第39話 攻防戦の後の大魔法劇

敵対する聖女側と魔王側の戦闘に突入する。



聖女を守りながら襲いかかるルーカスを三人係で攻防している。


ルーカスは強い方だが、聖女側のあの三人は戦いに慣れているようで、連携しながらルーカスを攻めていった。



ミルディアはどちらが勝っても自分に不利だと感じた。このまま待っていても、この状況が変わるわけではない。



(セシア様には悪いけど…あの体から、ルーカスを消さないと!)



因縁のある彼をまずは止めることが優先だ。



ミルディアは力を入れて再び立ち上がり、自分の魔力を確かめた。



(あと、一回分の魔力。少しだけ外すには充分ね。でも、これをしたら、私は当分の間魔法が使えなくなる)



どのみち、このままでは誰もが望まない悲しい終わり方となってしまう。



ミルディアはルーカスに険しい顔を向けて、ギュッと両手を前に組んだ。



その両手に魔力を集めるのに集中すると、仄かに青い光を放って丸い型のエネルギー球が出来ていく。それは段々と大きく変化し、ボールぐらいの大きさに変わった。



「過去、何度も試して、一度も成功したことがないけど……!」


ミルディアは自分の魔力を圧縮したある魔法を使って、彼の行動を止めるつもりだ。



それにはまず、ミルディアはルーカスや聖女達が戦っている小屋の跡地付近に近づいた。



「あなたたちっ!!今すぐ戦いを止めて!これを、よく見ておきなさい!」



今まさに戦っている彼等に向かって、大声で叫ぶ。



その声に初めにアリシアが気付き、顔色を変えた。



「ミルディアっ?あなた、危ないわよ!!」



そう叫んで、そちらに注意が逸れた彼女に、前の三人がハッとする。



「アリシア様!危ない!」



その隙にルーカスが彼女に炎の玉を放った。それに気づいたジョシュアが防ぎ、ユリシスがミルディアの方に怒りに満ちた顔を向けた。



「ミルディア=フランーーっ!貴様ぁああっ!」




剣を持ち構え、ミルディアに絶叫する。



「待て、ユリシス!魔族の男が!」




ザックがハッとして彼を羽交い締めにすると、その前をルーカスが放った炎の玉が通り抜けた。



「なっ…!こいつ…っ」



ユリシスが顔を歪め、ミルディアからルーカスに振り向き、睨みつけた。



「その女に、気を取られすぎだ」



ニッと笑みを浮かべて、つぶやく。 



その様子にミルディアは微かにため息をつき、



「ルーカス!!あなたがそのつもりなら、私も勝手にあなたを封じます!」



再び注意が向くように叫んだ。



ルーカスはうんざりしたように顔を顰めて、ミルディアに冷たい視線を向けた。



「気安く呼ぶな!偽物がっ!」


苛立ったように舌打ちし、怒鳴りつける。



ようやく彼もミルディアの方を向いた。



ミルディアはフッと笑い、自分の掌にあるエネルギー球を見せつけた。



「そう言っていられるのも、今のうちだよルーカス。これはあなた自身をここから遠ざける優れもの。セシア様の身体から、あなたを消す!」



ミルディアは高らかに宣言して、ルーカスや聖女達の前で、そのエネルギー球を地面へと叩きつけた。



グニャリ、と地面に穴が空いて、球が沈んだ。



だが、それはすぐには何も起きず、皆が訝しんだ。



「どうなっているんだ?何が起きる?」



「今のはなんだろ?不発?」




ザックとジョシュアが声に出した時だ。




数メートル前の地面がボコっ!と盛り上がり、次の瞬間、ルーカスの方へとそれが素早い速さで走っていった。



「これは…!」



ハッとしたようにルーカスが顔色を変えて、サッとそこから後ろへと跳躍するが、それに合わせて地面を走る何かも、彼の向かう方へと追いかけていく。



「無駄よ、ルーカス」



ミルディアの不敵な笑みに、余裕のあったルーカスの表情が変化する。



「さぁ、その身体から、出ていきなさい!」



勝利を目前にした彼女がそう叫ぶと、ルーカスの周りの地面が盛り上がって、何かが、バッ!と勢いよく姿を現した。


「あ、あれは…!昔、大魔女が使っていたと言う古代魔法!」



メアリーが人々を操り、その身に呪いをかけた逆魔法。



「無駄だ。こんな子供騙しの魔法では!」



ルーカスが肌で感じたその魔法には、力がなかった。


ミルディア自身もそれはわかっている。しかし、それだけで今のルーカスには充分だ。



地面から出たエネルギー球は、分散し、ルーカスの周りを取り囲んだ。それは一瞬だった。



ルーカスが己の力でそれを防ぐために、回避しようとした彼の足元が再び凍りつく。



「…なっ!?馬鹿なっ!」



驚いたように足を動かそうとするルーカルだが、彼を囲んだエネルギー球がパキパキ!と瞬時に氷の玉となり、バチン!!と弾け、彼へと襲い掛かった。



「ぐぅぁぁあああああーーっ!!!」



刹那、ルーカスの身体が放電した。



凄まじい威力で氷から電子に変わったそれは、彼が放った雷魔法のように彼を攻撃した。



ドックン!と大きな心臓の音がして、セシアの身体から、ルーカスの魂が抜けた。



「せ、成功した…!」



一か八かの勝負だった。




ドサ!と地面に倒れるセシアの身体。抜けたルーカスの魂、幽体はハッとしたように自身の手を見て自分が透けている事に気づくと、ミルディアの方に鋭い視線を向けた。




『女…貴様、本当にアイツの…っ!』



その後の言葉は続かなかった。



突然、彼の身体の中心から剣が見えた。



ドキ!としてミルディアは目を見開く。



その後ろにいつの間にかユリシスが立ち、幽体のルーカスを剣で突き刺したのだ。



もちろん、幽体の彼にはダメージはない。


普通の剣なら通りすぎる。



しかし、このとき持っていたユリシスの剣は、聖剣に近いものだ。



『なっ…?ごほっ…ガハッ!!』



不思議そうにルーカスが後ろを振り向き、自身を刺したユリシスを信じられないように見つめて、彼はまるで生身の時のように血を吐いた。



「…えっ?な、何で!?そんな…!」



予想外の出来事にミルディアは驚愕し、ハッとする。



その場に崩れた幽体のルーカスを見つめるユリシスの目がギラッと怪しく光った。



「そこから逃げてぇっ!ルーカスっ!」



そのとき何故かミルディアは彼を助けなければと思い、自然と名前を叫びながら彼の元へと駆けつけた。



「これで…終わりだ!」




それと同時にユリシスがルーカスを冷たく見下ろして、怒りの孕んだ声を向けて剣を振り上げた。その光景は、昔、メアリーが呪ったあの王子の姿と重なり、ぞくりとした。




「ユリシス=グランチェス!そこまでだっ!!」



刹那、何者かがユリシスを止めた。


ルーカスに向かって振り下ろされていたユリシスの剣が、フッ!と煙のように消えたのだ。


「なっ…!?」


驚いたように動きを止めたユリシス。



駆けつけていたミルディアも驚いて足を止め、青ざめた顔で声のした方へと振り向いた。



「それは使うなと言ったはずだ。聖女様の前で、その命を無駄にする気か?」




突如、邸の方から颯爽と現れたのは、白い軍服を着た美青年だった。



「お、王子様!?な、何故こちらに…!」



ハッとしたように、ユリシスの仲間のザックが、青年の姿を見て驚いたように声を上げた。



「カイン様!」


「王子!!」



それに続きアリシアの上擦った呼び声と、もう一人の仲間、ジョシュアの声がした。



「カイン様!何故そんな…、止めて…っ」



ユリシスは自分の方に近づいてくる王子カインを見つめ、止められたことへの不満そうな顔で彼に問いかけようとし、グッと言葉を詰まらせた。



『…クラウス…、…ゼン……?』



そこに、苦しみに埋まっていた幽体のルーカスが、何故か王子と呼ばれた青年を見て驚き、すぐに怯えたような表情を浮かべた。



「え…っ?うそでしょ!?なんで、なんであの男が…っ!?」



するとそのとき、ミルディアが現れた王子を見て、幽体のルーカスよりも怯えたように青ざめ、取り乱した。


そこから後退り、顔を振って、信じられないものを見たように王子を見つめた。



そのカイン王子と呼ばれた青年の顔は、昔、メアリーが呪いをかけたあの王子とそっくりだったのだ。






























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