第10話 練習試合

そして迎えた横浜総学館との練習試合当日。

 鎌倉学館に両校が集まろうとしていた。


 そんな中、麗子は自身の車を鎌倉学館の駐車場に停める


「さて行くわよ。と言いたい所だけれど広くて迷いそうね」


 鎌倉学館はマンモス校であり、スポーツにも力を入れている。

 なので相応に敷地も広くなっており、生徒も三年間で一度も行った事ないと言う様な場所も多く存在する。


「麗子さぁん、こっちですよぉ」


 そう言って百合が麗子を手招きする。


「百合ちゃん、良くわかるわね」

「学校のホームページに学内マップ載ってますよぉ」


 百合はスマートフォン片手に説明する。


「それもそうよね。何で気付かなかったのかしら」


 納得した麗子は百合の後をついていった。


 グラウンドに到着した二人の姿を見つけた早織が近寄り声を掛ける。


「北村さんですか?」


 名前を呼ばれた麗子は振り返り、早織の姿を視界に収める。


「あら? あなたは市原さん!?」

「はい。お久しぶりです」

「え、えぇ、お久しぶりね」


 驚いた麗子は直ぐに平静を保ち早織に問い掛ける。


「何故市原さんがここに?」

「それは私がここの教師だからですよ」

「そうなの!? 知らなかったわ。てっきりプロに行くのもだとばかり思っていたから驚いたわ」

「私、昔プロには行かないって言いましたよ?」

「えぇ覚えているわ。でもごめんなさい。正直本気で言っているとは思っていなかったわ」


 頭を下げる麗子は、ふと思い出したように質問する。


「市原さんが教師と言う事は、もしかして市原さんが野球部の監督を?」

「そうですよ」

「麗子さん麗子さん」


 二人で話していると百合が麗子の名を呼ぶ。


「麗子さん。お知り合いですか?」

「あぁ、ごめんね百合ちゃん。こちらは市原早織さん。十年前の甲子園のスター選手よ。市原さんが大学生の時に何度も取材をした仲なの」

「そうなんですかぁ。」


 麗子の紹介を聞いた百合は、早織に挨拶をする。


「初めまして、私、桃井百合の申します」


 名刺を差し出しながら名前を告げる。


「初めまして、市原早織です。北村さんの後輩さんですか」

「えぇ、そうなの。私共々よろしくしてあげてくれると嬉しいわ」

「もちろんです。ところで今日は取材ですか?」


 早織が麗子に気になった事を尋ねた。


「そうなのよ。申し訳ないけど、邪魔にならない様に練習試合を見学させてもらえるかしら?」

「構いませんよ」


 横浜総学館との練習試合を見に来たのだとわかった早織は了承する。


「それでは、横浜総学館さんもいらっしゃった様なので失礼しますね」


 横浜総学館が到着したのを視界に捉えた所で場を後にした。


◇ ◇ ◇


「本当に椎名がいる!」

「市ノ瀬もいるわ!」

「ってか、外国人が二人いるぞ!」


 横浜総学館の部員達が到着し、練習試合が始まろうといしていると、相手校のベンチから横浜学館のベンチ側へと驚いた声が聞こえてくる。


「二人は本当に有名なんだね」


 ガールズ時代の有名選手である飛鳥と澪、二人の実力や実績をレンは改めて実感した。


「さて、それでは皆さん聞いてください」


 一つ拍手を打ち注目を集めた早織の言葉に、鎌倉学館野球部員全員が彼女に向き直る。


「今日のスタメンを発表します」


 その言葉に期待の籠った表情を浮かべる部員達。


「が、選手権神奈川大会までの練習試合までに様々なオーダーを試しますので、今回のオーダーも確定ではりません。その事をしっかり理解しておいてくださいね」


 このチームとってどのようなオーダーがベストかを試す期間だと早織は告げる。


「では発表します」


 そうして告げられた本日のスターティングメンバーは以下の通りだ。


鎌倉学館 スターティングメンバー


 一番 二塁手 椎名飛鳥

 二番 左翼手 杉本恵李華

 三番 一塁手 セラフィーナ・ニスカヴァーラ

 四番 中堅手 ヴァレンティナ・ヴィルケヴィシュテ

 五番 三塁手 岡田涼

 六番 捕手 守宮千尋

 七番 右翼手 佐伯静

 八番 遊撃手 進藤慧

 九番 投手 宮野春香


 鎌倉学館野球部の初陣はこのようなオーダーだ。


 初回、鎌倉学館は後攻なので守備から始まる。


 対して横浜総学館の一番打者バッターがバッターボックスに立つ。

 横浜総学館の先頭打者は左打ちの俊足、早坂圭子だ。


 投手の春香は初球、千尋のサイン通りにインロー――内角低め――にカーブを投げ込む。

 圭子はその初球を見逃しワンストライク。


 千尋は二球目は、インハイ――内角高め――の厳しい所にフォーシームを要求する。


(ボールでも良いから、しっかり腕を振って)

(えぇ。わかったわ)


 サインに頷いた春香は要求通りにインハイにフォーシームを投げる。

 投げ込まれたボールを早坂は見逃してボールになり、ワンボール、ワンストライクとなる。


 三球目はアウトロー――外角低め――にチェンジアップを要求した。


(フォーシーム。打てる!)


 その投げ込まれたボールを早坂は打ちに行くが――


(違うっ! チェンジアップ!)


 緩急でタイミングをずらされた早坂は空振りとなる。


 そして四球目は、三球目と同じ所にフォーシームを千尋は要求した。


 アウトローに投げ込まれたフォーシームに、早坂はチェンジアップの残像が残っていたのか、降り遅れて打球はサード前に転がる。


 飛んできた打球を涼は冷静に少し前進してから捕球し、ファーストに送球する。

 その送球をセラがしっかり捕球してワンアウトになった。


 そして次は、右打席に入った二番打者を迎える。


 千尋は初球、アウトローにスライダーを要求した。


 要求した通りに投げ込まれたスライダーは、ストライクゾーンの際どい所に吸い込まれた。

 そのスライダーを二番打者は見逃し、ボールになる。


 続いて二球目は、インローにフォーシームを投げた。

 投じられたフォーシームに反応した打者はバットを降り抜きボールを捉えるが、打球は三塁側へのファールとなる。


 これでワンボール、ワンストライクとなった。


 三球目には、アウトローにチェンジアップを投げ、空振りと奪う。


 そして四球目、千尋はインハイにシュートを要求した。


(折角の練習試合だし、シュートを実戦で試しておきたい)


 サインに頷いた春香は要求通りに打者のインハイにシュートを投げ込んだ。

 インハイに投げ込まれたシュートに、打者は反応出来ず見逃し三振となった。


 そして次に、三番打者である秋本祥子が左打席に入った。


 秋本には初球アウトローにフォーシームを投げる。

 すると秋本は、そのフォーシームを打った。

 打った打球の行方はセンターライナーとなり、スリーアウトとなる。


 春香の初回のピッチングは三者凡退で終えた。


「ナイピ」


 涼はベンチに戻る春香の尻をグラブで軽く叩きながら労う。


「先制点よろしくね」


 春香は涼に嬉しさを含んだ表情で返事を返した。


 そして鎌倉学館の初回の攻撃が始まる。

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