目は口ほどにモノを言う

 平日ということもあり、交通量は少なめ。

 タバコを吸い終わったタイミングを見計らったように宗則が私に声を掛ける。

「そろそろ一本目行くべか?」

「アタシ先行だとなんかデジャブ感あるから先行ってよ」

「らじゃー」と言いながらメットを被る宗則。


「キュカカ、カ、、ボッ」

「キュッ、ッボッ。ガコッ」

 宗則のCBがするするっと私の横を通り過ぎる。私もガチャリとギアを入れてゆっくりと宗則に続いた。

 ほんの数日前に孝子が派手に事故ったばかりだがお互いそのことは口に出さない。言霊とかそういうのを信じているわけではないけど、かといってないがしろにできないのが私たちバイク乗り。いつもより慎重に走り出した。

 まずは身体の慣らし運転。ペースはゆっくり、いつもより大きな弧を描きながら、バイクを寝かし始めるポイントをイメージして走る。宗則も少しづつ確認する様に大袈裟なフォームとラインで前を走っている。遅めなペースなので、曲がり過ぎての寝かし直しやラインの修正を所々で挟む。

 私が転んだ魔のコーナーも孝子がひっくり返ったコーナーも無事クリアしていつものUターンポイント。走りながら左にある空き地を一瞥する。立て看板引っこ抜いてブレーキペダル折ったな、とか半年以上経っているのに昨日の事のように思い出す。GPZも無事直してこうしてまた走れている。実に感慨深い。


 目の前で宗則が慎重にUターンをする。私も倣って慎重に転回する。宗則のCBはセパハンになっているのでちょっと辛そうだ。車体の取り回しにも慣れてきたのかほんの少し私の方が早く転回出来たので、そのままクラッチを繋いで「ボアァッ」と宗則の横に付けてシールドを撥ね上げる。

「宗則、スピンターンとかで一気にやっちゃえばいいのに!」

「いや、原チャじゃないんだから。こんなクソ重たいので出来ねーべ」

「なんだ、アタシゃてっきりタイヤ減らしたくないからだと思ってたよ」

「んなわけねーべ」

 お互いに目しか見えないが宗則が笑顔なのだけはわかった。いい感じにリラックスして、シールドを下ろし上りに入った。


 気持ちよく流す感じの宗則のペースに無理なくついて行けている。コソ練の成果だろうか? 孝子と走っていても自分の成長はさほど感じられなかった。

 孝子の後ろを走っているときは何となくこちらのリズムが狂ってしまう事が多いんだけど、宗則の後ろは走りやすい。ブレーキと体重移動、立ち上がりでのアクセルの開け始め、それらがリズミカルに行われていてわかりやすいのと、コーナーからコーナーへのライン取りが分かりやすく、ひとつひとつがきれいに繋がっていくような感じだ。孝子の場合、その都度リズムが違うし、アプローチモーションもなんか一気に全てが終わっているように見える。あと、ヒラヒラとした上半身をつい魅入ってしまうのが良くない。


 数コーナーを終えたところで前方を走る二〜三台のファミリーカーに追いついた。この一本はここで終了だ。ペースを落として意識を身体の動かし方やブレーキングなどの再確認に持っていく。宗則もライン取りを変えて色々と試している様子。

 前を走る最後尾の車がウインカーを出して左端に寄る。こちらも左手を軽く上げてパスして行く。ま、さらにもう二台前にいるから何も変わらないんだけどさ。好意は好意、素直に受け取っておく。

 しとどの窟を通り過ぎてから、ウインカーを出して一度道路端に寄せる。道を譲ってくれた車に今度はこちらが抜かれていく。まぁ、向こうもわかっていることだろうけど、やっぱこういうのって迷惑な行為だよねきっと。対向車線を確認して転回し休憩に入らずに下りに入る。

 少しずつ身体が温まってきた。

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