「って、訳なんす…」

 曰く。最近埼玉のタチの悪い不良どもは、善良で邪魔でしかなかった喧嘩番長がいなくなったことをいいことに、やれカツアゲだの進学校へのカチコミだの、まぁそれはもうさまざまな悪行をしているらしい。それに我慢ならなくなった虎徹が、息巻いて調子に乗っている暴走族の連中に喧嘩を売ったところ、コテンパンに返り討ちにされた、という訳であった。

 予想外の惨状に、京は深いため息とともに文字通り頭を抱えた。

(まさか俺がいないことによってそんな影響がでるとはな…)

 なんとも言えない複雑な気持ちに、京は頭が痛くなる思いをした。

「わかった。仕方ねぇ…」

 低い声で、顔をしかめながら、彼は瞳を光らせる。

「締めに行くか」

「!!」

 その言葉に、虎徹がとても嬉しそうにパッと表情を明るくさせる。

「お供します!兄貴!!」

 こうして、再び喧嘩番長、伊吹京が舞い戻ってくることとなった。



 ザッザッと、まるで昭和時代のドラマで使われる効果音のような足音を響かせて、京はポケットに手を突っ込み、現役時代(笑)の時のように黒髪をオールバックに決め込んでいた。

「あぁ…俺は兄貴のその姿をまた拝めて幸せっす」

 折れていない方の拳を胸に当てて、しみじみという虎徹に、彼はうんざりとした顔をした。

「俺はもう二度とこんな格好したくねぇと思ってたけどな」

「あははは…」

 流石に苦笑を返して、虎徹はパーカーのポケットからメモ手帳を取り出す。

「とりあえず、俺なりに集めた情報なんすけど」

 京はそれに耳を傾ける。

「主に目立った悪行をしているのは唯我崎高校ゆいがさきこうこうのやつらっす」

 それに、彼は訝しげに首を傾げる。はて、自分がまだここにいた時、唯我崎高校…略して我崎がさきはそこそこの不良はいたものの、目立った悪さをするような肝の座った輩はいなかったはずだ。

「ここ最近、我崎のトップが変わったんすよ。そいつがかなりのワルで」

 なるほどと、虎徹の話に相槌を打つ。

「我崎のやつら、そいつが怖くて逆らえないんすよ。奴は根っからの腐りもんで、不良を中途半端にやろうもんなら殴り飛ばすっつー、やばいやつです。名前は播磨兼はりまけん

 厄介者が出てきたものだ。それは不穏にもなるだろう。

「なるほどな」

 低くつぶやいて、京はにっと笑った。まさしく、真の悪人ヅラで。

「つまりは、そいつを潰せば一件落着ってなわけだ」

「さっすが兄貴!飲み込みが早い!!」

 パァッと明るい顔をして、虎徹は松葉杖を振り回すのだった。

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