第23話 新たなメンバー

「っということで、今日から私たちの仲間になることになったシズクさんです!」

 

 無事にダンジョンから戻った後、私は酒場のテーブルで胸を張ってそんな言葉を宣言した。隣には新メンバーのシズクさんが、相変わらずクールな表情で座っている。


「凄いね宮園さん! イモリットムーヤまで倒して新しいメンバーまで見つけてくるなんて!」


「まあホウキ勇者にしては上出来だな。パーティメンバーは一人でも多いほうが心強い」


「さっすが宮っち! 私が目をつけた冒険者だけありますね! この調子で魔王もサクサクッと倒しちゃいましょう!」


「ふむ……また一人若い女が増えるのは気に食わんが、忍びの一族なら即戦力になるだろう」


「…………」


 いやちょっと待って。なんか勝手にパーティ増えてない?


「ちょッ、ウサミーさんはともかく、なんで先生がここにいるんですか⁉︎」


「何を言ってる。一緒にダンジョンへと向かって共に汗水を流した仲じゃないか」


「いやいやいや、汗水流しながら私のこと見捨てていったじゃないですか! って、そういえば和希に変ことしてないでしょうね⁉︎」


「心配するなホウキ勇者。常に私が見張っていたので大丈夫だ。それに先生のオートフェロンのせいでプラグイーターの本体が追いかけてきてそれどころじゃなかった」


 そう言って浅田さんと和希が目を細めて先生の方を見た。


「はっはっは! 美しい女とは存在そのものが罪になってしまうようだな。まあでもプラグイーターを倒すことができてレベルアップしたからみな結果オーライじゃないか」


「……」


 どうやらあのまま先生たちと一緒に逃げていても危険だったようだ。危ない危ない……

 

 そんなことを思うと、私は思わずほっと息を吐き出す。


「ま、まあ確かに僕もレベルが上がって新しい回復魔法を習得することができたけどね」


「私も新しい火炎魔法『鳴くよウグイスヘッドファイヤー』を会得できたので、まあ良しとしよう」


「そうだろそうだろ! 冒険者にとって己を鍛えることは大切なことだからな。私も奴との戦闘でさらに『女子力』に磨きをかけることができて大満足だ」


「え? 戦闘で女子力ってあげることができるんですか?」


 先生の予想外過ぎる言葉に私は思わず目を丸くする。


「もちろん! 私のような強者になると戦い方次第で女子力だって上げることが可能だ。やつの触手のようなつるの動きに合わせて上半身と腰の動きをこう……」


「だーッ! わかりましたわかりました! 別に実演とかいらないんで、和希の前でそんな卑猥なことはしないで下さい!」


 もはや教師の「きょ」の字のかけらも感じない相手を、私は思いっきり目を細めて睨む。するとそんな自分たちを見てずっと黙っていたシズクさんが珍しくプッと吹き出した。


「何だか宮園さんのパーティってとっても賑やかな人たちばっかりなのね」


「いや賑やかっていうか……パーティじゃない人も混じってるから」

 

 私はそう言うと先生とウサミーさんのことを横目で睨んだ。けれどもちろん、効果はない。


「それじゃあ改めまして自己紹介を。私は忍び一族のシズクと申します。まだまだ未熟なくノ一ですが、みなさんのお力になれるよう精進させて頂きますのでどうぞこれからよろしくお願いします」


 そう言ってすっと綺麗な姿勢で頭を下げるシズクさんに、「おぉ」と感嘆の声と共にパチパチと拍手の音が響く。


「ホウキ勇者とは比べものにならないほどの礼儀正しさだな。とても14歳には見えない」


「ちょっと浅田さん! 私だってこのぐらいの礼儀はちゃんと…………って、え? 14歳??」


 一瞬何の話しかわからくて、私は目をパチクリとさせて浅田さんの顔を見た。すると浅田さんが呆れたようにため息を吐き出す。


「なんだホウキ勇者、自分で勧誘しておきながらその子のステータスをまだ見てなかったのか。その子は先月14歳になったばかりだぞ」


「え……えぇッ⁉︎」


 私は思わず声を上げるとシズクさんの方を向いた。


「ほ、本当に14歳なの?」


「え、ええ……そうだけど」


 シズクさんはぎこちない口調でそう言うとコクリと小さく頷く。私は目をぎょっと見開いたまま、思わずシズクさんの身体を頭の先から足の先まで何度も見た。

 いやいやいや……この大人びた雰囲気とこの身体つきで14歳って……ありえない……ありえないでしょッ!

 思わず衝撃のあまり固まってしまった私をさておいて、パーティメンバーがおのおの自己紹介を始める。


「私は偉大なる歴史家かつ黒魔術士のヘロドトース・ギボン。又の名を浅田ともいう。よろしく」


「二つ名が漢字というのは親近感が湧きますね。こちらこそよろしくお願いします」


「……」


 いや二つ名じゃなくてそっちが彼女の本名なんだけど……

 

 相変わらずよくわからない自己紹介をする浅田さんを、私は白けた目で見ていた。


「僕は白魔術士の高橋和希です。主に回復魔法が得意だから、シズクさんが傷ついた時はすぐに僕が治すよ」


「あ、ありがとうございます…………(ぽッ)」


 ……あれ? シズクさん、和希のこと見て今ちょっと『ぽッ』っとしてなかった? なんか心なしか頬が赤くなっているような……

 

 そんなことを思いながら目を細めてじーっと新メンバーの顔を見ていると、そのまま自己紹介が続いていく。


「私はウサギ一族のウサミー! この神殿で働くピチピチぴょんぴょんのバニーガールなので、冒険でわからないことがあれば何でも聞いて下さいね!」


 そう言ってからウサミーさんは「ニャンっ」と可愛く言って頭の耳をペコリと折り曲げた。……って、思いっきり違う動物混ざってるんですけど?


「ふむ……最後はこの私。かつては公務員というおぞましい鎖に封印されていたが、今は天性の才能を発揮する遊び人。身に付けた数々のテクニックでどんな男も5秒で果てさ……」


「はいもういいから! 自己紹介はここまででいいから先生はそれ以上喋らないで下さい!」


 私が必死な形相でそう言うと、先生は「なんだつまらんな」とブーブーと文句を言いながら口を尖らす。って、いい大人が何ふてくされてるんですか。

 そんなことを思い「うぅ」と頭を痛めていると、再び和希が口を開いた。


「そういえばシズクさんはずっと一人で冒険をしてたの?」


「はい。忍び一族のくノ一は、14歳になると黒猫と一緒に一人立ちするしきたりになっているので……」


「そうなんだ。その歳で一人立ちするなんて凄いね」


 感心するような声を漏らす和希。私はというとシズクさんの話しに思わず首を傾げてしまう。その設定、どこかで聞いたことがあるような……


「あれ? でも私、シズクさんの黒猫とか見たことないよ?」 

 

 ふと疑問に思い、そんな言葉を口にすれば、シズクさんが短いため息を吐き出す。


「彼女は旅の途中でオス猫を見つけてしまい、そのまま発情して蒸発してしまったの」


「…………」

 

 何とも言えない悲しいようなおかしいような変な理由に、思わず私たちは黙り込む。が、先生だけが一人何度もうんうんと頷いている。


「わかるなそのメス猫の気持ち。私もこの異世界に来たばかりの頃はよく発情して蒸発を繰り返し……」


「あーもう先生は余計なこと言わないで下さい! シズクさんに悪影響です!」


 私はそう言って先生のことを睨んだ。すると今度は浅田さんがぼそりと口を開く。


「ところでなぜ忍び一族のくノ一は14歳になると一人立ちをするのだ?」

 

 ふと口にした浅田さんの質問に、私たち全員の視線がシズクさんに注がれる。すると彼女が「ああそれは……」と冷静な口調で話しを始めた。


「くノ一は忍び一族の跡取りを身籠る役目があるので、お相手となる立派な殿方を探すためです」


「…………へ?」

 

 まったく予想もしなかった旅立ちの理由に、私含めて全員の目が点になる。そんな中、あろうことかシズクさんがチラリと和希に視線を送ってはまた頬を赤くしているではないか。


「…………」

 

 今後安全に冒険をする上で頼りがいがあるシズクさんに是非とも入ってほしいと私から声を掛けたものの……このパーティ、ほんとに大丈夫だよね?

 

 シズクさんの思わぬ爆弾発言に盛り上がりを見せる面々を見つめながら、私は一人そんなことを思ってしまった。

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