第8話 いざ、絞めの一歩

さて、そこまでわかれば、最後は、凶器の入手方法と物的証拠固め。

もちろん、そこで何らかの形で小日向が関係してくると思われるのだが。

そんな話しをしていた時、勘太郎を訪ねて、2人の客が入ってきた。

近所とまでは言えないが。

四条河原町を少し西に入った所にあるスポーツ吹き矢スクールの事務員とコーチが勘太郎に頼まれてあることを調べてくれていた。

『真鍋さんのおっしゃる通り、

 この吹き矢は、当スクール

 の練習用の弾です。

 紛失というのは、めったに

 ありません。

 練習生さんが持ち帰ってし

 まわれることはございます

 が、ほとんどの場合。後で

 出て参ります。

 普通は、ご家庭では使い道の

 ない形と大きさですので。

 今回は、五条警察署に紛失届

 を出しております。

 証拠として、写真と証明書を

 作成してきました。』

そう言って、弾の写真と紛失届けの受付のコピーとお店の証明書を渡してくれた。

そこまでの説明を受けたところで、萌が弁当を2個、持って来て。

『無理なお願いしました。

 ご協力ありがとうござい

 ます。

 お詫びとお礼と言っては、

 何か申し訳ありませんが、

 せめて、お土産にお持ち下

 さい。』

萌の挨拶に、スクールの2人は、かえって恐縮してしまった。

スクールにしてみれば、市民として当然のことをしただけで、

自分達が、一生懸命になっているスポーツ吹き矢を愚弄するようなことをした犯人に憎しみを持っている。

その捜査をやってくれている刑事に協力するのは当たり前と思っているのに、ミシュランのお弁当。

勘太郎はじめ、その場にいた刑事が皆で、あまりにお礼を言うものだから、断れなくなってしまった。

しかも、その刑事の中に被害者の遺族がいたと聞いて、自分達のやったことが、間違いではなかったことを確信して嬉しくなった。

『ところで勘太郎・・・

 この証拠品は何のためや。』

梨田には、裁判での戦術まではわからない。

『この証拠品で、箕山が犯人

 やと確定できました。

 裁判で必要になる、入手経

 路と違法性に罪悪性が証明

 できます。』

裁判を戦うために必要な証拠品まで集めていた。

『なんで箕山が犯人やねん。』

やはり梨田は文化系なのだろう。

武道の達人の気持ちが、推し測れない。

『私や勘太郎が、竹刀を大切

 にするのと同じですよ。

 小日向は、日本一に四回も

 なったほどの達人です。

 大切な弾を、そんなことに

 使えるとは思えへんの

 です。』

木田の言葉に新藤幸太郎のみならず、梨田も驚いた。

『竹刀を大切にって・・・

 警部補は、剣道の全日本選

 手権で何度も優勝したほど

 の達人だからわかるが。

 勘太郎は・・・。

 たしかに、射撃ならオリン

 ピックの金メダリストやか

 ら世界一の達人に違いない

 やろう・・・

 そやけど、剣道は。』

梨田は、勘太郎を拳銃の達人とは知っているが、剣道までとは思ってもみなかった。

『先生は。柳生新影流に柳生

 十兵衛の再来とまで言われ

 た少年剣士が現れたという

 ニュースを調べてはりまし

 たねぇ。

 その柳生十兵衛の再来と言

 われた少年剣士が勘太郎な

 んですよ。

 稽古で、手合わせても、そ

 の凄さがビンビン伝わって

 くるんです。

 この私ですら打ち込むこと

 をためらうほどに。』

事実、訓練では何回も、勘太郎に打ち込まれて一本を取られている。

『なんや・・・

 灯台もと暗しやったんか。

 勘太郎、また稽古を見せて

 くれ。』

新藤幸太郎は、考え込んでいた。

馴染みの薄い、宗教料理の料理人によるスキャンダルとゴシップ記者の対立が引き起こした事件だと思っていたが、裁判に勝たなければならないということを学んだ。

そのために必要な証拠品も集めるという周到な準備をしなければならないということも学んだ。

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