第15話 球技大会

中間試験が終わった翌週、鎌倉学館高校では球技大会の日を迎えていた。


 実施される競技は、野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、ハンドボール、テニス、卓球、バドミントン、ドッジボール、キックベースボールの十競技だ。

 ちなみに、所属している部活と同競技には出場出来ないルールになっている。


 生徒数及びクラス数が多いので、球技大会は三日間に渡って開催される。

 生徒は一人最低二競技には出場しなければならない決まりだ。


 三日間に及び開催されるので、当然中には二日目や三日目には既に敗退して出場競技がない生徒もいる。

 その様な生徒はクラスメイトを応援するも良し、科目毎に教師が講習を開いているので勉強するも良しだ。


 球技大会当日の朝、野球部寮では部員達が朝食を楽しんでいた。


「やったー! 球技大会だっー!」


 朝から晴れやかな表情を浮かべて、元気良く朝食を味わっている者がいた。


「初めからちゃんと勉強していれば無駄な苦労をせずに済んだ」

「今の私は何を言われても効きませーんっ」


 千尋が正論を述べると、亜梨紗は今の自分は無敵とばかりに無い胸を張って得意気に反論する。


「馬鹿だ」


 そんな亜梨紗を見て千尋は、「こいつ懲りてないな」と判断して溜め息と共に呟いた。


「何にせよ。亜梨紗も球技大会に参加出来て良かったね」


 慧が言う様に、亜梨紗は無事? に追試を乗り越え、球技大会に参加可能になったのである。


「うん。良かったよー。ところで、皆は何の競技に出るの? 私は、バレーとテニスに出るんだけど」


 亜梨紗は他の面々の出場する競技について尋ねた。


「私はサッカーとバスケ、後はキックベースにも出るよー」


 亜梨紗の質問に慧がすかさず答えると、他の面々も次々に答えていく。


「私はハンドボールと卓球とバドミントンだよ」

「私はバレーとバドミントン」


 純がハンドボール、卓球、バドミントンの三競技に出場し、千尋がバレーとバドミントンの二競技に出場する。


「澪ちゃんは?」


 恐らく話は聞いていたのだろうが、会話には加わっていなかった澪に亜梨紗が尋ねる。


「? バスケとテニスとドッジボール」


 一瞬首を傾げた澪だったが、質問の意図を理解したのか一拍置いて答えた。


 そして全員の視線がレンとセラの二人に集まったところでレンが答える。


「私? 私はバスケとテニスとサッカーだよ」

「私も同じよ」


 レンが出場する三競技を口にすると、セラが自分も同じだと口にした。


「アメリカっぽい」


 レンとセラの出場競技を聞いた千尋がアメリカをイメージした。


「そうだね。アメフトがあればサッカーじゃなくてアメフトにしたんだけど、流石にアメフトは素人の学生がやるには危険過ぎるしね」

「まぁそれは仕方ない。アメリカで最も人気のあるスポーツだとしても日本では違うし」

「へぇ。アメリカではアメフトが一番人気あるんだ~」


 残念がるレンに千尋がフォローをすると、亜梨紗は驚いた表情を浮かべて意外感を口にした。


「馬鹿だ」

「えっ!? 何で!?」


 そんな亜梨紗に、またしても千尋が毒を吐く。


「アメリカではアメフトが一番人気のあるスポーツなのは常識でしょ。四大スポーツの筆頭なんだから」

「四大スポーツ?」


 千尋は亜梨紗に対し説明するが、彼女は初めて聞いた単語を耳にした様な呆けた表情を浮かべた。


「四大スポーツはアメリカで最も人気のあるスポーツで、北米四大プロスポーツリーグの事だね」


 レンが四大プロスポーツリーグについて説明をする。


北米四大プロスポーツリーグを人気順に述べると、アメリカンフットボールのNFL、バスケットボールのNBA、ベースボールのMLB、 アイスホッケーのNHLである。

 

 近年では競技全体としての人気は、アメリカ内においてサッカーがアイスホッケーを既に上回っており、アイスホッケーに取って代わり、サッカーを四大スポーツの一つに数えても良いという意見もあるが、一プロリーグ単位ではMLSのチーム数や収益などにおいて、四大プロスポーツリーグにはまだ遠く及ばないのが現状である。

 

 なのでアイスホッケーを外し、サッカーを入れて四大スポーツだと言う声もあれば、四大スポーツにサッカーを加えて五大スポーツだと言う声もあるのだ。そして、アメリカンフットボール、バスケットボール、ベースボールの三競技で三大スポーツと称する事も多い。

 

 補足すると、この用語を使用するのは通常スポーツリーグチームの時に限定されているため、個人競技であるゴルフ、テニス、自動車競技などは用いることはない。ただゴルフのPGAツアーと自動車競技のNASCARはファンの多さや競争レベルの高さから四大プロスポーツリーグ並の主要な競技として扱われ、匹敵する報道量を誇っている。


「へぇ。全然知らなかった。私アメリカで一番人気あるの野球だと思ってた」

「そうだね。日本の人は勘違いしている人が多いんだけど、最も人気なのはアメフトなんだよ」


 日本では野球がサッカーと並び特に人気のあるスポーツなので、必然とメジャーリーグを視聴する人、好きな人が多い。

 また、メジャーリーグは他のスポーツよりもアメリカで活躍している日本人選手が比較的多いため、当然日本で試合が放映されたり、テレビなどで報道される機会も多い。

 なので最も見聞きし、馴染みのある野球がアメリカで最も人気のあるスポーツだと思っている人は意外と多いのだ。


「なるほどー。メジャーリーグの事は良くテレビとかで見聞きするもんね」

「ちなみに選手の平均年俸が最も高いのはNBAだよ」


 レンが一通り説明をすると、亜梨紗が二、三年生組にも出場競技を尋ねる。


「先輩達は何に出場するんですか?」

「私はバスケ、ハンドボール、テニスだな」


 亜梨紗の質問に涼が最初に答えた。


「私は、バレーとバドミントンよ」


 涼が答えると、春香も続けて答えた。


「私はサッカー、卓球、キックベースだよ」

「私はバレーとハンドボール、後はドッジボールにも出るよ」

「私は、バスケとバドミントンかな」

「私はサッカー、ハンドボール、テニス」


 恵李華がサッカー、卓球、キックベースの三競技、攸樹がバレーボール、ハンドボール、ドッジボールの三競技、真希がバスケットボールとバドミントンの二競技、静がサッカー、ハンドボール、テニスの三競技だ。


「私はサッカー、バスケ、ハンドボール、テニスだよ」


 そして最後に飛鳥が答えた。


「え!? 飛鳥さん四つも出るの? しかもハードなのばっか」


 四競技に出場するという飛鳥に亜梨紗は驚いた。


「ははっ。飛鳥は仕方ないさ」


 驚く亜梨紗に涼が苦笑を浮かべて説明をする。


「飛鳥は特進科だからな。特進科の連中は勉強第一で運動が苦手な人が多いから、飛鳥みたいに運動部に所属している人や、運動が得意な一部の人に押し付けるのさ」


 特進科の生徒は、スポーツ? 何それ? 受験に役立つの? という思考の生徒が比較的多いのだ。

 そこまで酷い価値観を持っていなくても、日頃から勉強を優先しているので運動はからっきし、嫌いという生徒が多い。

 

 なので飛鳥の様な一部の人間に押し付けて、自分達は比較的楽な競技二つを狙って争奪戦を繰り広げるのである。


「へ、へぇー。大変ですね。飛鳥さん」

「まぁ、仕方ないよね」


 苦笑いを浮かべる亜梨紗に、飛鳥は肩を竦めて答えた。


「折角のイベントなんだ。楽しもうじゃないか」


 苦笑を浮かべる二人に涼がフォローする様に口を開いた。


「そうね。対戦することになったらお手柔らかにお願いね」


 春香の言葉で場は締められ、各自朝食を済ませるのであった。


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