第32話 元敵の騎士とご対面

使用人達を周りに集め、聞き込みをしている聖女達。



証拠は全てあの破壊された小屋にある。



どうにかして危機を脱出できたら…。



ミルディアはゆっくりと、そこから離れようとした。



「何をしているんだ?」



刹那、背後から声をかけられた。



「ぎゃわっ!?」



驚きに変な声が出た。



慌てて振り向くと、驚いたようにミルディアを見つめるセシアがいた。



「いきなり声をかけないで下さいよ!びっくりするじゃないですか!」



文句をつける彼女に、彼は怪訝な顔をした。



「何でそんな場所に?早く父親を助けなくていいのか?」


「そ、それが大変なことに…っ」



ミルディアがセシアの言葉にハッとして、今の状況を説明をしようとした、そのとき。



「そこで何をしている?」



背後の反対の小屋があった方向から、声がした。



ドキン!とミルディアの心臓が跳ね上がる。



(ひぃぃっ!見つかった!)



セシアのせいで逃げる前に見つかった。ミルディアは心の中で悲鳴を上げた。




「お前は…」



すると、目の前のセシアが、ミルディアの背後にいる人物を見て驚いたように目を見開いた。



「先ほどからこちらの様子を見ていたのは……あっ!?あなたは…!」




その人物が怪しい者を見るようにミルディアを見て話しかけたが、その前にセシアがいることに気づき、ハッと声を上げた。



「突然会話に入ってくるとは、無作法ですね。その身なりからして騎士のようですが、何故ここにいるのですか?」



セシアがさりげなくミルディアの横に立って、彼に鋭い視線を向けて問いかけた。



ミルディアはその間に自分の背後の方を振り向いた。そこにいたのはあの白い騎士服を着た男、ユリシスだった。



やっぱりそうかと、小さく舌を鳴らす。



「大変失礼しました!ご挨拶もなしに突然このように、申し訳ごさまいません!私は国家機密部隊に所属しているユリシス=ルビアと申します。先々週からあなた様の妹君であられるアリシア様が国家機密の重要人物『聖女』様に選ばれまして、その護衛に私が仕えることになりました」



「はっ…?国家機密の…アリシアが、聖女?」



王宮に仕える父や兄がいながらもセシアの耳に、そのことは届いていなかった。



初めて聞く様子の彼に、ミルディアは隣りでハラハラした。



「先週にようやくサリオン伯爵と会談しまして、アリシア様のことを公表しました。第二王子、ビィートリッヒ殿下が赤、私が白の『聖騎士』の称号を受け、このようにお供させてもらっております」



簡単な説明を入れて告げたユリシスを、セシアは微かに眉をひそめ、ため息をついた。



「なるほど…わかりました。妹が聖女だと、決まったわけですね」



確認するように問いかけると、ユリシスは少しだけ口元を上げてうなずいた。



「それではあなたたちは妹を連れて、邸で何をしていたんですか?」



「それなんですが、聖女様が本格的に旅をする事になったため、邸の方々にお別れの挨拶をと、ご帰還されました。その直後に我々のいる前で温室近くの小屋が爆発する騒ぎがあったのです。その爆発騒ぎで、こちらの侍女の方が、魔族が使う魔法陣の描かれた紙切れを見つけまして、この邸に魔族が潜んでいるかもしれないと、その調査を始めたところなんです」



その説明にミルディアは心なしか青ざめていた。セシアは眉を寄せ、ユリシスにもっと詳しい内容を聞くことにした。




「それはなんともありがたい話です。妹のために…私たち、使用人もあなた方がいれば安心です。しかし、この小屋の爆発なんですが、少し解せませんね。この邸に魔族がいるなんて、本当でしょうか?」



セシアは彼の説明に相槌を打ち、彼らがいると安心するなどと嘘をついてから、すぐに顔を曇らせると、本当に魔族が紛れ込んでいるのか聞き返した。



すると、ユリシスは真面目な顔つきになり、セシアに鋭い視線を向ける。



「ええ、間違いなく、あれは魔族のものです。魔法陣が描かれたという紙切れなんですが、あれは端が焦げて、燃えた跡だったんです。その跡から推測するに、あれは初めから小屋にあった物、あるいはその付近で使用した可能性のある物でした。そこから分析し、一番怪しいのはその小屋を出入りしていた者でしょう」



ユリシスの推測は、ほぼ間違いなく、ミルディアのことを示している。



そのことにセシアは驚いたように目を見張り、一瞬ミルディアの方に視線を向けた。



この推測はすでに正しいものだったため、ミルディアはなんとかバレないように考えるのだが、頭が回らず対策が思い浮かばない。ユリシスが目の前にいるから余計焦り混乱してしまうのだ。




「あの小屋は…この、庭師の娘である、ミルディアが使用していた」



窮地に立つミルディアの前で、セシアは隠すことなく本当のことを話した。



一瞬、何を言われたのか理解できず、ミルディアの思考は停止した。



ユリシスは驚いたようにミルディアを見て険しい表情をした。



「それは、この娘が犯人ということか!」



その瞬間、チャキ、と剣を抜く音がした。



ハッと我に返り、顔を強張らせる。ユリシスはいまにも斬りかかりそうな様子で、ミルディアを睨みつけていた。



「待って下さい!彼女は違いますよ。普段小屋を使っているのは確かですが、小屋が爆発するまで彼女はそこにいたんです。しかもその小屋の中には自分の実の父親がいた。彼女が犯人なわけがない!」



セシアは慌てて言い加えた。険しい顔で怪しむユリシスだったが、彼の言葉に眉を寄せて怪訝な表情を浮かべた。



「ええっとつまり、彼女は偶然そこに居座せただけで、この件の犯人ではないと?下敷きになっていたのは、彼女の父親だからあり得ない事だと?」



セシアの言葉を汲み取って、ミルディアが犯人ではないのか、聞き返した。



「そ、そうです!私の父は、爆発に巻き込まれ、私もこの通り、怪我をしました」



このチャンスを見逃さないと、ミルディアはあの小屋の爆発で自分の身体に受けた傷をユリシスに見せつけた。



服は所々焦げて破れており、こびりついた血の跡やまだ回復していない傷口のある場所を示すと、ユリシスは痛々しい顔をした。



「これは確かに、あなたが犯人なら爆発を防いでいるはず…。そんな怪我するのはおかしいですね。それにあの下敷きになっていた男性が父親ということも、犯人ではない可能性が高くなる。あなたに伺いますが、その現場で犯人らしき人物を見たとか、何か心当たりはないのですか?」




ユリシスはセシアの話を信じたのか、ミルディアを犯人ではないと考え、早速彼女に聞き込みをした。



ミルディアは疑いが晴れて、内心ホッとした。



「ええっと、私が小屋を出た瞬間でしたから、そうですね。あのとき、背後…小屋から鳥肌が立つ悪寒のような…居心地の悪い不穏な空気を感じました」



「悪寒…不穏な空気。魔法が発動する際の、あの独特な雰囲気だろうか…?」



ミルディアの答えに、顎に手を当て、難しい顔で考え込む。



「魔法と言われても、私たち一般人には、あまり感じないものです。ですが、その後に爆発したことを考えれば、魔法が発動したのは確かかもしれません」



ミルディアが口を開こうとしたら、セシアが横から彼女の肩を掴み、「何も言うな」と黙らせて、代わりに言いたいことを告げた。



考え込んでいたユリシスはその様子を見ていなかったようで、顔を上げて、セシアを真っ直ぐに見つめた。



「セシア殿もそう考えますか…。わかりました。他の仲間達も聞き込みしていることですし、一旦、戻ります。誰かが証拠を見つけたかもしれません。ああ、それとセシア殿。私の仲間に会ってくださいませんか?アリシア様とも積もる話があるでしょうし、どうでしょうか?」



ユリシスはここで一旦話を区切り、セシアに自分の仲間たち、聖女ご一行と会ってくれるように頼んだ。



セシアは一瞬渋い顔つきになったが、アリシアが聖女となったのなら会った方がいいと考え直し、ため息とともに頷いた。




「そうですね…。爆発騒ぎも気になるし、彼女も一緒によろしいですか?」



ぽんと、ミルディアの肩に手を置いて、彼女も巻き込んだ。



「え…?あ、そ、そうですね!お父さんは大丈夫かな…」



ミルディアはぼんやりと父親のことを考え反応に遅れたが、その返事にセシアは微かに頷き、ユリシスは神妙な様子で頷き返した。





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