1日目 解析

「「了解です(っす)。」」




頷きながら返事をして、二人でスマホを覗き込んだ。


僕は気になったページを見てみた。




『【死亡時の持ち物】


制服と違う学校の指定バッグ。中には別の人の名前(おそらく男)が付いた教科書等。


その他に、自分の教科書が入ったバッグ。中には様々な化粧用品や生理用品。化粧品はチークにリップ、ファンデーション。生理用品はナプキンやタンポン、月経カップ。』




おかしなところと言えばなんで他の人のバッグを?というかこれ、見覚えあるな。


他にもあるのかもしれない。




『【死亡代行者の証言】


死に方まで決められていたため、その方法を行うのが辛かった。具体的に言うと、死に方は自分で糸鋸を使って足を切り取る失血死を行えと言っていた。それを拒否しても認めてもらえなかったため決行。二度とやりたくないと思った。何人かその光景を見ている人物がいた。だが、それを止める人物はいなかった。』




やはり、気がくるっているとしか思えない。




「テツ、俺には無理かもしれない。狂人にしか思えないんだ。」


「俺もおかしいやつとしか思えない・・・でも、あの魂がそんなことをする風に見えるか?そんな自殺を最後にする風に見えるか?ケンちゃんもう少し見直そう。」




まっすぐ見つめられて、『確かに』と感じる。


数字に囚われちゃいけない・・・僕が目で見たことが現実だ。




・・・待て?なんで、罪状に、自殺が書いてないんだ?


おじいさんの時に自殺は結構な罪になってたはずだ。




まだピースは足りない、だが、これは確かな一ピースだ。




バッグを二つ持っていた理由。それに加えて、あの子が見ていた人物の特徴を・・・待てよ、なんで自殺する人が二つのバッグを持っているんだ?それに、死体の性別も書いてない。その上、様々な生理用品、化粧品。待て生理用品の欄には・・・


そう言えば昔に生理教室で、それぞれの用品の説明をされた。


だが僕には、と言う主観だが、全部を常に持ち歩く必要は無いんじゃないか?


あくまで聞くまでは分からないが・・・これが二ピース目。




もう少しだけピースが欲しいな。見落としは無いか。




だが、僕はどっちだと思っているんだ。


彼女は白か黒か。




ぐるぐるとめぐる思考。堂々巡りな思考に入った途端に、またあの言葉が心をよぎった。




『私はどちらの方面へ向っても進む事ができずに立ち竦すくんでいました。』




本来の意味なんて関係なく、ただただその文が僕に『どちらとも決められない』という事実を突き付けてくる気がして。自分自身に吐き気を覚えた。




僕の体が、脳みそが、真っ暗に沈み沈み沈んでいく。


ふと声が聞こえた。テツの声が、僕に聞こえた。




『俺の言葉を最後まで聞いてくれて、その上で主観をちゃんと話してくれるのはお前だけなんだよ。』


『だからこそ・・・お前と一緒にいて楽しいんだよ。』




「なんだケンちゃん。急に俺の顔なんて見て。」




ふっと笑い、すっかり軽くなった肩を回した。そうだ、こんなところにもピースはあったんだ。




「いや・・・テツのおかげで僕は今ここにいるんだなって思っただけだよ。」


「お、おう・・・なんだ急に目に見えて元気になって。もう分かったとか?」


「あと、1つピースを聞くだけでいいんだなって思っただけだよ。ありがとね。」


「???分かったなら良かった!」




一息吸い込んで吐き出して。僕は覚悟を決めた。


これで、終わりだと。




魂と話してるお兄さんに先に話を通さなきゃな。




「お兄さん、少しその魂に聞きたいことがあります。」


「・・・どうした?目星は立ったか?」


「恐らく、いけます。」


「そうかならよし。任せたぞ。」




魂のほうに向き合って声をかけた。




「一つ質問いいですか?」


『はい、どうぞ~。』


「すごく申し訳ないのですが、学校に生理用品は何を持っていっていましたか?」


「それは聞いちゃいけな『ナプキンを数枚ですよ~。』まじか?」


『マジですよ~。』




これで2つ目が確定した。




「いや・・・もういいや。健太。あと頼んでいいんだよな?」


「待ってください、お兄さんにも3つほど聞きたいことがあります。」




ここで最後のピースを確定づけるために、聞かなくちゃいけないことがある。




「罪の内容って魂に刻まれるんですか?特に自殺に関してなんですけど。」


「ああ、そうだ。自殺はちょっと厄介だが、自殺しようとした心がある時点でそれが魂に刻まれる。それで判断はできるようになっている。だからこそ、死神はもともとは人間だった存在でもできる。そいつはあくまでも仕・事・で・あ・っ・て・望・ん・だ・も・の・で・は・な・い・、い・わ・ば・過・酷・な・業・務・という扱いだから自・殺・を・し・て・も・自・殺・の・罪・に・な・ら・な・い・んだ。あとは自殺をする気が無くても自殺のような死に方したやつは判定にならない。魂に刻まれた罪は中身の心情によってできるからな。」


「2つ目に、魂なしの霊が正者に憑りつく理由は?」


「そりゃあ、生き延びるためだ。感情を食べれば最悪は消えない上に、精神ダメージで魂に傷を増やして穴を開けば乗っ取ることまでできるからな。消えないためならなんでもやるようになるのが霊ってうやつだ。」


「ではもう一つ。魂の中身が漏れたものが害ある霊になる。って聞いたんですけど、その中身って、つまりは霊って入れ替えられます?」


「は?何言って・・・待てよ?・・・不可能じゃない、だがそのためには、魂って殻に一度穴を開けないといけないんだぞ?だからこそ霊は魂の周りに憑りついて、精神ダメージを与えて殻を破ろうとするんだ。それを生者が行うことなんて不可能「では、死亡代行者の魂にダメージを与えることは?」っ!?そういうことか・・・」


「ケンちゃんどういうこと?」


『私も知りたいですね~。』




二人に聞かれたので、記憶の整理がてら自分の推論を述べてみる。




「あくまでも、僕の予想ですけど、この人はさっきの罪を犯していない。そう思います。」


「なんでだい?おじさんも納得した顔して・・・嘘でしょ?だって魂に刻まれた罪は絶対じゃないの?」


「俺も納得はしたが確証がない。頼む。言ってくれ。」


「じゃあまず、罪状の大前提を崩させてもらいます。この罪状は魂に刻まれたものですよね?ならば、魂自体が変わっているのなら?中身を取り替えたのなら?証言としては自殺をした。しかもかなりの残酷な方法で。ならば必ず自殺したという扱いになるでしょう。ですがそうはなってない。現に罪状には書いてない。要するにこの人物は、死期と自殺の罪を知っていて、自殺代行をしてくれる死神を知っていた。だからこそ、他人に押し付けることによって、自殺の罪が刻まれてない。」


「なるほどね・・・でも足りないね。じゃあなんでその子がやってないって言えるの?自殺までは理解できたよ。でも僕にはその子がやってない理由はないよね。中身を取り替えられた理由にもなってないよね?」


「そうですね。でも、僕がそう思った理由はバッグと証言だったんですよ。バッグに入っている生理用品や化粧品。それらには学校に行くのには多すぎたり、また並んで書いてある通りに、ポーチなどで隠そうともしていなかったと考えられます。仮にポーチに入ってたとして、彼女が使うもの以外が2つも、しかも月経カップとタンポンに限っては併用自体ありえない。何よりも、その子は『ナプキンを数枚』と言っていた。それが違和感です。そのうえでお兄さんからの話と証言をあわせて考えると、魂に傷をつけるために具体的には乗っ取るために行っていたのだと思います。証言には『死に方は自分で糸鋸を使って足を切り取り失血死を行えと言っていた。それを拒否しても認めてもらえなかったため決行。』とあります。ですが、その状況を自分が死ぬために行うこととしたら、精神ダメージがあまりにも多すぎる。それで魂に穴が開いて彼女の記憶の一部が飛んだのかと。その上で、自分の魂から自分も同じように精神ダメージを受けることもしくはもともと欠落していた魂から脱出。その後死神の魂を乗っ取り追い出された死神の中身が魂を求め、目の前にある穴が開いていた魂に入る。これで成立します。」


「待て、どちらにしても、本人に穴をあけるほどのダメージがないと無理だ。」


「ですが、一度死んで転生した人であり、死神などの仕事をしていた記憶があった人物ならばどうでしょうか。言うなれば、最速で死神の仕事を、文字通り魂をすり減らしながら行った人物だった場合は?死神は罪を償う方法の一つだと聞きました。では、いい成績などを残すくらいならば短縮だってあり得ると思います。そうした場合は、転生直後に穴が開いてそれを抱えながら生きている可能性だって十分にあります。」


「確かにそうだ。特に死亡代行者ならば一人につき1年は縮まる。それに俺もレイも記憶が朧気ながらあった状態で転生をした。もう一回死神やってるんだけどな。だが、それだけで確証には至らない。」


「では、こうすればいいんですよ。今回の死亡代行した番号の人が、同一人物かを調べましょう。いくら同じ女性でも、顔は違いますよね。死神にはお兄さんやレイくんのように顔がありますから。」


「なるほどな。一考する価値は十分だな。死期が分かった理由だって、理論さえ知っていれば自殺させるだけじゃなくても、それを見てるだけのヤツらに自殺が失敗したら殺させるって決めてれば、間接的に定められるからな。少なからず、自分の足を糸鋸で落とすだなんて、常人なら耐えられない。」


「そうだね。ここまで筋道立てられたらやるしかないね。もしもこの推論が違ったとしても僕達が埋めるよ。乗っ取りがもしもできるなら大問題だね。」




決め手には欠けるが、少なからず彼女をすこしは助けられるはずだ。




「流石ケンちゃん!途中からよく分からなかったけどなんかすごい!」


『よくわかりませんが、私はどうなるんでしょうか~。』


「多分保留だね、あとは僕らの仕事だね。」


「そうだな。健太よくやったよ。突発的だが考え方は間違ってないと思う。穴はあっても、ほぼ詰まってる理論。頭のいいバカとはこういうことだろうな。後で俺が課長に報告しておくわ。課長の目は間違ってなかったよってな。警備担当とかにも連絡とかもしておくから。」




そう言ったお兄さんにわしわしと撫でられた。




「それじゃ今日はこれでお前らの仕事は終わりだ。日給としては少し低いかもしれんが、これで飯でも食ってホテルでも取ってくれ。日本円で2万相当だ。本来ならこれだけやってもらったら3万でもいいんだが、時間給制度でな……俺が1万だけは色つけておいた。」




そう言って10信と書かれた紙を20枚もらった。




「なんすかこれ?」


「この世界での通貨だ。安心しろ。やばい紙じゃないし偽札でもない。そうだな・・・ここを出てまっすぐ大通りをいくと死神区を抜けて商業区に出るから、そこで好きに食え。そこからさらにまっすぐいくと居住区があるからそこでホテルでも取りな。じゃあな〜」


「また明日ね〜8時集合だからちゃんと来てね〜」


『皆さんありがとうございました〜。なんだかよく分からないけど〜。』


「そっちの穴から出ていってくれよ〜間違えるなよ〜?」




そう言って空間の歪みをふたつ作り、片方から魂を引き連れて出ていくお兄さんとレイくん。オレンジ色の魂に少し気持ちが良くなった。


部屋の中、と言っても満月が見え、一帯全ての雲が白白と輝いて見えた。




「さて僕達も行こうか。」


「だな。一件落着って感じか。多分。」




開き直ったがごとく爽やかな笑顔を浮かべていた。よく分かってないんだ。そう思うとなぜだかおかしくなって笑った。




「なんだよ〜そんな顔して〜。」


「いや、少しね、あはははは!」


「くっそ〜明日は俺が活躍してやる!」








死神区から抜ける2つの影を月明かりが煌々と照らしていた。








そうして夜は更けていった。

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