その目は何を見つめるのか


三百万か五百万か

長らく続く

我等の栄光を

我等の営みを

我等の憎しみを

天空の彼方より

見つめるのか


数億

数十億ともつかぬ

我等の生を

我等の心を

我等の愚かさを

大地の底より

見つめるのか


空を行くのは         大地を行くのは

小鳥たち              土竜たち

今日も青い空を         今日も黒土を

悠々と                転々と

漫然と                鬱々と

憤然と                整然と

駆け抜けてゆく        掘り抜いて行く

白い雲を追い抜いて    硬い岩を切り裂いて

地上の光を吸い込んで    地上の水を糧とし

夢とも              悲しみとも

悲しみともつかぬ        夢ともつかぬ

その心を             その勇姿を

大いに滾らせ          大いに掲げて

大地を尻目に           空を尻目に


        人を尻目に

        夢を負い目に

        確かなその目で

        生を見つめる


その目は何を見つめるのか


ある街角の

 砂漠の中の

  海の底の

小さな子供

 白い老人

  我等の祖先


その目は何を見つめるのか


夢を追いつつ消えた人も

心を追いつつ消えた人も

欲を追いつつ消えた人も

あの讃歌に

あの傘下に

あの惨禍に

交わり

その力を以って

憎しみを抱く


戦火と戦禍と戦渦

その中には

その中心には

人民


我々がある

我々の友がある

我々の背負うべきものがある


その目は何を見つめるのか


営みの見えるこの球に

我々がある

憎しみの見えるこの球に

我々がある

希望の見えるこの球に

我々がある


この目は何を見つめるべきなのか


消えることの無い火

尽きることの無い災い

果てることの無い憎悪

見えることの無い出口


作り出すことの出来る平和


この目は何を見つめるべきなのか


絶える事の無い時の中で

紡がれた歴史は

絶え間なく炎が揺らぎ

人々の心が揺らぎ

人々の血潮は

歴史という川を作った

幸せという

大地を壊して


その中で人々は

空を見上げる

星を見上げる

月を見上げる

悲しみを負いつつ

憎しみを負いつつ

楽しみを負いつつ

喜びを負いつつ

滔々と流れる

歴史を負いつつ

心を流れる

世界を負いつつ

その妖艶なる

月を見上げる


我らを

頭上から

脇腹から

足元から

心から

見つめる者

その魔力は人々を惑わし

その姿は人々を苦しめる

だが

彼は冷静に

人の営みを

人の苦しみを

人の争いを眺める

侮蔑と諦観とを胸に

我々を見つめる


暗い夜空にただ一人

煌々として輝く月よ

今こそ問おう

その目は何を見つめるのか

この目は何を見るべきか

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