制動索
ポッキリ。
アルミの鋳物と削りだしや押し出し成形物とでは曲げ戻しに関する強度が全然違うとか。折れたリアブレーキペダルの断面を見ながら宗則が説明してくれた。
リアブレーキがかかりっぱなしになる問題はとりあえず根本から解消されたので、フロントブレーキレバーを機能させることさえ出来れば、あとはサイレンサーを差し込めばゆっくりと慎重になら自走で帰れるだろう。
宗則がいつも車載しているという結束バンドや針金やビニールテープ。これらを駆使して、GPZの車載工具の中でも妙に長い六角レンチをレバーの根元に繋げた。何回かトライアンドエラーを繰り返し、ビニールテープを巻いてから針金で縛り付けて結束バンドで補強する方法が一番安定した。
ついでに幾つかの
何とか自走出来る目処が立ったので、引っこ抜いた看板を元の位置に差し込んで、まずは大観山PAに向かった。
事前に宗則と打ち合わせしていた通り、このままで行けそうだなという私の判断でPAは素通りし、ターンパイクへ進入した。
低めの回転数でしっかりとエンブレを使う。後ろは宗則が押さえてくれているが、飛ばしてくる車やバイクが来ていないかを頻繁に確認する。
料金所付近で宗則のCBがリズミカルな排気音をアクセルワークで奏でて私の前に出る。先に料金所に入りこちらに目線を送りながら二台分の料金を払う。これも打ち合わせ通りだ。私は止まらずにそのまま進めるようなタイミングで宗則の後を抜ける予定。
……だったのだが。予想外に料金所のおじさんが処理に手こずり、私は渋々ブレーキングモーションに入る。
簡易フロントブレーキレバーを慎重に握るとぬいぐるみでも握るような柔らかい手応えだけで、制動力をまるで感じない「!!っ」焦った私は右足のつま先でリアブレーキペダルの辺りを踏み踏みとエア操作してさらに焦る。
宗則のCBの脇をぶつかるギリギリですり抜けて料金所を突破。そのまま駐車中のバイクや車を躱しながら歩道の縁石にフロントタイヤをまっすぐにぶつけて停車した。自分もシート上を滑り、股間をガソリンタンクにぶつけた。
何とか止まることが出来たが、戦闘機が空母に帰ってきた時、アレスティングワイヤーというものに機体を引っかけて勢いを殺して止めている映像が頭に浮かんだ。
「ブレーキ効かないよっ!」バイクを停めてこちらに歩いてきた宗則に叫ぶ。
「あれー、さっきは効いたんだけどなぁ」と首を傾げながらGPZのブレーキを握ってみる宗則。
「でしょ?」
「うーん、このやわらかさが制動時のヌケ感を演出してるね」
「ファッション雑誌っぽく言っても使い方ちがうからっ」
「倒れたときにエア噛んでるんじゃね?」と言いながらレバーをじっくり数回ストロークさせる宗則。手を離して、握ってみなという仕草をする。
「お、直ってる。なんで?」
「根本的にはエア抜きしないとだけど、信号待ちとかでさっきみたいにゆっくり数回じんわりと握るのを繰り返しとけばとりあえずの応急処置になるから」と一時的にタッチを改善する方法を教えてくれた。
帰りの一般道も出来るだけ早めにブレーキを掛けて止まれるように、見るのは同一進行方向の歩行者用信号。
その後は、念のため宗則も最後までついてきてくれたが、何事もなく無事自宅に辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます