第14話 中間試験
二試合目と三試合目の練習試合を終えた、五月も中旬に差し掛かった日の部活後、早織が部員達の前で学生としての重要な話をする。
「来週から中間試験が始まりますが、皆さんはちゃんと勉強していますか?」
試験の話を持ち出され、亜梨紗が露骨に嫌な表情を浮かべた。
「考えないようにしていたのに・・・・・・」
「現実逃避はいけませんよ」
試験の事を考えるのを避け、試験から目を背けていた亜梨紗に現実と向き合う様に早織は指摘する。
「赤点は取らないようにしてくださいね。赤点を取ると補習と追試で部活の時間も奪われてしまいますから」
「げっ。それは困る」
早織の言葉に亜梨紗はガックリと肩を落とした。
「中間試験は期末試験に比べて出題範囲も狭いですし、科目も少ないですからちゃんと勉強すれば大丈夫ですよ」
「そうだぞ。学年が上がれば科目数も増えるからな」
早織の説明に対して涼が追加の情報を提供する。
「飛鳥なんて私達よりもっと大変だからね」
恵李華の言う通り特進科である飛鳥は、科目数も一番多く、試験自体のレベルも高いのだ。
「ちゃんと授業受けていれば問題ないと思うよ」
話を振られた飛鳥当人は何の問題もないような表情で、ちゃんと授業を受けていれば問題ないと口にする。
「うげー」
だが亜梨紗は心底嫌そうな表情を浮かべる。
「まぁ、飛鳥と比べるのは流石に酷だけど、一年の最初の中間試験に関しては飛鳥の言う通りだと思うよ」
「何にせよ、部活だけではなく試験勉強もしっかりせねばならんという事だな」
肩を落とす亜梨紗に対して攸樹がフォローし、涼が鼓舞をする。
「試験が終わったらすぐに球技大会よ。そこで鬱憤を晴らしなさい」
中間試験が終わると、翌週には球技大会が催される。その球技大会を楽しみに試験勉強を頑張れと春香も背中を押す。
「今週末辺りに出場競技を決める事になるんじゃないかな?」
球技大会について恵李華が補足を加えた。
「逃げていても試験は受けなければならないんだ。やるしかないさ」
「ちなみにちゃんと勉強はしているのかしら?」
「・・・し、してない」
現実を見る様にレンが諭し、セラが勉強をしているのか尋ねる。すると亜梨紗は、勉強はしていないと居心地悪そうな表情を浮かべながら答えた。
「全く?」
「・・・全く」
亜梨紗の答えを聞いたレンが全く勉強していないのか再度訊ねると、亜梨紗は肯定した。
「入学してから一度も自習していないと?」
「・・・う、うん」
レンの再三に渡る質問に、亜梨紗は目線を逸らし肯定した。
「馬鹿だ」
そんな亜梨紗に対し、千尋が呆れとともに呟いた。
「・・・何も言い返せない」
「当たり前」
千尋に対し、言い返す資格のない亜梨紗は地面にめり込むのではないかと思うほど肩を落とす。そんな彼女に対し千尋は自業自得だと追撃した。
「そうだ。レンかセラ、どっちでもいいから英語を教えてくれないか?」
肩を落とす亜梨紗を尻目に涼が後輩に英語を教えてくれと言う。
「
後輩に教えを乞う涼に、恵李華が先輩としてのプライドはないのかと指摘した。
「他の科目ならともかく、英語に関してはレンとセラに対して先輩としてのプライドなど持ち合わせてはいないっ!」
指摘された涼は、堂々とプライドはないと告げた。
「確かに私も英語に関しては、お二人の前では教師としてのプライドはありませんね」
教師である早織まで英語に関してはレンとセラに対してはプライドはないと告白した。
「英語教師でもないので尚更ですが」
涼と早織の言う事ももっともであろう。
いくら日本で英語の勉強をしていたところで、アメリカ生まれアメリカ育ちの二人より英語が堪能な訳がないのだ。
「良いけど、代わりに現代文と公民を教えてよ」
「私もお願いするわ」
レンとセラは成績優秀だが、今回の中間試験の科目の中で比較的苦手分野である現代文と公民の指導を折角なので交換条件として提示する。
二人が現代文と英語が苦手なのも当然だろう。
現代文は英語が苦手な日本人と同じで、アメリカで生まれ育った二人には苦手分野になるだろう。公民に関しては説明不要だろう。一介の小中学生が日本の公民について勉強などする訳がないのだ。もちろん二人とも母親が日本人なので最低限勉強はしていたが、あくまで最低限である。
「もちろんさ」
二人の交換条件を涼は受け入れた。
「それなら私も英語を教えてもらおうかしら」
「私も!」
「私もっ」
「私もお願い!」
春香が自分も英語を教えてと便乗すると、他の面々も便乗していき、結局全員に英語を教える事になるのであった。
◇ ◇ ◇
翌週に行われた中間試験も終わり、答案も生徒達に返却された。
答案が返却された日の放課後、寮に集まっていた一年生組は談話スペースで試験結果について話していた。
「で? 加藤はどうだった?」
千尋が亜梨紗に試験結果を尋ねると、亜梨紗は気まずそうに答案を取り出した。
差し出された答案をレンが代表して受け取り、一枚一枚捲って科目毎に点数を読み上げる。
ちなみに、特進科以外の一年生の中間試験は全七科目であり、赤点は三〇点未満だ。付け加えると、特進科の赤点は四〇点未満である。
「現代文・六三点、数一・三二点、数A・二六点、理科・四二点、公民・五四点、英語・二一点、OC一・一八点・・・・・・」
全ての科目の点数を読み上げたレンは、溜め息と共に答案をテーブルの上に置いた。
「馬鹿だ」
「ぐさっ」
千尋は亜梨紗に先週言った台詞を改めて放った。その台詞を向けられた亜梨紗は胸を押さえて蹲る。
「赤点は三つあるね」
赤点の数を確認した慧は、憐れむ視線を亜梨紗に向けた。
「自業自得」
「ぐさっ」
再び辛辣な台詞を千尋は口にし、案の定亜梨紗は更にダメージを負う。
「授業はちゃんと聞いていたのかい?」
「・・・ね、寝てる」
レンは授業をしっかり聞いていたのか亜梨紗に尋ねると、彼女は授業中は寝ていると言いづらそうに口にした。
「怠惰」
「ぐさっ」
澪以外の全員が呆れて溜め息を吐き、千尋が亜梨紗に対して冷ややかな目線を向けて更に口撃すると、亜梨紗に追加ダメージがヒットした。
「補習と追試決定だね」
「ぐさっ」
蹲る亜梨紗に補習と追試を受ける事になると純が告げる。そして再び亜梨紗は追撃を食らった。
そんな亜梨紗に対して、澪は何を思ったのか、亜梨紗の頬をツンツンと軽く突く。慰めてくれるのかと思った亜梨紗は、顔を上げて澪の方に顔を向けようとするが――
「ふふっ。おもしろい」
「ぐはっ」
マイペースな澪の反応に、追い撃ちを掛けられノックアウトした。
もっとも、澪には追い撃ちを掛ける気など更々なかったのであるが。ただ単に澪は亜梨紗の頬をツンツンしたいと思っただけで、試験結果の話など気にもしていないのだろう。話を聞いていたのかも怪しい。
ノックアウトした亜梨紗を見て、澪は頭の上に?マークを浮かべて首を傾げている始末である。
「み、皆はどうだったのっ!?」
ノックアウトから辛うじて生き返った亜梨紗は、一縷の希望を求めて他の面々の試験結果について尋ねた。同志がいることを期待したのだろう。
だが、現実は非情である。
一年生達を中間試験の学年順にすると以下の通りになる。
ちなみに特進科の生徒は含まれていない。
特進科の生徒を含めると一〇四〇人だが、特進科は科目数も難易度も違うので含まれていない。なので九六〇人中の順位である。
レンが七位、セラが八位、澪が二五位、千尋が八三位、純が二一六位、慧が四四八位、亜梨紗が七六九位だ。
合計点が同じ者も複数いるので、当然順位も同じになるため最下位は九六〇位ではない。
もし九六〇人全員違う合計点だったならば、もっと順位が低かった者もいる事だろう。
当然亜梨紗以外に赤点を取った者はいない。
「ちょっと待って、澪ちゃんの裏切り者っ!?」
「市ノ瀬に負けた・・・・・・」
澪の試験結果を受けて、亜梨紗が裏切り者と叫ぶ。亜梨紗の中では澪は同類だと思っていたのだろう。
そして千尋は、澪が自分よりも点数が良かった事にショックを受けている。
マイペースな澪は、案の定頭の上に?マークを浮かべて首を傾げていたが。
「いや~、皆凄いね」
レンとセラを筆頭に皆の点数に慧は感心する。
慧の順位はちょうど真ん中より少し下だ。わかりやすく言うと中の下である。
「とにかく亜梨紗はしっかりと補習と追試を受けて来なさい」
セラが亜梨紗に補習と追試をしっかり受けてくる様に説教をする。
「そういえば、追試を受からないと球技大会には参加出来ないらしいね」
レンが球技大会に参加出来ない可能性を示唆した。
事実追試に受からないまま球技大会の日を向かえると、当日も補習と追試を受ける事になるので当然球技大会には参加出来なくなる。
「え? 嘘? ほんと?」
この世の終わりとばかりに絶望した表情を浮かべる亜梨紗に、この後全員で改めて説教をするのであった。
もっとも澪は相変わらずマイペースであったが。
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