京は美代と崇に純生ロールケーキをお土産として購入した。鈴木は宣言通りにマドレーヌを購入。二人とも満足げに、杉浦に別れを告げて店をでた。

「どうだったよ、伊吹。杉浦家のケーキは」

「うまかった。俺も家庭科部であんなやつ、作れるようになりてぇな」

 まだまだ時間がかかりそうではあるけど、いつかは作れるようになりたい。そうすれば、自分の好きなものを好きなだけ食べることができる。最高だ。

「おぉ、よかった。明日杉浦に言ってやれよ。喜ぶぜ」

「ああ」

 それはもちろんそのつもりだ。

「そういや」

 ふと、思い出したように鈴木が口を開く。京は黙って続きを待った。

「南條ゲンキー?」

 それに、軽く目を丸くして瞬かせる。そういえば、最近こちらに遊びにきていない。

「…いや、最近は顔を見せにこない」

「そっかー。まぁ県跨いでるしな。そうそう来れなくても仕方ないか」

「そう、だな」

 なんとなく、腑に落ちなくて。京は曖昧に返す。

「お、やっぱ寂しい?」

「…いや」

 軽く眉間にシワを寄せて、彼は首を緩く振った。

「週末、虎徹の家に行ってみる」

「おぉ、きっと喜ぶよ。俺も一緒に行きたいところだけど、今週末は弟達と遊ぶ約束しちゃってるんだよな〜。よろしく言っといてくれ」

「ああ」

(むしろ、来れなくてよかった。埼玉に来られるのはいろいろと危ねぇからな)

 主に身バレ。

 京はまだ会ったことのない鈴木の弟達に心の中で感謝した。



 日曜日。美代に虎徹の家へ行くことを話したらお土産を持たされたので、それを持って電車に乗り込む。埼玉に行くのは転校して以来久々だ。何か変わったところはあるだろうか。

 なんとなくそわそわした気持ちで、京は電車の座席でゆっくりと目を閉じた。

 

 終点を告げる放送で、京は目を覚ました。小さく欠伸を漏らして、立ち上がる。

 駅を出ると、早くも懐かしい景色に目を細めた。

「あんま変わってねぇな」

 ポツリとつぶやいて、京はゆっくりと虎徹の家へと歩き出す。彼の自宅は駅のすぐ近くのアパートの一室だ。この近くにある、寂れたコンビニでまだ小学生だった虎徹がタチの悪い不良に絡まれていたのを助けたのだ。懐かしい。あの時はお気に入りのどら焼き屋がたまたま休みで、食べたかったのに食べれなくてイラついていたのだ。

 あれはスッキリできたので、ある意味あの不良どもには感謝である。

 ふんと息をついて、虎徹の家のアパートの階段を登った。

 インターホンを押す。中から虎徹の声が聞こえた。

「はーい、どちらさんですかー?ちょっと待ってくださいね」

 なんだ、元気じゃないか。と、ほっと息をついたのも束の間、ドアを開けた虎徹の姿に硬直した。

「……どうした、その足と腕」

「あ、兄貴!?」

 目をまん丸くして、わたわたと慌てるその虎徹の左腕と右足には、骨折の印である包帯が巻かれていた。

「え、えぇっと、そこの階段で転んじゃって。いやぁ、俺もドジっすねー」

 あはははと笑う虎徹を、京はじっとりと見つめる。徐々にその笑い声が小さくなっていく。

「おい虎徹」

「っす…」

「俺に嘘、つけねぇよなぁ?」

 低い声に、虎徹は観念したようにがくりとうなだれた。

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