第7話 原因は、つまらないことだが。

箕山と小日向の凶行には、いくらなんでも、京都の魔界による因縁は無いと思いたい勘太郎であるが。

疫病退散を願って早良親王の怨霊の呪いを鎮めようと始められた祇園祭の最中に、しかも、八坂神社の境内での事件。

その上、吹き矢等という古くさい道具で、おまけにトリカブト等という骨董品のような毒物。

あまりと言えば、あまりにも古くさい。

新藤司を標的にした理由はわかるが、殺人の動機とまでは、言えるのかどうか。

法治国家の警察官の思考によると、殺人等という重い犯罪は、それなりに強い恨みや呪いがあるはずである。

箕山と小日向の新藤司への、恨みと呪いは、たかだか、業務上の損得勘定。

京都に着いて、勘太郎と萌は、前回同様に京都タワーホテルに宿を取ることにした。

新藤幸太郎も、同じホテルでシングルルームが空いていた。

ホテルの玄関前に、豪華なリムジンが停車していた。

糸魚川夫妻が来ていることが、丸出し。

『お前、連絡したのか。』

『してへんよ。

 どんな行動になるか、

 わからへんし。』

萌にしてみれば、乙女座に顔を出す時間があるのなら。連絡もするが、行けもしないのに連絡することはない。

ホテルのフロントロビーには、糸魚川夫妻と本間と佐武、梨田医師が待っていた。

メンバーを見て、本間から連絡が回ったことがわかる。

新藤幸太郎は、しゃっちょこばってしまった。

日本一と言われる敏腕警部の本間と日本一の鑑識と言われる佐武に日本一の法医学医師の梨田まで勢揃い。

『新藤君・・・

 この度は、従兄弟の司さん

 のこと、御愁傷様です。

 もっとラフな服装に着替え

 て集合して下さい。』

本間に言われて幸太郎は、どうするか迷った。

ラフな服装と言われても、スウェットスーツとジーンズとポロシャツくらいしか持って来ていない。

勘太郎と萌は、ジーンズ系の服装。

それを聞いた新藤もジーンズにした。

新藤幸太郎のジーンズは、リーバイスだが、勘太郎と萌は、しまむらの一般的な物。

久し振りの本間ファミリー。

ホテルの玄関に停車していた豪華なリムジンが迎えの車と知った幸太郎は、驚くよりビビってしまった。

そんなに経費が認められるとは思えない。

『新藤君・・・

 そんなに固くならなくて良い

 んだよ。

 このリムジンは、勘太郎の

 自家用車だからもちろん

 ただ。

 これから行く店も、勘太郎

 と萌ちゃんがオーナー。

 すべて、勘太郎と萌ちゃん

 から、歓迎のおもてなし。』

本間から、そう聞かされてもまだ震えが止まらない。

新藤幸太郎は、そんな豪華なおもてなし等、聞いたことがないので、びっくりしている。

しかも、その歓迎の対象が自分。

幸太郎のイメージでは、歓迎会等というものは、せいぜいファミレスまでで、ほとんどの場合。

居酒屋で、適当にという感じのもの。

ところが、超豪華なリンカーンコンチネンタルというアメリカ製高級車のリムジンでの送迎つきで、京都祇園の、高級クラブ乙女座の奥座敷で、ミシュランの星がついた一流板長の糸魚川が、腕によりをかけて造り上げた京懐石。

挙げ句のはてに、舞妓が数名。

幸太郎にしてみれば、別世界の御大尽遊び。

『幸太郎・・・

 幸太郎・・・

 大丈夫か、おい・・・。』

誰かが呼ぶ声で、新藤幸太郎は我にかえった。

呼んだのは、当然勘太郎。

座敷では、梨田が舞妓さんとトラトラトラというお座敷遊びに興じているのが見える。

騒いではいるが、こんな騒ぎの中でも本間と木田と勘太郎と小林、それに佐武は、事件の話しをしていた。

その話しに、無理矢理な形で加わわらされた幸太郎。

話しの内容に驚愕することになる。

『勘太郎が黒滝に探させた。

 青い三角推の指紋。

 箕山のもんやった。

 けど、箕山に吹き矢の経験が

 ないねん。』

佐武が報告すると。

『だろうな・・・

 吹き矢から探したら、むし

 ろ小日向にいきつくな。

 ところが、小日向は全国大会

 で優勝するほどの達人。

 そんなあからさまな犯行。』

勘太郎は、小日向のスポーツ吹き矢の実績まで調べている。

『動機は、勘太郎の言うてた

 通り・・・

 新藤司の記事を止めること

 やろう・・・

 まったく、ムスリムやなく

 ても、ハラール関係者が、

 豚焼き肉でビール飲んで。

 そんなもん、自業自得やな

 いけ・・・

 なぁ、幸太郎。』

木田は、珍しく憤慨している。

新藤幸太郎は、首を縦に振るしかない。

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