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 空港で迷子になっていた天使の名は五藤理仁ごとう りひとという。

 空港でアルバイトをする兄から、お笑い芸人がロケをしていると連絡を受けて駆け付けたのである。


 その兄の名前は、五藤相成ごとう あいなる。府内の高校に通う十六歳である。一風変わった名前は、外国人の母によるもので、まだ普通の名前をしている弟の名前が少し羨ましかったりする。


 父親である能人よしひとは、戦前財を成した五藤財閥という家系の端っこ生まれ。母親のエレオノーラもヨーロッパ貴族の端っこ生まれだった。


 能人は、大学時代にバックパッカーをしていた。その旅先で、いる場所から近いからと、本家筋が開いたパーティーに若い世代の人数合わせをするため、出席する羽目になったのだ。そこに、同じように花を添えるために駆り出されたエレオノーラがいた。互いに旅好きだった縁から意気投合し、交際に発展し、結婚に至った。エレオノーラは結婚後に、日本人でも呼びやすい<エレン>と名を変えている。

 相成と理仁の他に、小学校五年生になる長女の可憐かれんがいる。

 

 相成が八歳になった頃、父親が本家当主である善吉ぜんきちの養子となり、豪邸へと引っ越すことになった。敷地面積は七百坪。平屋の母屋に、渡り廊下でつながった離れ。裏手には一階が車庫になった、お抱え運転手が住んでいた家もあるほどの豪邸っぷり。

 ただ、家督――当主の権限は善吉の弟が継ぎ、今はその息子が引き継いでいる。だが、養子となった能人は、それまで勤めていた旅行代理店を辞め、今では五藤グループに属する会社へ役員待遇で勤めていたりする。

 義理の祖父亡きあとは、その広大な土地建物の他に、教育資金として二億円が分配されていた。

 

 成長するにしたがい明るい茶髪に落ち着いた相成と可憐と違って、理仁だけはいつまでもけぶるような金髪のまま。喋る言葉は関西弁なのに、見た目はまるっきり外国人。それを心配した善吉が、国際教育を受けられる小中高一貫校へと通うように勧めたこともあって、兄妹三人そろって、そこに通っている。その資金のために残されたお金でもある。

 それ故、相成のお小遣いは月五千円のみ。片道四十五分かけて通っている通学定期代は出してもらえているが、それ以外は自分で働けと、親に言われていた。それもあって、夏休みに空港でアルバイトを始めたのだ。学校での教育の成果もあって、外国語が話せる特技が活き、時給を少しだけ高くしてもらえてもいた。何よりも、空港ではロケも見られる、芸能人にも出くわす。非日常的な空間が味わえて、相成の冒険心はくすぐられた。


 それが、理仁には面白くない。まだ中学生三年生とあって、来年までアルバイトもできない。少ない小遣いに、出かけるときは母親にせびるしかないのだ。早くアルバイトをしてみたくて仕方なかった。


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