第8話 初めてパーティを組みます。

 怖いおねーさま方たちとの騒動がやっと終わった後、私と和希は酒場の隅の席で向かい合って座っていた。お互いに無言。何なら私はずっと頭を抱えている。


「ね、ねえ和希……ほんとに何も覚えてないの?」


「……うん」

 

 何十回と繰り出した同じ質問に、何十回と同じ答えを返してくる和希。つまるところ……そういうことだ。


「ほんとに私のことも、元いた世界のことも覚えてない?」


「…………うん」

 

 まるでお預けを食らった子犬のようにしゅんと顔を伏せる和希。その守ってあげたくなるような表情も、ちょっとぽわんとした雰囲気も間違いなく私が知っている和希なのに、なんと彼は以前の記憶が一切ないという。

 

 ど、どういうことなの? たしか女神のアスなんちゃらさんは記憶も身体も元のまま違う世界に行けるって言ってたはずなのに……

 

 そんなことを思いながら私は大きくため息をついた。さっきの騒動の時は一応私が勇者ということを信じてもらうことができて事なきを得たが、私と和希がもともと知り合いだったという件については結局誰も信じてくれなかった。

 何なら、「どうせイケメンほしさに嘘ついてるんでしょ!」とあの怖い女騎士さんに言われてしまい、そのせいで今の私は『面食い勇者』という称号を得てしまった。


 うぅ……嘘なんてついてないのに。


 バシバシと自分に向けられたあの時の冷ややかな視線を思い出してしまい、私はまたもため息をつく。するとそんな私を見た和希が、おずおずとした様子で口を開く。


「あ、あの……さっきは迷惑かけてごめんなさい。僕のせいで勇者様に変なあだ名までついちゃって」


「……僕?」

 

 変なあだ名、という言葉に再び胸の奥がグサリとしたが、それ以上に和希が自分のことを『俺』ではなく『僕』と言っていることが気になった。

 いくらナヨっとしているところがあるとはいえ、和希は自分のことを少しでも男らしく見せる為に幼稚園の頃から頑に『俺』と言い続けてきたはず。……どうやらこれは記憶がないというのは本当なのかもしれない。


「ね、ねえ和希。その勇者様って呼ぶのやめてくれない? いつもみたいにその……私のこと、名前で呼んでほしいんだけど……」

 

 そんな些細なお願いに、何故かぎこちない口調になってしまう私。

 あれ? おかしいな……。和希からはいっつも「朱莉」って名前で呼ばれるのは慣れているはずなのに、なんか自分からお願いするのってちょっと恥ずかしくて緊張しちゃう。何でだろう?

 そんなことを思いながらモジモジと両手の指先を絡める私は、様子を伺うようにチラリと和希の顔を見る。すると和希が困ったように頭をかいた。


「いやその、勇者様のことを名前で呼ぶのはちょっと……」

 

 そう言って和希は私からさっと視線を逸らすと、何故か頬を赤らめる。

 え? 何この付き合いたてのカップルみたいな雰囲気? やめてよ、なんか余計に緊張しちゃうじゃん!


「べ、別に変な意味とかないから! 私のこと和希はよく名前で呼んでたからそっちの方が落ち着くの」


「でも……」

 

 断固として名前を呼びたがらない和希に、今度は呆れてため息をついてしまう。


「わかったよ……べつに勇者じゃなかったら和希が呼びやすいように呼んでくれたらいいからさ」


「じゃあ…………宮っち?」


「それだけはやめて」

 

 私は即答で答えた。その瞬間脳裏にはやたらとセクシーなバニーガール姿の女性が浮かんだので慌てて首を振る。

 結局名前一つの議論に多大な時間をかけて、最終的にはシンプルに「宮園さん」で決着がついた。今までずっと「朱莉」と呼んでくれていたのにいきなり名字のしかも「さん」付け。何だろう……思った以上にショックがデカいぞ、これ。

 私は何度目になるかわからないため息をつくと、再び頭を抱えた。


「フライパンとかで頭叩けば記憶戻るのかな……」


「え?」

 

 思わず私がぼそりと呟いた言葉に、和希が怯えたような声を漏らす。


「冗談だよ……って、そういえば和希は何でそんな不思議な格好してるの?」


「この服装のこと?」

 

 首を傾げる私に、なぜか和希も首を傾げる。そんな彼に向かってコクンと小さく頷くと、今度は嬉しそうな口調で和希が言った。


「だって僕は白魔術師だからね。だからこのローブはその証で、僕ら白魔術師の正装なんだ」


「白魔術師? 和希が?」 

 

 目をパチクリとさせて聞き返す私に、和希が「うん!」と無邪気に笑う。


「僕、昔からずっと白魔術士に憧れてたんだ! あ、魔術師にも色んなタイプがあるんだけど僕ら白魔術師は回復とか補助魔法とかサポート全般の魔法が得意で、特に上位魔法クラスの技になってくると……」


 突然スイッチが入った和希は、まるで女子が恋バナでもするかのようにハイスピード&ハイテンションで喋り始めた。

 そういえば和希って昔から好きなことに夢中になるとこういう一面があったような……。

 そんなことを思いながら、私はノンストップで話し続ける和希に苦笑いを浮かべたまま相槌だけ打つ。

 一体どこで白魔術師に憧れを持ったのか知らないけれど、きっと和希がしていたゲームの影響なのだろう。まあたしかに和希の性格を考えると、積極的にガンガン戦うよりも裏方でサポートしているイメージのほうがピッタリと合う。

 だからこそあのバス事故の時、和希が積極的に身を徹して私を守ってくれたことには驚いたんだけど……


 和希のやつ……そのことも忘れちゃったのかな?

 

 私はそんなことを思うと、彼の顔からさっと視線を伏せた。すると和希が、「あ」と言って今度は申し訳なさそうに話し出す。


「ご、ごめん。なんだか宮園さん相手だと不思議なくらい話しやすくて、つい僕ばっかり喋っちゃって……」


「和希……」

 

 彼の言葉に思わず胸の奥がきゅっと締め付けられる。いくら記憶を忘れたからといって、これまで和希と一緒に過ごしてきた時間が消えたわけじゃない。だからこれから先も和希の隣で一緒にいれば必ずどこかで……

 と、そんなことを思っていた時、肝心なことを思い出して私は慌てて口を開いた。


「そういえば私と和希って、どうやってパーティ組めばいいんだろ?」


「え?」

 

 私の言葉に和樹がきょとんとした表情を浮かべた。

 和樹とパーティを組みます! と大見得を切って女性陣の前で宣言したものの、そもそもパーティなんて組んだこともなしい方法も知らない。このままだとまた誰かに和希を取られる危険が……と一人頭を悩ませていると、彼がぼそりと言った。


「手を繋げばいいんだよ」


「え?」


 突然彼の口から飛び出してきた言葉に、私は思わず目を丸くする。すると和希が説明を続けた。


「パーティを組むと言っても基本的には口約束なんだけど、勇者と組む時だけはお互い同意の上、こうやって手を繋げばいいんだよ」

 

 そう言って和希は私に向かって右手を差し出してきた。どうやら手を繋ぐというのは握手のことらしい。もう、急にビックリさせないでよ……

 てっきり和希と手を繋いで歩くのかと勘違いしてしまった私は、顔が熱くなっていることを誤魔化すように咳払いをする。


「か、和希はいいんだよね?」


「何が?」

 

 私の質問に和希は右手を差し出したまま不思議そうな表情を浮かべる。


「だからその……私とパーティ組むことなんだけど……」

 

 私はもごもごとした口調でそんな言葉を口にした。お互いの同意の上でパーティが成立するというのなら、ちゃんと和希の気持ちを聞いておく必要はあるだろう。

 まあここまできてもしも和希に「嫌だ」と言われた暁には、この世界で生きていく自信はなくなるだろうけど……

 そんな恐怖が一瞬頭をかすめてゴクリと唾を飲み込む自分に、和希は屈託のない笑顔を浮かべてこう言った。


「もちろんだよ。僕も宮園さんとパーティを組めるのは嬉しいし」


「……」

 

 え、ちょっと待って、何その意味深なセリフ。いつもの和希だったら絶対そんな素直なこと言わないのに……パーティを組めるのが嬉しいってことは、つまり和希は私とずっと一緒にいれることが嬉しいってこと? ねえそういうことなの??

 一人心臓をバクバクと鳴らしながら、私は思わず和希から目を逸らした。別に和希のことが好きとかそういうわけじゃないけど、それでもバス事故の一件の後にそんなことを言われるとやっぱりちょっとドキドキしてしまう。


「あ、あの……」と右手を伸ばしたまま困っている和希の声が聞こえてきてハッと我に返った自分は、「ごめん!」と慌てて返事をすると同じように右手を伸ばす。

 変なことを意識してしまったせいか、やたらと自分の手汗が気になってしまう。って、一体何を緊張しているんだ私は……


「よ、よろしくお願いします……」


 久しぶりに触れた和希の手は私よりもずっと大きくて、それだけで彼もやっぱり男の子なんだなと改めて思う。きゅっと優しく握りしめてくれたその手のひらは、今の自分の頬と同じくらい熱を持っているような気がした。

 そんなことを思いながらずーっと黙ったまま握手をしていた自分だったか、チラチラとこちらを見てくる周りの視線が気になってきて小声で尋ねる。


「ね、ねぇ和希……これっていつまで握手してたらいいの?」


「え? 一瞬でも手を繋いだらもう大丈夫だよ」


 早く言ってよ! と私は顔を真っ赤にして慌てて手を離した。危ない危ない、公衆の面前で私は一体何をやってるんだ。

「もう」と唇を尖らせる私に、和希が何故かクスクスと笑う。


「宮園さんって何だか面白いね。女の子で勇者っていうのも珍しいし、そんな服装も初めて見たよ」


 そう言って和希は私が着ている制服をチラリと見てきた。その瞬間、私の心臓がまたドクンと音を立てる。


「あ、あのさ和希……この服装、どう思う?」


 私はおずおずとした口調で試すように尋ねた。

 高校の入学式の日、私のセーラー服姿を初めて見た和希は、普段滅多に褒めてくれることなんてないのに、「朱莉、すごく似合ってる!」と珍しく大絶賛してくれたのだ。

 お母さんやお父さん、それに友人達もみんな同じことを言って褒めてくれたのだけれど、私は幼なじみの和希に褒めてもらえたことが一番嬉しくて、この制服が大好きになった。 

 

 だから、もしかしたらこの制服の話しをすれば和希の記憶が……


 私はそんなことを期待しながらゴクリと喉を鳴らすと少し上目遣いに和希を見る。すると彼は「うーん」と真剣な表情を浮かべた後にニコリと笑った。


「なんだか個性的で良いと思うよ」


「…………」


 あれ……おかしいな。なんかあの時よりも褒め言葉が軽くなってない? しかも「個性的」って良いのか悪いのかどっちに捉えたらいいのかわからないんですけど……

 そんな疑問と疑念を抱きながら目を細めてじーっと和希を見ていると、彼も私の心境を察したのか、「に、似合ってるよ!」と慌てた口調で付け足してきた。……なんだか怪しいな。


「はぁ……記憶が戻った時にもう一度褒めてもらうか」


「え?」


 ぼそっと呟いた言葉に和希が不思議そうに首を傾げたが、私は「何もない」と言ってこの話しを終わらせた。傷ついた分の乙女心は、記憶が戻った時に精算してもらうことにしよう。

 そんなことを思った私は気持ちを切り替える為に話題を戻す。


「そういえば正式にパーティを組めたかどうかって、どうやって確認すればいいの?」


「ああ、それはステータスを見ればわかるようになってるよ」


 そう言って和希は私と同じような巻物を取り出すと、それをテーブルの上に広げた。すると真っ白だった紙の上に、和希のステータスが徐々に現れてくる。


「ほら、ここの『パーティ』っていう項目を見れば誰と組んでるのか一目でわかるようになってるんだよ」


「あ、ほんとだ。私の名前が書いてある」


 和希が指さしている箇所を見ると、そこにはたしかに『勇者 宮園朱莉』とリストの一番上に表示されていた。……やっぱり勇者は避けられないのね、私。


「ねえ、私の名前の上にNo titleって書いてるけどこれって何?」


「そこはパーティ名を決めると現れるようになってるんだよ」


「パーティ名?」


 私はにゅっと眉間に皺を寄せて和希の顔を見た。


「うん。パーティを組む人はみんなだいたい自分たちのパーティ名を決めてるんだよ。後々有名になってくれば、そのパーティ名を聞くだけで入りたがる人や、町や村で色んなサービスを受けれるようになることもあるんだ」


「ふーん、そうなんだ……」

 

 私は和希の話しを聞きながらコクコクと頷いた。

 おそらくパーティ名というのは一種のブランドのようなものなのだろう。そういえばさっきの怖いおねーさま方たちも、『風のツバサ』や『マダムファミリー』といった個性的な名前を色々と言っていたような気が……


「そのパーティ名っていうのは絶対に決めないといけないの?」


「絶対ってわけじゃないけど、あるとみんなに覚えてもらいやすいしお勧めかな。あと自分の『二つ名』も」


「二つ名……」


 その言葉を聞いてもすぐにピンとはこなかったが、おそらく志保ちゃんが自分のことを『ヘビメタ』と言ってたあれのことだろう。 

 どうやらこの世界では何かと名前を付けることが流行っているようだ。


「ってことは和希も自分の二つ名とか決めてるの?」


「う、うん……一応は……」


 そう言って何故か和希はもじもじとしながら恥ずかしそうに視線を伏せる。そんな彼の仕草を見て、不覚にも私の胸の奥が一瞬きゅんとしてしまった。

 昔から顔はイケメンのくせに、そうやってすぐに母性本能をくすぐってくるところは正直ずるいと思う。さすが高校でも『先輩キラー』と影でこっそり呼ばれていただけ……


「って、まさか和希……『歳上ハンター』とか『マダムキラー』とかそんな名前付けてないよね?」


 ギロリと目を細めて尋ねる私に、「ち、違うよ!」と和希が慌ててブンブンと首を振った。


「僕の二つ名は『癒しの白魔術師』で、そんな強そうな名前なんて自分には似合わないよ!」


「…………」


 恐れ多いと言わんばかりに否定する彼の様子を見るところ、どうやら和希は私が言った名前の意味をちゃんと理解してないようだ。……まあ、別に構わないけど。


「とりあえずパーティの名前と私の二つ名はまた今度決めることにしよっか。どんなのが良いのかわかんないし」

 

 私は和希の顔を見てそう言うと、再び視線を手元の巻物へと戻した。


「へぇ、和希ってレベル8もあるんだ。ちゃんと魔法とかも覚えてるんだね」


「うん。僕こういうゲームみたいな世界好きだから、何度か他の人たちと一緒にダンジョンに行ったこともあるんだよ! まあ僕はほとんど後ろでサポートするばっかりだったけどね」


「なんかそれって和希っぽい」


 そう言って私はクスリと笑う。すると恥ずかしがっていた和希もつられるようにクスクスと笑った。

 まるで元いた世界で過ごしているかのような穏やかなワンシーン。

  ああ……やっぱり和希とこうやっていつもみたいに話せると、私、どんな異世界でも生きていけそうな……


「……ん?」


 ふと彼の巻物のとある箇所がチラリと視界に入って、私は思わずその部分を二度見した。そこは和希の強さを表す項目がずらりと並ぶ部分。

 けれど、私のステータスには無かったものがそこには一つあった。


「ねえ和希……この『男子力15』って、何?」


「え?」


 お互いの穏やかな笑い声が消え、一瞬の沈黙。和希はうーんと首をひねりながら、悩むように答える。


「その項目だけよくわからないんだよなぁ。なんか神殿の受付の人が言うには男の魅力が何とかって言ってたんけど……」


「へ、へぇ……そ、そうなんだ……」


 動揺を隠すつもりでゆっくりと唇を開いたはずが、思いっきりぎこちない口調になってしまった。合わせて胸の中では心臓がバクバクと嫌な音を立てている。


 これって……まさかとは思うけど……私でいうところの『女子力』と同じ意味なのだろうか?

 

 私はタラタラと冷や汗が流れるのを全身で感じながら、和希のステータスをじっと見つめた。が、どれだけ目を擦っても穴が開きそうなほど睨みつけても、そこにはたしかに『男子力』という文字と、そして『15』という数字が見える。


 15。

 

 私の記憶が正しければ、そして和希が私に隠し事をしていなければ、彼はまだ彼女が出来たことがないはずだ。

 小学校、いや幼稚園の頃から女の子によくモテていた和希だけれども、不思議なことに彼は一度も彼女作ったことがない。

 つまり、彼と私の恋愛経験値は限りなくイコールのはず。そう、ニアリーイコールのはずだ。なのに……なのにどうして和希の数値のほうが高いの? 


「あ、あのさ和希……この『15』って数字なんだけど、なんか心アタリアル?」


 動揺が限界を超えてしまい、語尾がカタコトになってしまった。けれどそんな私の様子は一切気にすることもなく、和希がマイペースな口調で答える。


「んー……僕もあんまり覚えてないんだよ。なんかぼんやり浮かんできそうな気はするんだけど……」


「…………」

 

 何? そのぼんやりの向こうに何があるの? 誰がいるの? もしかして友美ちゃん? 中3の時に和希とちょっと噂になったことがある友美ともみちゃん? 

 そういや一度和希の家の前で偶然友美ちゃんに会った時、彼女びっくりするくらい顔が赤かったけどもしかしてあの時何かあったの? ねえ、私に内緒で何が起こったの? お母さん怒らないからイッテゴラン?

 

 壊れたロボットみたいに私はそんな問答を脳内で永遠と繰り返していた。その間も和希はうーんうーんと唸りながら意味深な表情を浮かべたまま悩んでいる。


「和希……ほんとに心当たりないの?」


「うーん……思い出せないんだよ」


「嫌、許さない。思い出して」


「でも……」


「でもじゃない。ほら早く、早く思い出して!」


 思い出してよぉッ! と私は必死の形相で彼の胸元を両手で掴むとブンブンと前後に激しく揺する。


「和希のバカぁッ! 不潔! 変態! 15って何よ! どこまでいったのよ⁉︎」


「ちょ、み、宮園さん落ち着いて……僕は何も……」

 

 和希があわあわとした様子で何か答えようとするも、ハッキリとしない彼の態度に私の苛立ちが増していく。


「やっぱり友美ちゃん? 私に内緒で友美ちゃんと付き合ってたの?」


「と、友美ちゃんって誰? 僕そんな人……ウプ」


 揺さぶり過ぎてしまったのか、くるくると目を回している和希が気持ち悪そうな顔をしていることに気付いて「ご、ごめん」と私は慌てて手を離した。と、その時ちょうど酒場の店員さんが自分たちの席へとやってきた。


「ごめんねーお二人さん、そろそろお店が閉店の時間なのよ」


 よほど騒ぎ過ぎてしまったのか酒場のおねーさんはぎこちない笑みを浮かべながら言ってきた。

 それを見て思わず恥ずかしくなった私は、「は、はい……」と小声で返事をすると、まだくるくると目を回している和希を立ち上がらせて一緒に店を出た。


 はぁ……私、異世界で何やってんだろ。

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