第3話 広域協力
麩まんじゅうを持ち帰ると、萌は、満面の笑みで勘太郎を迎えた。
勘太郎夫妻は、京都タワーホテルに宿をとっている。
観光ホテルほどの豪華さはないが、1晩なら問題なく過ごせる。
ましてや、勘太郎と萌には、はなから、京都の夜をホテルで過ごせることなど、あるはずもない。
ただ、勘太郎は、京都タワーの下のビルの地下3階にある大浴場が好きで、よく通っていた。
今回も、そのお風呂が目的。
もちろん、夜中に、お風呂は営業していない。
東京へ、帰る前に入って帰るという計画。
しかし、前日の事件により、勘太郎にはある不安が浮かんでいた。
そう、早朝から、誰かが訪ねて来るという懸念。
幸い、地下の大浴場は、午前7時から営業しているので、夜行バスのターミナルからエレベーターで地下に下りて大浴場に行くことができる。
この大浴場は、夜行バスで京都に到着した観光客が、1風呂浴びて、さっぱりしてから京都観光できるように早朝7時から営業しているのだが。
勘太郎には、これが手助けになった。
案の定、勘太郎の予想は的中する。
勘太郎が入浴を終えて、萌と朝食を済ませて、部屋で出発の準備をしていると、内線が鳴った。
ホテルのフロントに京都府警察から来客という連絡。
出発準備をして、荷物を持ってフロントに向かうと、予想外の人が待っていた。
真鍋勘助京都府警察本部長と本間警部である。
もちろん、お付きという連中も多数付いている。
ホテルの宿帳には、公務員としか書いていなかった。
ホテルでは、勘太郎夫妻が、そんな上層部の客と思っていなかった。
本間警部が、カウンターにもたれていると、係員が声をかけた。
『警部さん・・・
あのご夫婦、いったい。』
『気付きませんか。
奥さん。
テレビで、よく見ますよ。』
横にいた女子フロントマンが、声を上げた。
『本当だ。
女優の高島萌だ。』
話しを聞きつけてきた支配人は、すぐに営業に結びつけたくなった。
『誰か、サインお願いしろ、
しかし、高島萌さんって京都府警察本部長のお見送りを受けるほど、京都に貢献してはりましたっけ。』
『いやいや、本部長のお見送
りは旦那の方。
警察庁刑事企画課監理官の
真鍋勘太郎警視。
日本の警察官で上から5番
目の地位にこの春から就任
してはる。
本部長の孫や。』
なるほどと納得するフロント職員達だが。
支配人が、あることに気がついた。
『ということは、元々は警部さんの。』
本間と木田と勘太郎の敏腕トリオのことは、雑誌で知っている。
『あいつは、元々が、キャリア組やから、遅かったくらいですわ。』
勘太郎の能力なら、本当は、もっと早く昇進しても良さそうなものだと本間は思っている。
勘太郎と萌は、ホテルの精算を済ませて、京都タワービルのお土産店に向かった。
『多少は、ベタなお土産もいるよな。』
ということで、包み生八ッ橋。
いわゆるおたべを全員が2個づつ当たるように購入して、駅に向かった。
京都タワーは、駅の塩小路側で、新幹線ホームは、八条口側になる。
かなりの距離。
しかし、在来線を跨ぐ通路には、数々の駅弁店が並んでいるので、意外に楽しい。
勘太郎と萌は、昔ながらの、萩乃屋の幕の内弁当とお茶を車内に持ち込むことにした。
東海道新幹線のぞみ号の指定席は、ガラガラで、勘太郎と萌は寛いでいた。
東京に着いたら、勘太郎は被害者の家には行くつもりだった。
死に目に立ち会った人間として、家族に様子を伝えるべきだと考えていた。
捜査に巻き込まれないようにしなければならないのだが。
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