不法投棄
暫くして、私のGPZで下っていった宗則が歩いて戻ってきた。
革ツナギにライディングブーツ、ヘルメットは脱いで手に持ってはいるが、さすがに汗だくだ。
「ごめん。後でジュースでも奢らせて」
「別にいいって。逆の時は頼むよ」宗則はそう言ってはいたが、私にはこいつが転倒する姿は想像出来なかった。
宗則のCBのタンデム席に跨りタンデムベルトを握りしめる。私が「オッケ」と伝えると宗則がゆっくりと走り出した。スムーズな加減速に自分との運転技術の差を感じた。
飛ばして走るだけじゃなく、こういう何でもないことが普通にできるってのが上手い運転なんだと思う。速いイコール上手いではない。
少し開けた道路脇の空き地に私のGPZが停められていた。
「ちょっと頼む」と言って、タンデム席から降りた私にCBのハンドルを預けると、宗則がその辺からぺちゃんこに潰れた空き缶を拾ってきた。
サイドスタンドの下に空き缶を入れてCBを停める。GPZのサイドスタンド下にも空き缶が入れられていた。
良くないことなんだけど、当たり前のようにこうやってゴミは捨てられていて、それでも今回はそれが役に立っている。
宗則がCBに車載しているセレクト工具と、結束バンドやら針金やらを取り出す。
私のGPZの中には純正車載工具とボロ布、伸び伸びになったツーリングネットくらいしか入っていない。こういう所は見習わないとね。
「とりあえず、フロントのブレーキレバーとリアのブレーキペダルだな」と言う宗則。そういえば宗則どうやって止まったんだ? フロントブレーキのレバーは根元辺りでポッキリと折れている。
まずはかかりっぱなしのリアブレーキだ。
GPZはステップ周りが特殊な構造になっていて、シートフレームとも繋がっている。リアブレーキペダルの軸はその裏側に固定されていて、……要は整備性が悪いってこと。
車載工具の中にある図太いレンチで分解を試みたがあまりにも固く、秒で挫折した。
方針を切替えて、曲がってしまったペダルを曲げ戻そうとペダル先端にプラグレンチを突っ込んだり、メガネレンチを引っかけてみたりしたがやはりだめ。
「なんか長いパイプでもあればなぁ」と辺りを見渡す宗則。
お互いバラバラに周囲を散策したが何も見つからず。
「あれ、抜けないかなぁ」と道路標識を指さす私。
「暴走族漫画の主人公ならまぁ」と言った後、宗則はなにか思い出したように空き地の奥に入っていき、不法投棄禁止と書かれた看板を引き摺りながら戻ってきた。
「おー、宗則ナイス!」
私がGPZを倒れないように支え、宗則が看板の支柱の根元をペダルに差し込んで思い切り踏ん張る。数回勢いを付けてトライを繰り返すうちに少しずつだが手応えが出てきて、あと少しと言うところで「メリッ」と音を立ててブレーキペダルが折れた。
「あちゃー」と言って看板を杖にして立ち上がる宗則。
「とりあえずブレーキかかりっぱなしよりは進んだんじゃない?」と私。
後ろの道路では、窓から身を乗り出して景色を楽しんでいた子供たちとその母親が怪訝そうな顔で、不法投棄禁止看板と戯れている私たちを見ながらミニバンで通り過ぎていった。
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