宴会
夕方からバイクサークルのメンバーも合流して、私の転倒シチュエーションの分析と今後の修理プランについての意見交換。……という名の飲み会が始まった。
買い出しはバイトと講義を終えた孝子とユキとヒロシの三人。なぜなら、私と宗則は整備後半からすでに発泡酒をキメていたから。
学生なんで季節関係なくいつでも鍋なんだけど、今日の鍋奉行宗則の買い出し部隊へのリクエストは大量のウインナーソーセージとキャベツ。調味料はマスタードとケチャップとカレー粉とコンソメ。シャウエッセン鍋らしい。価格的にシャウエッセンを買えないのだからそのネーミングはどうなのと思ったが言わなかった。
だって面白そうなんだもん!
出汁にコンソメを数個放り込んで、ざく切りのキャベツを放り込む。煮立ってからしばらくしてキャベツがヘロヘロになったのを確認して、各自自分のウインナーを投下する。ウインナーがいい音ではじけそうになったら、マスタードかカレー粉を混ぜたケチャップをつけてヘロヘロキャベツと共にほおばる。
いつもながら乾杯とかそういうものは無い。
現バイクサークルメンバーは総勢で六人、その内ツーリングの時だけ参加するメンバーが一人、四年生の先輩たち二人は就職活動で忙しく、メインで集まるメンバーはマックスで五人。
しかし、ちょくちょく顔は出しているが私と孝子の二人は実は正規メンバーではないので、来年四年生の先輩二人が卒業すると、大学側が決めているサークル活動継続条件である五人を下回ってしまう。
部室棟の小部屋を追い出されてしまうのは厳しいので来年新入生が入らなかったら私と孝子が正式に入部するといつかの飲み会で私も孝子も約束したらしい。
二人とも泥酔していて全く覚えていないけど。
そもそも、みんな私が凹んでいると思って集まってくれたんだと思うんだけど、飲み始めて30分もしない内にいつも通りの飲み会になる。
コロコロと変わっていく話題は、誰が話し手か誰が聞き手か、そんな境目がない。こんな関係がずっと続くといいなと思う。考えたくはないけど、いつか就職や結婚をして家庭や子供を持ったりするとこんな時間は無くなっちゃうんじゃないかと、そんな考えが楽しい時に限って頭をよぎる。一瞬、暗い感情が表情に出そうになるけどすぐに消し去る。
今のこの時間を楽しまない手はないんだ。しっかり焼き付けるんだ。
さてさて、明確に存在はしないながらも、話題の主導権が孝子のターンでは、孝子の大型教習の話。
孝子の身長は決して低い方では無いのだけど、華奢な体つきの孝子は車体の重さに苦労しているようだった。免許が取れても絶対に重いバイクは買わないそうだ。
最初、孝子は大型免許なんて必要ないって言っていたんだけど、以前峠で宗則のCBに孝子のアプリリアがついていけなかったことがあって、それがずっと引っかかっていたみたいで、私が大型免許を取ってGPZがいよいよ走れそうになって来た頃から孝子は大型教習所に通い始めた。
私のバイクの排気量がいくら上がったところで峠を走る孝子のスピードには到底かなうはずないんだから、最終的なトリガーが私になったのはちと荷が重い。まぁユキはすでに大型に乗っているから、実質紅三点のうち一人だけ中型限定ってのは孝子のプライドが許さなかったのかもしれない。
ユキのターン。今のところの、正式な意味だと紅一点のユキは自分のカタナをなにかのアニメだか漫画だかの影響で赤いカタナにしたいと熱弁している。ユキは本人も両親もアニメやゲームが好きな、いわゆるオタクというやつだが、親の影響でオタクになったのではないというのが酔っぱらった時の口癖だ。
「おまえのはカタナじゃなくて短刀だろ」とヒロシに突っ込まれている。
ヒロシとユキはツーリングライダー同士。気が合うようで、いつもツーリング用グッズやツーリング中に見つけたラーメン屋の話で盛り上がっている。
ヒロシのターンはまだ始まらない。ヒロシはサークル企画のツーリング以外にもソロツーに良く出かけているみたいで、いつもユキに迷惑なお土産を買ってくる。
ペナントとか提灯とかいったいどこで探してくるのか、そういう旅の思い出話はすごく面白いんだけど、ヒロシはいつもへべれけにならないと饒舌にならないのでもっと飲まそうと思う。
ただしヒロシは饒舌になった時の会話をほとんど覚えていないから、こちらも同じ話を聞かされるかもしれないという諸刃の剣。
宗則のターン、あと孝子も。宗則は酔うといつもCBのサスやキャブのセッティングの苦労話をする、なかなか思い通りのセッティングが出ないといつも言っているが、楽しんでるようにしか聞こえない。
データ派の宗則と感覚派の孝子はこの辺りから白熱して他者を寄せ付けない。
もういっそ付き合えばいいのにと思う。
幸い、私のバイクの修理プランは、走ることに関してだけならば前後ブレーキレバーの交換とサイレンサーの再装着で事足りそうだけど、やはりある程度見た目もなんとかしたいのが本音。カウルやウインカーの中古パーツを集めて、なんとかなるものは補修で済まそうということになった。
実家暮らしのユキが広くはないが庭先を貸してくれることになり、補修が終わったらカウルの塗装を自分たちでやろうということになった。きっとユキは自分のカタナを塗るときの予行演習にと思ってるんだろうけど、ユキの家にはコンプレッサーがあるので正直助かる、喜んで人身御供になるよ。
私も父が単身赴任しているから庭先を使えるっちゃー使えるんだけど、このコンプレッサーの存在は正直大きい。
全塗装するなら何色がいいかとか、どうせならカスタムしようとかそんな話題を肴にお酒がすすむ。
みんなには悪いけど、私はバイクの色は今のまま黒でいいと思うんだ。宗則のCBみたいにタバコのパッケージみたいな派手な色は苦手だし、ユキみたいに何かに憧れて色を塗り替えたい気持ちは正直わからない。
何色にも染まらない黒がいいんだ。
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