昨日見た夢

春が来た喜びを

 雀子が戯れて表す

桜並木に春風は

 豊かな甘さを運ぶ

その中で人は

    人々は

 ゆるやかな時を噛み締める


新緑の薫りは

 愛しい人に似ているのだろう

恋をしたことはないけれど

 人々の笑顔が愛しい

 子供の声が愛しい

 四季の移ろいが愛しい

 父母の強さが愛しい

 落日の手前が愛しい



 明瞭たる闇が美しい



街中を行く人々は

 常に荷物を抱えている

その腕は静かに表情を得

 上腕二頭筋の筋が

 血管が浮き波立つ皮膚が

 めいめいに広がる体毛が

 揺れゆく中に散る汗が

 時を刻んだその皺が

何気ない影として映る

何気ない珠として写る

何気ない芯として遷る


何気ない真として移る



この世は何から生じたのか

 水か

 火か

 土か

 風か

 闇か

 光か

 物か

 幻か

 夢か

 人か


そうした思いは混沌を生じ

 この世界を覆う

しかしこの混迷は

 ある意味では価値ある彷徨い

 ある意味では温かな彷徨い


大空に浮かぶ雲が

 彼方へと足取り軽く行くように

川を流れてゆく水が

 海原へと繰り出して行くように

大地の底行く溶岩が

 心の奥へと行くように


自由が

迎える者が

存在する世界



それが昨日見た夢



目覚めと共に

涙が溢れる


胸が痛んだ気がして

朧な頭が動く気がして

閉じた瞳で見える気がして


昨日の夢と

 静かに別れる


願わくは一片のぬくもりを

 願わくは温かなこころを

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