第13話 対話

「ありがとうございました!」


 試合が終了して両チーム整列し、挨拶をする。試合結果は一〇対六で鎌倉学館の敗戦だ。

 内容は、春香が一回から三回まで投げて二失点、真希が四回と五回を投げて三失点、亜梨紗が六回と七回を投げて四失点、そして澪が八回と九回を投げて一失点であった。

 

 ちなみに、昔は元々イニング数は七回までだったが、現在ではルール改正されて九回までとなっている。それに伴い、春の選抜、夏の甲子園共に、選手登録人数が十八人から二十人に改正されたのだ。


 打撃内容は初回の三点に加え、六回にセラのタイムリーツーベースヒットで一点を追加し、続くレンがツーランホームランで更に二点追加して、計六得点となったのである。


「今日は勝てたけど正直驚いたよ。君達のチームはもっと強くなるね」


 主将同士握手を交わしていると、横浜総学館の主将である坂木が涼に鎌倉学館は強くなると言った。


「良い一年生も入ったみたいだしね」

「ははっ。先輩として後輩達に頼ってばかりはいられんし大変だよ」


 涼はチームが強くなるのは嬉しい事だが、優秀な後輩達に負けない為にも粉骨砕身しないといけない事に複雑な心境になる。


「それは私も同じだな」


 涼の気持ちに坂木も同意した。


「まぁ、何にせよ、お互い最後の夏だ。後悔ない様に楽しもう」

「そうだな。お互いに」


 坂木の言葉に涼が同意して、互いに高校生活最後の夏を楽しもうと固く握手を交わす二人であった。


「しょこたん、しょこたん」


時同じくして澪も秋本のユニフォームを軽く引っ張って呼び掛ける。


「ん? あぁ、市ノ瀬さんか。久しぶりだね」

「ん。久しぶり」


 秋本は澪の方に身体の向きを変えて、挨拶をした。


「それにしても驚いたよ。まさか市ノ瀬さんが鎌倉学館に入るなんてね。推薦いっぱい来ていたんでしょ?」

「うん」

「何で鎌倉学館にしたの?」

「制服」

「なるほど。市ノ瀬さんらしいね」


 数多の推薦を蹴って鎌倉学館を選んだ澪に驚いた秋本は、何故鎌倉学館を選んだのか尋た。

 すると澪の説明不足である言葉でも確り理解した秋本は笑みを浮かべる。


「しょこたんももっと強い所から誘われてたでしょ?」


 澪と同じ様に秋本も数多の高校から誘われていた。

 横浜総学館も県内の強豪校の一つではあるが、全国的にも有名な甲子園常連校からも誘われていたのにも関わらず、彼女は横浜総学館を選らんだのだ。


「うん。横浜総学館うちの監督に熱心に誘われてね。あの人の元で野球をしたいと思ったんだ」


 色んな学校を見学したり、監督達とも話をした中で、横浜総学館の監督に惹かれた事が決めてだと秋本は言う。


「皆さん、そろそろ帰りますよ」


 二人で会話をしていると、横浜総学館の監督から生徒達に声が掛かった。


「それじゃあ、もう行くよ。神奈川大会で会えるのを楽しみにしているよ」

「うん。ばいばい。またね」


 秋本の別れの挨拶に、澪は両手を顔の前で小さく振って見送るのであった。


◇ ◇ ◇


 練習試合が終わった日の夜、夕食と入浴を済ませた部員たちは、寮の廊下などに数ヶ所設けられている談話スペースに集まって反省会をしていた。

 彼女達が悪い事をした訳ではなく、今日の練習試合を振り返り、反省点、改善点などを話し合っているのだ。勿論、良かった所も話し合っている。

 ちなみに早織は既に帰宅している。


練習試合の攻撃での個人成績は以下の通りだ。


 二 椎名飛鳥 四打席 四打数 二安打 打率.五〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 七 杉本恵李華 四打席 三打数 一安打 打率.三三三 本塁打〇 打点〇 四死球一 盗塁一

 三 N・セラフィーナ 四打席 三打数 二安打 打率.六六七 本塁打〇 打点二 盗塁〇

 八 V・ヴァレンティナ 四打席 三打数 三安打 打率一.〇〇 本塁打一 打点三 四死球一 盗塁一

 五 岡田涼 四打席 四打数 一安打 打率.二五〇 本塁打〇 打点一 四死球〇 盗塁〇

 二 守宮千尋 四打席 四打数 一安打 打率.二五〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 九 佐伯静 三打席 三打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 六 進藤慧 三打席 三打数 一安打 打率.三三三 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁一

 一 宮野春香 一打席 一打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 継 鈴木真希 一打席 一打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 継 加藤亜梨紗 一打席 一打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 継 市ノ瀬澪 一打席 一打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 打 武内攸樹 一打席 一打数 一安打 打率一.〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇

 打 可児順 一打席 一打数 〇安打 打率.〇〇〇 本塁打〇 打点〇 四死球〇 盗塁〇


 早織は一応全員に一度は打席の機会が回るように采配をしていた。


「上位打線はしっかり仕事をしているわね」


 瞳が記録したデータを見ながら、春香が上位打線に注目する。


「私が五番としてもっと打てれば良かったんだが」

「そんな事言ったら私なんてノーヒットどころか、出塁〇ですよ」


 五番として主将としてもっと打てれば良かったと反省する涼に、静が複雑な表情を浮かべて声を掛けた。


「たかが一試合の記録なんて気にすることないさ。五〇打席、一〇〇打席立って同じ結果なら問題だけど」


 落ち込む二人をレンが慰める。


「レンが言うと嫌味にしかならないと思うけど」


 そんなレンに千尋がツッコミを入れる。

 確かに全打席出塁し、三安打の猛打賞で、本塁打も一本放っており、盗塁も一つ決めているレンが言うと嫌味にしか聞こえないだろう。


「そんなつもりはないんだが」

「勿論わかっているよ」


 困った表情を浮かべたレンに、涼が代表してフォローをする。

 事実他の部員達もわかっているし、千尋も冗談で言っているだけだ。


「私達投手陣も打たれ過ぎたわね」

「そうですね。先輩はともかく、私は流石に二回三失点は反省です」


 春香が打たれ過ぎたと反省をしていると、真希が悔しげに言葉を口にした。


「私何て二回四失点ですよー」


 二回四失点した事実に亜梨紗は落ち込んでいる。


「横浜総学館相手に、ブランクありで良くやった方だと思うぞ」


 落ち込む投手陣に涼が良くやった方だと宥める。

 涼の言うと通り良くやった方であろう。相手は県内の強豪校である横浜総学館であり、鎌倉学館の二、三年生は一年~二年は実戦から遠ざかっていたのだ。

 亜梨紗も中学の軟式野球をやっていた一年生なのだ、良く頑張った方だろう。


「何にしろ、まだ始まったばかりだ。練習試合もまだある事だし、頑張っていこうじゃないか」


 涼の言う通り練習試合はまだある。反省点も見つかったのだから確り練習してレベルアップしていくだけだ。

 少なくとも、ちゃんと練習をしている限り下降する事はないだろう。


 そうして皆で話し合い、この日は過ぎていくのであった。


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