い道ないやろ?この世界は、無理にお金集めんでも、普通に生活できる。なら少しくらい分けたってええやろ?無理に持とうとするから争うのが人って生き物、なら与えれば済む。そうは思はへん?」


「・・・なるほど。その考え方はありませんでした。」


「ほほう・・・深い。」




テツ・・・そんなキリっとしても、逆にアホっぽく見えるだけだぞ。


小雨さんが和服の袖を口に当て少し咳ばらいをした。




「コホン、それでちぇっくいんしはる?」


「たどたどしい口調でチェックイン!いい!」


「少し黙ってくれ、テツ。それでお願いします。」




テツにチョップをして、60信を渡す。




「おおきに~。ほな、さぁびすで夕餉をおあがりやす。」


「いいんですか?」


「いただきます!!」




そう言って広間に付いて行って、出された夕食を美味しく頂いた。




部屋の鍵を渡してもらい、部屋に入るとテツは疲れていたのか、引かれていた布団の上に倒れるように横たわり、すぐに眠ってしまった。


テツに布団をかけて、僕も眠かったので歯磨きをして先に眠ることにした。




不思議と、ゆったりと眠れた。


姉がもういないことの寂しさも少し感じながら・・・












湯船に浮かんだ月は、揺れていなかった。


今なら掬い上げることさえできるだろう。




それほどに大きくしっかりと見えていた。


その月に新月はもう来ない。


近くにあるようで遠くの太陽が、ともに歩んでいるから。

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