第9話 暗躍?
都内某出版社社内にて帰り支度をしていた女性に気になるリーク情報が飛び込んでくる。
「何かしら?」
その情報に目を通してしいく女性の目付きが鋭くなる。
「あの椎名飛鳥が鎌倉学館にいて、明日練習試合をするですって!?」
驚きの声をあげた女性は情報を整理していく。
「あの行方不明だった椎名さんが発見されただけでも驚きなのに、市ノ瀬さんと守宮さんも鎌倉学館に入学したというの?」
リーク情報には市ノ瀬澪と守宮千尋の事も記載されていた。
(真偽はともかく、一度確認する必要があるわね)
そんな女性の近くのデスクで帰り支度をしていた、もう一人の女性が不思議そうに声を掛ける。
「麗子さん。どうしたんですか?」
「ん? あぁ、ごめんなさい百合ちゃん。驚かせちゃったわね」
「いえ、大丈夫ですけど」
百合と呼ばれた女性に麗子は申し訳なさそう謝る。
「それで、どうしたんですか?」
再度百合が麗子に問いかけた。
すると、麗子は少し考える素振りをしてから口を開く。
「百合ちゃん、明日は取材に行くわよ」
「えっ!? 明日ですか!?」
突然の取材宣言に驚く百合。
「何処に行くんですか?」
百合は何処に取材に行くのか疑問に思い、率直に質問する。
「鎌倉よ」
鎌倉という単語に、百合の頭の中には煩悩が渦巻く。
「(鎌倉かぁ~ いきなりで驚いたけれど、鎌倉で観光ってのもありかなぁ)わかりましたぁ」
そうして彼女達は、この日は帰宅するのであった。
◇ ◇ ◇
所変わって、レンの姿は鎌倉学館理事長室にあった。
「綾ちゃん、何か悪巧みでもしているのかい?」
綾ちゃんと呼ばれたのは鎌倉学館の理事長兼学園長である、レンの伯母、
その綾瀬は理事長室に設置してあるソファに腰掛けているレンにしなだれかかっていた。
ちなみに、綾瀬はレンに自分の事を綾ちゃんと呼ばせている。
綾瀬は姪達の中でもレンの事を殊更可愛がっているお気に入りなのだ。
「悪巧み何て酷いわ」
綾瀬はそんな事を言って、レンの胸元を人指し指でツンツンとする。
こんな事しているが、綾乃は現在四二歳である。
まぁ、四二歳には見えないのだが。二〇代~三〇代前半だと言われても誰もが疑問に思わず信じる事だろう。
「ただ少し良い事を教えてあげただけよ」
「まぁ野球部の為になるなら別に構わないけどさ」
レンは野球部の為になるならばと確認を込めた念押しをする。
「もちろんよ。来年は野球部志望の
綾瀬は高校野球を特集している雑誌を出版している某出版社に、ガールズ時代の有名選手だった飛鳥、澪、千尋の三人が鎌倉学館に入学しており、練習試合をする事の情報を匿名でリークした。
少しでも鎌倉学館野球部の知名度を上げて、来年度以降の野球部を志望する新入生を集めようという自作自演を行っていた。
「そうだね。戦力は多いに越した事はないよ」
部員が少なくて戦力不足で悩むよりも、戦力過多で選手選考に悩む方が嬉しい悩みだろう。
「レンも少しでも良いからガールズの方チェックしておきなさい。気に入った
「上手く補強できる人材を発掘、選別しなくてはならないね」
チームを強くする為に重要なスカウトには、レンにも裁量を与えられている。
「取り敢えず、余程の事がない限り
「そうね。あの子なら実力も実績も申し分ないから身内贔屓と言われる心配もないわ」
綾瀬は三人姉妹であり、長女が綾瀬、次女がレンの母、三女が皐月の父になる。
ちなみに同性婚が当たり前になっており、同性同士で子供を作る事も可能である。
なので皐月の父も女性同士の夫婦である。
仮に女性同士の夫婦の場合両方とも女性になるので不便な事があり、片方が父として婚姻届けを提出する事になる。なので皐月の父は、女性だが父という事になっているのだ。勿論、男性同士の場合も然りである。
特に同性同士だと呼ぶ時に困ってしまうのだ。
例えば女性同士の夫婦だと二人とも女性なので、お母さんと呼んだ時に二人の内どちらを呼んでいるのかわからないという問題が生じるのである。
追加情報を付け加えると、レンの両親もセラの両親も女性同士である。
そして件の皐月は、ガールズの有名選手だ。
昨年は二年生ながらU―一五日本代表にも選ばれている。恐らくアクシデント等がない限りは、今年も選ばれる事だろう。
なので彼女の場合は綾瀬の身内贔屓と言われる心配はないだろう。
そもそも親族である事は公表していないが、仮に皐月が鎌倉学館に入学したら苗字が同じなので勘繰られる事は間違いない。
「そろそろ寮に戻るよ」
「そう。今日はゆっくり休みなさい」
明日は練習試合なので、綾瀬はレンにゆっくり休むように言う。
「そうするよ」
そうしてレンは寮に戻って行った。
◇ ◇ ◇
レンが理事長室にいる頃、屋内練習場で一人黙々と素振りをしている者がいた。
その素振りをしている者に近付き声を掛ける女性がいる。
「涼。そろそろ休んだ方が良いわ」
素振りしていた者、涼は掛けられた声に反応して素振りを止めた。
「春香」
声を掛けた女性、春香は涼を宥める。
「明日は練習試合なのよ。少しオーバーワーク気味よ」
「あぁ。わかってはいるんだが」
宥められた涼は、春香の他に誰もいないのを確認して続きの台詞を口にする。
「久々の試合だからな。少し落ち着かないんだ」
「そうね。最後に試合してから、もうすぐ二年になるわね」
二人が最後に試合をしたのは彼女達が一年生の頃に出場した、全国高等学校野球選手権神奈川大会の二回戦だ。
その試合に敗戦し当時の三年生達が野球部を引退した日以降、二人は試合をしていない。
「気を紛らわせようと思って素振りをしていたんだが、もう切り上げるよ」
「私も少し緊張しているみたい。お風呂に入って二人で話でもしましょう」
「そうだな。そうしよう」
そうして二人は笑みを受けべ、屋内練習場を後にするのであった。
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